そういうこと
翼はギロリと老人を見上げ「クソ、が」と言い、目を閉じた。
老人は静かに翼を見下ろした。
「確かにお主は人よりも長く生きている。しかし、実際はまだ子供。人を殺せる歳ではないのだ。」
老人は翼の額に手をかざし、赤いモヤモヤした何かを引っ張り出した。
「これが、お主の妖力か。ちょいといじらせてもらうぞ。」
老人の手のひらにふわふわと浮かぶ翼の妖気は老人の手の上で二つに割れ、赤みが強い妖気と弱い妖気が生まれた。そのうち弱い方を翼の中に戻し、強い方を懐に入れた。
「お主の妖力を改造させてもらった。お主の妖力は具現化の力を失った。お主の火は幻だ。」
老人の声は翼には届いたのか、それとも届かなかったのか、わからなかった。
老人はその場を立ち去ろうと歩き始めたが、「おっと」と言って、翼の方に振り向いた。
「お主、今妖力半分しかないんだった、妖力が半分では、妖は生きていけない。すっかり忘れておったよ。」
老人は再び翼に歩み寄った。
「そうだな、お主が剣で斬り裂くなら、この妖力が最適であろう。しかし、半分にするなら、抵抗力を抜いて、制限を付けなければ。」
そう言って老人は懐から緑色の妖気を手のひらに浮かせ、それを二つに割り、片方は揺れの強い妖気、もう片方は揺れの弱い妖気が生まれた。
老人は揺れの強い方を翼の中に入れた。
「これで良し。では、さらばじゃ。」
老人は再び歩き出し、そのうち薄くなって消えた。
その後、翼は朝方に出回りに出ていた戦士に見つかり、朱雀城に運ばれた。
「ねぇ、翼。」
次の日、翼が庭で休んでいると、明が声をかけてきた。そんな明の声に気づいた翼は、明の方を見た。
「昨夜、どこに行ってたの?」
翼は「内緒ですよ。」と言い、明に微笑んだ。そんな明は「もう、心配したんだから。」と言って、微笑んだ。
しばらく、翼は空を見上げていた。そんな翼を見ていた明は翼にこう言った。
「ねぇ、翼、なんだか、昔に戻った気がする。」
翼は「そうですか?」と、池の水を覗き込んだ。
そこには、翼の顔が映っていた。目を見れば、右目が緑色に変わっていた。
「むしろ、変わったと思いますよ?」
翼がそう言うと、明は首を横に振った。
「見た目じゃなくて、雰囲気よ。」
「は、はぁ、そうですかね?」
翼は明に首を傾げていた。
それから、翼は奇妙な出来事が起こった。
城に火をつける時は火はつけられるものの、そこから燃え広がらなくなり、そこに焼けた跡が見えかったり、人を燃やすも、熱いと苦しむも、火傷が全く見えないのだ。
それだけじゃない。人を斬る時も、斬り倒そうとも、確かに手ごたえがあったのに、切り傷がない。
そう、翼は人が殺せなくなってしまったのだ。
ある日翼はこのことを明に告げた。すると明は少し考え込んで、
「人を斬れないなんて、なんだかひいおじいちゃんに似てるわね。」
「ひいおじいちゃん?」
「私のお父さんのお父さんのお父さん。」
「や、知ってます。姉上様のひいおじいちゃんとはどの様な方だったのですか?」
「私のひいおじいちゃんはとにかく優しい人だったんだって。お父さんの好きだったお母さんを庇って死んじゃったみたいなんだけど。
で、ひいおじいちゃんは人なのに妖力を持っていたのよ。斬ろうと思ったものだけを斬れる妖力だったみたいなんだけどね、斬りたくないものは例え一枚の紙ですら斬れなくて、逆に斬ろうと思った物は例えどんなに硬い鉄でも斬れたんだって。」
「そ、そんな凄い人なのですか。」
翼は少し驚いていた。
「それでね、物として存在しないものも斬れたみたいだよ。私はよくわからないけど。」
「そ、そうなんですか。」
「わかる?」
「わかりません。」
「だよね~!」
明は「あはは」と笑う中、翼は深く考えてみた。確かに、自分は人を斬りたくないと思いながらも斬った。しかし、その人に傷はつかなかった。もちろん、死んでなかった。
もし自分がそのひいおじいちゃんの妖力を持っていたのなら。
そういうことなのだろう。
「あいつの仕業かぁ。」
「翼?」
翼が呟いたのが明には聞こえ、笑いを止めて翼を見た。




