83side広瀬・・・耳が聞こえないダックス
本日3話目です。
広瀬さん目線で、もぐが産まれる前の話です。
「いらっしゃいま・・・こんにちはカレンちゃん♪村上さん♪」
階段を上ってくる足音に無意識に声を出し、振り返って担当したお客様だと気づいて慌てて挨拶しに駆け寄る。
私の姿を目にしたカレンちゃんは嬉しそうに走ってきて甘えてくる♪
カレンちゃんマジ天使♪
村上さんは少し申し訳なさそうな声でカレンちゃんを愛でる私に声をかけてきた。
「広瀬さんにお話があるんです。」
「分かりました。こちらへどうぞ。」
その真剣な声に背筋を伸ばして、説明スペース(ワンちゃんを飼う為の注意事項などを説明する)テーブルに案内する。
しつけについての相談だろうか?
ダックスはよく吠えるしな。
そんな事を考えながらテーブルまで歩いて行った。
テーブルに座って、「それでお話とは?」と促すと、村上さんは顔を下に向けたり、勢いよく顔を上げて声を詰まらせたりと、なかなか話出してくれなかった。
流石にこの時点でしつけのちょっとしたお悩み相談ではなさそうだと感じ、一体なんだろうと少し緊張しながら、もう一度声をかけた。
「村上さん、お話とは?」
村上さんは息を整えて、決意した顔で言った。
「カレンを返品したいんです。」
「は?」
「ですから!カレンを!返品したいんです!!」
別に聞き取れなかったわけじゃないけど、あまりに予想外の事に「は?」っと言ってしまったら、村上さんが声を大きくして同じ事を言った。
カレンはお店に来て1週間で村上さんの元へ行った。
あれから数ヶ月、生後半年を過ぎて突然の返品に驚かないわけがない!
あまりに勝手な言い分に、あんなに動物を飼う事の責任と大切さを説明したのはなんだったのか!と頭に血が上りそうになったが、グッと堪えた。
それが出来たのは村上さんが、今にも泣きそうな表情を浮かべてたからだろう。
「理由をお聞かせ願えますか?」
少し硬い声になったのは許して欲しい。
「実は、カレン・・・耳が聞こえてないみたいなんです。」
「えっ?」
全く予想外だった。もしかしたら引越しが決まって犬が飼えなくなったとか、とにかく人間の都合で返品したいと言ったと思ってたからだ。
「呼んでも振り向かないし、チャイムがなっても無反応だし、掃除機の音にも平然としているんです!最初はお利口さんだと思っていたんですが、どれだけ名前を呼んでも反応しないので、耳が聞こえてないんじゃないかと・・・」
健康診断してるからそんな事は絶対ないとは言えない。
健康診断の時はたまたま反応しただけかもしれないし、健康診断終わってからお店にいる間になんらかの原因で聞こえなくなったかもしれないし、村上さんの家に行ってから聞こえなくなったかもしれない。
本人が話せない以上、何が原因かなんて分からない。
これは私が判断していい問題じゃない。
「動物病院へはもう行かれましたか?」
「いいえ」
「では、ここでお待ち頂けますか?上の者に報告してまいります。一緒に病院へ行きましょう。」
「分かりました。」
頷く村上さんに深くお辞儀をして、急いでスタッフルームに向かった。
動物好きの私は怒っている。
耳が聞こえないからなんなの!?たったそれだけのことで育てられないの!?世の中には足が動かないワンちゃん、目が見えないワンちゃん、もちろん耳が聞こえないワンちゃん、病気や先天性疾患やてんかんを持ったワンちゃんだっている!!いろんなハンデを抱えて一生懸命生きてるワンちゃんは沢山いるんだ!!カレンちゃんとの日々は耳が聞こえないっていうだけで簡単に手離せるほど、なんの愛情も無かったの!!??
その一方でスタッフとしての私は村上さんに申し訳ないと思っている。
はっきり言って私には耳が聞こえない原因は分からない。
カルテには問題なしと書かれ、先生が許可を出して初めて店頭の犬舎に入る。だけど健康だと思ってたとは言えない。
おそらく今は確実に耳が聞こえてないんだから。
いつ耳が聞こえなくなったかは関係ない。
「ダックスを飼うのが夢だったの♪」と嬉しそうに笑う村上さん、新卒の社会人で寂しい一人暮らしの支えになって欲しいとカレンちゃんを選んだ。
村上さんがカレンちゃんに愛情がないわけがない!
愛情がある分、手離す覚悟を決めるのは大変だっただろう。再びダックスを飼う事を考えるのは難しいかもしれない。彼女の夢をひとつ奪ったのは私だ。私は罪悪感に押しつぶされそうになった。
「店長、実はーーーーーーーーーー」
全てを話して、店長が私に言ってくれた言葉は、私の心を軽くしてくれた。
「広瀬、お前の接客のおかげで助かった。」
意味がわからない。はっきり顔に出たようで、店長は少し笑ったあと真剣な表情で理由を教えてくれた。
「お前がしっかりと村上さんとコミュニケーションをとってたから、村上さんは真っ先に病院に行かずにお前のところへ来た。まだうちの病院に行ってたらなんとかなるが、全く違う病院へ行って難聴だと判断されて、お前を頼ることなく手離そうと思ったらどうなると思う?実家に預けたり、知り合いにもらってもらうならいいが、最悪どこかに捨てたり保健所に連れて行く可能性だってあったはずだ。」
「ーーーッ!」
思わず息をのんだ。
確かに絶対ないとは言いきれない。
それから村上さんと店長と私でカレンちゃんを病院へ連れて行った。
やはりカレンちゃんの耳は聞こえてなかった。
店長がもう一度村上さんに意思確認をすると、村上さんは首を横に振り「勝手を言って申し訳ありません。」と頭を下げた。
細かい手続きは全て店長にしてもらった。
私は不思議そうな顔をしてるカレンちゃんを抱きながら、帰って行く村上さんを見えなくなるまで見送った。
こんなに大きくなってからブリーダーさんに返す事は出来ない。今回の返品はあくまでも特例だ。カレンちゃんの引き取り先をどうするか話し合っていると、いつの間にやって来たのか、松嶋さんが「私が引き取ります♪」と言った。
松嶋さんの一言であっさり病院の看板犬になることが決まったカレンちゃん(名前はそのままにしてくれた)
元気いっぱいにノエルとカレンちゃんが遊んでいる様子は私の心を穏やかにしてくれた。
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