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排水溝が繋ぐ世界

作者: あゐ



夢をみた。


お湯いっぱいの浴槽の、栓を抜いてからお湯が全て出切るまでの間。抜いた栓に足を入れると、お湯と一緒に浴槽の下の世界へ連れて行ってくれるのだ。

ズルッ、という効果音が一番相応しいだろうか。蕎麦をすする時のあれのように、自分自身が蕎麦となっているとすれば想像に難くないだろう。


飲まれるのは、一瞬。気がつけば、そこは深海だった。

濃紺の世界に、所々差す薄い光の線。魚は居らず、時々気泡が肌に触れた。

息は苦しくもなくすることができたが、時々口から泡が出て行く。泡は上へと登って、消えるより先に見失った。

夢とは不思議なもので、初めて来た場所なのに次に何をすれば良いのかが分かる。もう少し進むと学校がある。私は今からそこへ向かうようだ。

薄い光の線がある一方向を照らした。道が、できた。それはまるで、学校の方から招かれているかのようだった。


学校は、所謂廃校のようだった。かつて通っていた学校でもない、見たこともない学校。それでも私は、この学校にどこか懐かしさを感じた。

割れている窓ガラスから、2階へ入る。入ったところは、廊下だった。

電気も無く閑散としている。割れた木の床を用心しながら歩く。ギシ、ギシという音が耳に心地よい。

目に入った、ある教室に入ってみた。3年1組だった。

海の中だというのに、机と椅子はちゃんと床についている。黒板にはチョークも置いてある。

教室の中としては何ら変わりもないごく普通の、廃教室だ。しかし、そこにはあったのだ。異変が。

窓を見ると、1本の大きな木がそこにあった。木は大きく、青々とした葉をこれでもかと身にまとい、そこに存在している。その木のうしろには、青空が見えるのだ。ここは、深海のはずなのに。

後ろを振り返り、教室に入ってきた戸を見る。もちろんさっき来た道と同じで暗かった。確かに海の中だ。

私はこの時理解した。この学校を境に、2つの世界が共存しているのだと。


すると、上の階から音が聞こえた。机を動かすような音だ。それは、掃除の時間の始まりのようだった。

入ってきた戸から教室を出て、階段を上って上の階へと向かう。階段の途中途中に、椅子や机、モップが置いてある。雑巾も、スピーカーも。上の段へ向かうにつれ、机や椅子が重なっていくのだ。さながら、立て籠もりをしているかのように。そして、2階から階段を上り始めたはずが、もう4回も階段を折り返している。最初に学校の全体を見た時は、そんなに高くない建物だと思ったのに。

階段の途中で私は分かった。音の発生は、屋上だと。

何故屋上へと向かっているのか。屋上で何をしているのか。私はその答えが知りたかった。ただその事だけが確かに頭の中に存在した。


机と椅子の山々を超え、最後の踊り場に着いた。そこには1つの教室があった。屋上扉ではなく、教室への扉が。机と椅子で一部分だけが見えている。ちょうど、手のひらがおける程度の隙間があった。私は、そこに触れた。

すると教室の扉が開き、バリケードになっていた机たちが一斉に教室内へと流れ込んでいった。

あまりの勢いの凄さに、思わず目を閉じた。閉じたのは一瞬だったはずが、その一瞬で景色が一変した。

教室内に、裁判所が出来ていた。窓の外には、大きな木。窓は開いていて、そよ風が吹いている。

私は教室内に、前に進まざるを得なかった。


無音の中、ギシ。ギシ。という音が響く。

「待っていたよ。」

声の方を見ると、そこは裁判長の席だった。人が、居た。席には、小学校の頃の友人が座っていた。

彼と私は、誕生日が同じだ。ただそれだけの理由で仲良くなった。小学生の時にはよく遊んでいたが、中学になるとまるっきり遊ばなくなった。そして高校、大学と連絡も取らずに、彼と遊んだ記憶も薄れたころ。

彼は、数年前に白血病で亡くなった。


病気のことは知っていた。治療のために海外に行ってしまったことも知っていた。

だが、何故。何故今、私の夢の中に。

「ただ、お喋りしたかったんだ。」

彼はそう言った。本当にその為だけにきた、と。他の思いは一切感じなかった。

私は彼と話をした。中学生、高校生、大学生になってからのお互いのこと。小学生のときに流行ったこと。一緒に遊んだこと。

「そういえばさ、あんな事もあったよね。」

私はまだ話しかった。しかし、突然強い風が吹き、カーテンが私の顔を隠した。

「ごめんね、もう時間みたいだ。」

彼はそう言った。名残惜しい様子も見せずに。カーテンが顔から取れると、そこには誰も居なかった。そして、裁判所も無くなっていた。積み上げられた机と椅子。そこは、廃教室だった。

カーテンは、そよ風に揺れた。


私は学校をあとにした。不思議なことに、まだ話したかったという思いよりも、早く帰らないとと思う気持ちの方が強かった。強かったのに、頬に一筋の涙が走った。

しばらく進むと、上に光が差しているのが見えた。私は光に向かって手を伸ばした。


ズルッと、一瞬。ザパッと浴槽から顔を出した。

そこは自宅の浴室だった。浴槽にまだお湯は残っていて、栓はしっかりとされていた。

もう一度栓を抜いて足を入れて見ても、指を吸われるだけで何も起こらなかった。

ずっと、浴槽に潜っていたかのような感覚。それでも、息苦しくは無かったのだ。


そんな、夢をみた。




最後まで読んでいただきありがとうございました。

私デジャヴをよく見るんです。この話がもし現実に起こったらどうしようかと悩んでいますが、きっとまずは水道会社に連絡します。

夢十夜みたいな感じで、今後もいくつか夢の話を書けたら良いなと思っています。

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