剥がせぬ罪
翼は、九紫に相談があると言い、九紫を庭に連れだした。
「九紫さん、私はもう、戦に行きたくありません。」
と言う翼に対し、九紫は
「今更何を言う、翼。なにかあったのか?」
と返す。
「もう、人を殺したくないんだ。」
翼は九紫に面と向かって言った。そんな翼に九紫はため息をつき、こう問う。
「なぁ、翼。もしこの国に沢山の戦士たちが攻め入ってきたら、お前はどうする?」
「そ、それはもちろん、国を守るために戦います。」
「そうだろう?しかし、戦で強くなれず、ただ姫様と遊び惚けていれば、お前は確実に国を守れるのか?」
「それは当然です。」
翼ははっきりと言うが、九紫は大きな笑い声を発した。そして、再び、問う。
「お前が戦に行くと言わなければ、我々は戦い方を教えない。戦い方も知らない奴が、国を守れるのか?お前も、皆も口だけは出来ると言い、実際は何もできないのだ。」
翼は何も言えず、ただただジッと目をそらす。そんな翼を見た九紫は
「言う前に、まずは出来なければなぁ、翼?」
と言い、
「それに、襲われてからじゃ遅いんだ。」
とも告げた。何も言わない翼を背にした九紫は一度立ち止まって翼に
「もし本当に来なければ、お前の実の父親の朱影剣は没収だ。」
と言い、再び、歩いて行ったのだ。
それから翼は戦で人を殺さずに勝つ方法を探し、峰内と言う技を自力で身に着けた。
しかし、いざ
戦場に立つと、感情や思考が何かに乗っ取られ、意識を取り戻した時には自分の周りが死体だらけとなってしまう。
全て、自分がやったとしか思えず、自分自身におびえるようになった。
明はそんな翼を見て、涙を流す。その明を見た翼は更に自分への恐怖が増す。
そんなことばかりのまま1年が過ぎた。
真夜中、翼は国の近くに異様な気配を感じ取り、目を覚ました。翼はこっそり寝床を抜け、城を抜け出し、
国の外へ出た。
北東から流れる川にかかる橋に向かい、橋の向こう側を見つめた。
人影が、一つ。ゆらゆらとこちらに向かってくる。コツコツと、木の棒の杖をつく音と共に足音が近づいて来る。
しばらくして、人影ははっきりと見える所に来た。
一見、旅の老坊主に見えたが、彼から発する気が人ではないことに翼は気づく。顔を覗うが、暗くて見えない。
すると、老人は翼に口を開く。
「主は、影炎の生き残りか。」
翼は静かに老人を見つめた。老人はまた話を始めた。
「そして「朱雀の殺し屋」と呼ばれているのも、お主か。」
「だったら何だ。」
翼はそう返す。老人は気にせず続けた。
「なぜ人を殺し続ける?本当は人を殺しなどしたくないのだろう。」
「あんたに話す理由はない。」
「話せずともわしにはわかる。お主は今、その剣に宿る太古の妖の妖気に身を包まれているのだ。」
翼は少し黙って剣を構えた。赤い瞳がギラリと光る。
「こういう口のふさがらないジジィは嫌いなんだよなぁ・・・。ムカつくから殺させろ、ジジィ。」
翼は剣を引き抜き老人に向かい走り出した。老人は杖をコツンと地面に叩く。翼が老人に飛び掛かり、剣を振るう。
ガツン。
鈍い音があたりに響く。なんと、翼の剣が老人の首に届く前に、翼の額に杖で思い切り突かれていた。
翼はヨロヨロと後ろに下がり、赤く腫れた額を左手で抑える。
「うそ、だろう?こんな、ことは・・・」
老人は静かに「ほっほっほっ」と笑った。
「痛かったか?すまんのう。こう見えてもわし、そこら辺の若造は簡単に負けるような者ではないのだ。」
翼は額から手を放し、再び剣を構える。
「クッソ、なめんなよ!‘‘鷹爪百鬼夜行‘‘!」
翼が剣を振るうと、幻烈斬が列を成して老人に飛んでいく。しかし、老人は杖一振りでそれを全て払いのけた。
「ほっほっほ。お主は空方流剣術の使い手か。しかも、幻烈斬が使えるとは、かなりの使い手だなぁ。」
「そんな!?「鷹爪百鬼夜行」が効いてない!?」
翼はあり得ないというように老人を見た。老人はいまだに「ほっほっほ」と笑っている。そんな老人に翼は怒りを覚えた。
「これなら、お前も防ぎきれないだろう!!」
翼は高く飛び上がり、刀身に自分の気を込めた。
「ほう。剣の威力を高めるか。影炎の一族にしてはあっぱれだ。」
老人は、天で剣を光らせる翼を見上げてそういった。
「あっぱれではあるが・・・・」
「死ねジジィ!!‘‘鷹爪大入道‘‘!!!」
翼は剣を振り下ろすとそこから老人の頭上に巨大な幻烈斬が降りてきた。
「無意味!!」
老人は巨大な幻烈斬に向かい大きく飛んだ。そして、幻烈斬に杖を振るう。
「‘‘空方流剣術奥義其ノ一 逆飛‘‘!」
杖が幻烈斬にぶつかると、幻烈斬は上に飛び上がった。その先は、下に落ちていく翼。
「な、嘘だろう!?「鷹爪大入道」まで?」
「「逆飛」は相手の攻撃をそのまま返すとこが出来る空方流剣術の奥義の一つ。西洋の言い方で言うと、いわゆるカウンターと言うやつだ。」
逆飛を受けた幻烈斬は翼にぶつかった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」
翼はそのまま真下に落ちていく。老人が翼の元へ向かえば、翼は大の字になって寝そべっていた。




