たった一人の家族のために
気が付けば、部屋はすでに火の海だった。部屋のたった一つの出口は燃え盛る炎でふさがれていて、翼は逃げれても、明は逃げることは出来なかった。
翼は明に駆け寄った。そして、明の肩をがっしりと掴む。
「なぜですか!!なぜ、こんなことをしたのですか!!?」
翼は掴む力を入れながらそう叫ぶ。そんな翼に対して明は、翼をゆっくりと抱きしめた。
「翼、よく聞いて。あなたは、私と我が父の願望のために、この国に縛りつけられ、操られ、沢山苦しい思いをさせてしまいました。本当に、ごめんね。あなたの命はあなたのものです。だから、これからはあなたは、あなたのために生きていて欲しいの。そのためなら私は、業火に焼き尽くされて死んでいっても構わない。だって、私の大切なたった一人の家族であるあなたが自由に生きていけることが私の願いだから。」
明は翼を強く抱き寄せた。
「これだけは、覚えておいて。例えあなたが人ではなくとも、あなたが何をしようとも、あなたは私のたった一人の妹だから。」
明は翼をゆっくりの自分の体から放し優しく肩に手を置いた。そして、翼を見つめ、ゆっくりと笑顔で笑って見せた。
「翼、ごめんね。そして、ありがとう。」
視界が真っ赤に染まり、肩から炎とは違う熱が離れていった。そして翼は、暗闇の中で、眠りについた。
3時間が経過した。朱雀城も城下町も、すっかり燃え尽き、面影がなくなっていた。
朱雀城の跡で、ボコンと音が鳴り、燃え尽きた木片の中から人影が立ち上がった。
翼だ。崩れた城の下敷きになっていたのか、体中から血が流れてはいたが、火で燃えた様子は全くなかった。
翼は下に俯いて、ゆっくりと歩きだす。
地平線の向こう側から顔を出した太陽は、いつもより輝きが劣っているように見えた。
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「それから20年間、あてもなくふらふらと歩いていたら時の森に入り、時の神の時渡りに巻き込まれ、お前と出会ったという訳だ。」
恵瑠は下に俯いて、「そんなことがあったんだね。」と言った。それから、ハッとして、翼の目を見た。
「それで、あの軍隊を率いていた人が西山幸四郎、そして、あの女性が翼のお姉さん、赤羽明なんだよね?」
「そうだ。朱雀の国に生まれる姫は代々受け継がれる、「影の世界の結界を管理する力」を受け継いでいたんだ。」
「影の世界?」
「影の世界は沢山の影たちが封印されている「封影石」の内側のことを言うんだ。封影石は朱雀の国の東の方の洞窟の中にある。」
「じゃぁつまり、明さんは影の世界の結界を管理する力を持っているんだよね?何が目的で明さんを?」
「大抵の妖術師は影どもの封印を解くために生まれたんだ。近くに妖術師がいたならきっと、幸四郎は姉上様の力で影どもの封印を解く気なんだ。そして、その影を使って、私を殺すのが目的だ。」
「影たちの封印が解かれたらどうなるの?」
「この前のアールが引き起こした時と同じことが起きるだろう。しかも、相手は本物の影だ。アールと対等の力を持っていても、お前の力はまだ不安定なんだろ?お前を信じていないわけではないが、何万、何億もの得体のしれない奴を相手にするのはさすがに無理がある。」
「ううぅ、じ、じゃあ、速く止めないと。ど、どうすればいい?」
「先祖たちは、何かあった時のために、朱雀の国の姫の力を奪うことができる「神々の秘石」を作り出した。それが朱雀城のどこかにあるはずだ。恵瑠はそれを探してほしい。私は、一足先に洞窟へ行く。もしかしたら、時間稼ぎが出来るかもしれない。」
「わかった。」
翼と恵瑠は南へ向かった。静爽の森を抜け、時の森の横を走りぬけ、橋を渡った。そして、目の前には朱雀城と城下町の跡が見えた。
「うわぁ、酷い・・・。」
恵瑠は目を見開いてその情景を見つめた。翼は見たくないのか、自然と目を背ける。
「おっと、見てる場合じゃなかった。」
と、見てないくせにそう言い、恵瑠に向き合う。恵瑠も、翼の目を見る。
「じゃあ、頼んだぞ。」
「うん、翼も。死んじゃだめだよ。」
恵瑠は朱雀の国へ走り、翼はその東の方に走り出した。




