第一話「軍国主義」
ここは、アスタルテの首都「バルリド」。
今、ゴリタルテスとの戦争に出兵していた軍隊、約十万人が帰還した。出兵したのは二十万人のはずだが、その約半数にまで減っている。
これまた、兵士の様子から、どれほどの激戦になったかが分かる。
「こりゃまた勝敗がつかなかったんだな。」 「せっかく俺たちは高い税を払ってやってるの に、これじゃぁな。」
住民たちは軍隊の様子を見て不満を吐いている。そりゃそうだろう。アスタルテは消費税率が35パーセント。その約40パーセントを軍事にまわしている。
しかも、政府は国民に、「ゴリタルテスを必ず潰す。」と言う理由でなんとか納得してもらっている。つまり、アスタルテにとってゴリタルテスを潰すと言うのは、単に領土を広げるだけでなく、国民が政府への信頼を回復させる、最も確実な手段なのだ。
しかし、プロローグでも述べたように、アスタルテとゴリタルテスはここ5年間戦争が続いている。しかも、その5年間の間に勝敗がついた戦争は一つも無い。このまま勝敗がつかないまま戦争が続けば、いづれ国民の不満は頂点に達し、アスタルテ国内でデモ。エスカレートすれば、クーデターが起きる可能性があるのだ。デモならまだ良いが、クーデターなんぞ起きてしまえば、この国の崩壊は免れない。
そのため軍は帰還してすぐに、次の戦争に向けての会議を始めていた。
~バルリド軍事基地総本部棟会議室~
「またか!」
そう言ったのは軍の総統、パノル・ダルゴーノ。
また戦争の勝敗がつかなかった事に対して怒りをあらわにしてしる。
「まぁ総統、そう怒らずに…。」
パノルを落ち着かせようといるのは、空軍総司令官、ドノリビ・スチュアーリス。陽気な一面がある。
「お前な、今どう言う時か分かっているのか! このままではな!」
「しかし…。」
「総統の言う通りですよ。このままでは国民の不満は頂点に達し、クーデターを起こされ、国が崩壊すると言う最悪のシナリオが待っています。」
そう言ったのは陸軍総司令官の、ルティス・マードレン。冷静だが、その冷静さゆえに意味不明な発言も多い。
「確かにそうだけど…。」
「いいかドノリビ、我々が今考えるべきは次の戦争に勝つ事だ。それ以外は考えない。分かった?」
「分かったよ。ルティス。」
「総統、一ついいでしょうか。」
一人の兵士が手を挙げた。
「どうした?言ってみろ。」
「失礼な話ですが、なぜ我々はいつもこのような結果になるのでしょうか。」
「そんなの分かっていれば今頃国中が大騒ぎだよ。」
「そ、その通りですよね。失礼しました…。」
「さ、本題に入るぞ。我々はゴリタルテスとの戦争で、停戦解除後の5年間は勝敗がついたことがない。しかも、このままではクーデターが起きてしまうかもしれない。そこでだ。次の戦争ではあれを投入しようと思う。」
「あれとは?」
「そんなの簡単だよドノリビ。加粒子砲だよ。」
「加粒子砲とは?」
「あれ、空軍には伝えてなったか?まぁあれは今のところ陸軍が使うものだからな。技術課が開発した最新兵器だ。原理はわしにもよう分からん。おい、ナヤタハ、説明してやってくれ。」
「分かりました。」
ナヤタハ・ナティラ。技術課課長。
「加粒子砲とは砲弾などで用いられる荷電粒子を粒子加速器によって亜光速まで加速させて発射する、いわゆるビーム砲のようなものです。」
「なんとなく分かった。で、総統。肝心な作戦は?」
「それを今作戦課が考えている。」
すると、一本の電話がかかってきた。その電話にはパノルがでた。
「どうした?何?分かった。作戦課にも伝えておいてくれ。」
パノルは険しい顔をしている。ルティスが心配そうに聞く。
「総統、今の電話は?」
「我が国の国境から一番近い軍事基地、ゴリタルテスのリーラ基地が不穏な動きをしているとの一報が入った。」
「攻撃の準備をしていると言う可能性も…。」
「無いとは言えない。そのため会議はこれにて終了とする。総員持ち場に付け!」