ごめんね
暗くて細い道を真直ぐ走っていると、やがて、広い所に出てきた。そこには九紫が、血まみれで倒れて、いや、死んでいた。その向こうを見ると、血の付いた剣を持った男が立っていた。その男は確かに西山裕四郎にそっくりだった。
「お前が西山幸四郎だな?」
翼はそう言うと、男は翼を見つめ、
「お前が「朱雀の殺し屋」だな?」
と言った。翼ははいもいいえも言わずに
「なぜ国を滅ぼした?私に用があるなら、私一人を狙えばいいはずだ。」
と問う。それに西山幸四郎はこう答えた。
「こうした方が、お前は失うことの辛さがわかるだろう?」
確かにそうだ。翼はそう思った。
奴は翼を恨んでこの国をこんな姿にした。これは全て翼の罪が引き起こしたことなのだと、翼は思った。
「俺が子供のころから憧れていた父親の命をが、お前は奪った。ならば、俺はお前が大切にしていた物を奪い、お前を殺してやる。」
幸四郎は翼を睨みながら言う。
翼は一瞬、殺された方がいいと思ったが、明の存在を思い出し、こう言った。
「悪いなぁ、お前の望む通り殺されてやりたいことだが、今私には私を必要としている人がいる。簡単には死ねないんだ。」
幸四郎は剣を構えた。
「別に、お前が死にたくない言おうが!俺はお前をそんな所へは帰すつもりはねぇ!俺が帰してやりてぇのは地獄だ!!」
幸四郎は翼に斬りかかる。
翼はその剣を己の剣で受け止めた。幸四郎が翼に力任せに剣を押し、翼はその剣を流した。
キン、キン、キンと、金属音が鳴り響いた。
幸四郎は何年か前に戦った裕四郎よりも強かった。翼を殺すためにここまで必死に強くなったのだろう。
幸四郎の剣技は重く、素早く、隙がない。かなりしんどかった。
翼の背中が何かにぶつかった。そこは壁、しかも角の所だった。翼はここが室内だと忘れていた。だから、己の行動を阻む壁の存在を頭に留めていなかったのだ。 翼は壁に気を取られていると、手首に激痛が走った。手首は斬りつけられていて、血が地面に垂れている。幸四郎は翼の手から剣を叩き落とし、後ろの方に蹴り飛ばした。そして、翼の首元に剣を突きつける。
翼は能力で幸四郎に火を付けた。しかし、幸四郎は全く苦しまずに、翼の首元の剣を動かそうとはしなかった。
「なぜ効かない!?」
「これのお蔭かもなぁ。」
幸四郎は剣を持っていない手で懐を探ると、青く輝く宝石を出した。
「精霊石か。」
精霊石は、妖力や魔力を無効化する力があるのだ。
「よくわかったね。これでお前のようなクソ妖怪のクソ妖力なんて通用しないって訳だ。」
もう、戦う術がない。翼は死を覚悟したその時だった。
何かが、幸四郎に突進してきた。幸四郎は壁に強くぶつかり、数歩後ろに下がった。
「お、お前は・・・・。」
「あ、姉上様!?」
翼と幸四郎の前に現れたのは、明だった。
「姉上様!私が来るまで、朱雀城には近づかないようにと言ったはずです!」
幸四郎に向き合っていた明は、翼の方に振り返り、こう言う。
「私の大切な家族が死んじゃうとこを、指をくわえて待ってろっていうの?」
翼は「しかし!」と言うが、その後の言葉を幸四郎に遮られた。
「おい!お前は朱雀の国の姫君だな!?今更お前が来たことろで、俺にはかなう訳ねぇだろう!少し悔しいが、こうなったら仕方ねぇ!二人仲良く地獄へ送ってやるよ!」
明は再び幸四郎の方を向いて、こう言った。
「いいえ、地獄へ行くのは私とあなたよ。」
翼は明の言ったことに耳を疑った。
「あ、姉上様!?何を言うのですか!!速くここから逃げてください!」
翼がそう叫んでも、明はここから動こうとしなかった。
突然、ガラガラっと音がした。明と幸四郎の間に大きな木片が落ちていた。その木片には、火で包まれていた。
「な、お前、まさか・・・・。」
幸四郎と翼は目を見開いて明に視線を向けた。
「ええ、そのまさかよ。この抜け道を中心に朱雀城に火を付けたわ。ここから火が燃え広がれば、朱雀城は火の海よ。天下に最も近い男の息子も、さすがに天然の火には耐えられないわ。」
「バカめ!それはお前たちも一緒だぞ!」
「もちろん、私だってあなたと一緒に死ぬことになるわ。でも、翼は違う。翼は人じゃないわ。」
「知ってるぜ!ちゃんと調べてあるからな!赤羽翼は人ではなく影炎・・・はっ!?」
「そう、影炎は火に燃えることはない。翼は死ぬことはないわ。」
「お前・・・なぜそこまで・・・?」
「っ、ごめんね、翼・・・・。」
明の言葉に答えるかのように火の付いた木片が大量に幸四郎の頭上に降り注ぐ。
「ぐあぁぁぁぁぁ」と言う断末魔が部屋に響いた。




