第一話 夜の街1
さて、始まりはこの町にある一つのキャバレークラブ【リヴァイアサン】になる。
そこは舞台町において高級なほうに名を連ねるキャバクラだ。
キャバクラとは皆さんある程度ご存知だろうが、厳密にどういった場所かと言えば、わかるだろうか?
一般的にキャバクラとはキャバ嬢と呼ばれる女性スタッフが客に接待する飲食店のことだ。基本的に時間制で金を取り、客は女性スタッフとの会話を楽しむ。キャバレーのような明朗な時間制料金で、クラブの高級感を合わせ持つことを意図している。
だがこれは広義の意味でのキャバクラの定義に過ぎない。
キャバクラにもランクがあり、もちろんそこにいるキャバ嬢にもランクがある。
【リヴァイアサン】は知的な女性との会話を楽しむことを意図する高級キャバクラだ。
キャバ嬢は皆一流大学以上の学力を有すると認められたものしか入れない。客にもそれに準じた知性を要求し、会員制で誰かの紹介が無ければ来ることができない。
キャバクラといえば、どちらかと言うとやはり、風俗の意味にとるから卑猥なことをお考えの人もいるかと思うが、この店はただ単に女性と会話を楽しみたい紳士のための場所を提供しているというのがコンセプトになっている。だから、たとえ運よくこの店を紹介されても紳士にあるまじき行為に走ろうとはしてはいけない。
でないと、すぐに屈強な黒い服の男が来て、追い出してしまうことだろう。その際に何をされても文句を行ってはいけない。それが夜の街の掟だ。破ったものはなにをされても文句は言えない。それこそ、どんなことでもね。
だが、そう言う行為に走りさえしなければ決して【リヴァイアサン】は悪い店ではない。料金は気持ち高いが、駅に近いほうの立地と出す料理と女性の価値に見合うだけの料金で決して高くとる意図はない。
そうそう、なかなかいい酒の置いてある店だ。店主の趣味がいいせいか調度品も店の雰囲気も女の子の趣味も皆落ち着いていて、居心地がよい。なかなか極上の気分が味わえる店だ。いける機会があれば是非お勧めする。
さて、そろそろ本題に移ろうか。
私がこれから話をしようとしているのは、この店にいる、一人の女性の話だ。
その娘は名前を進藤 静香という。
おっとこれは源氏名だからね。本名は…。
彼女に直接聞いてくれ。夜の街では本名では呼ばない仕来りだからね。
さて、簡単にこの女性のことでも紹介しようか。髪は赤みを帯びた茶色に染めたものを綺麗に巻いて肩から前に流している。顔立ちは年齢から考えると少し大人びて見える。美人と言える顔立ちだが、飛び切りとはいえない顔立ちだけど妙な愛嬌があって、誰もが彼女を振り返る魅力を持っている。
それもそのはず。彼女はこの【リヴァイアサン】でナンバーワンの座をここ数ヶ月キープしているキャバ嬢だ。
巧みな話術と相手を立てる絶妙な引き、明るく屈託の無い笑顔。決して人に警戒されない程度の美貌。同僚のキャバ嬢の間でも面倒見が良いと大変人気が高い。店長も気に入っている。まさに非の打ち所の無い女性だ。
一度こんな女性を同伴させてみたいものだがね。残念ながら【リヴァイアサン】には普通キャバクラにあるような同伴制度はない。店長の意向か女性スタッフにあまり負担をかけるような制度を作らないと言うことだ。残念なことだ。
だが、それでも客は引きをきらず集まる。
このキャバクラの魅力を存分に見せ付けられているような気にならないだろうか。
さて、また脱線しかけたね。失敬。
さて、ここで少し静香嬢、彼女の魅力を知ってもらうためにも、客との会話を少し盗み聞かせてもらうことにしよう。
…どうやるのかって?その質問には答えられないよ。
だが、聞く気があるなら少し黙って耳を澄ませてごらん。
ほおら、聞こえてきただろう?
まだプロローグっぽい。
ありゃ。




