166ひっかけ
「もぐえらいねぇ〜♪よしよし、じゃあもう1回ね♪はい、立って立って。」
そう言ってことりはオレの腹の下に手を入れぐいっと持ち上げて立たせた。
目が笑ってないニコニコ笑顔のことりに『おすわり』→『伏せ』→『待て』を繰り返し身体にたたきこまれていた。
もう覚えたよ!とアピールする為に、命令される前に『おすわり』したら、『こら、まだおすわりって言うてへんやろ。』と言って再び立たせてやり直しさせられた。
この命令される前に勝手に行動したのが、ことりにとってダメだったようで『言葉の意味と行動を理解してへんのかもしれん。どんな時でも待てって言われたら待たなあかんのに、信号赤やのに飛び出したらどうしよう。お散歩デビューはまだ早いかもしれん。せめて待ての意味を理解して出来るようにならんと・・・』
まさかのお散歩デビューの危機!
うぅぅ、みのりなら同じことしても、『もぐ〜、おすわりせなあかんって分かってんの?えらいなぁ♪』で絶対終わるのに!(泣)
「もぐ、これで終わりやで。ラストやねんからビシッと決めような!」
ことりが最後のドッグフードをつまむ。
ビシッとやるんだ!完璧にやるんだ!絶対、間違えないぞ!ことりを安心させてお散歩デビューだ!!
「もぐ〜『おすわり!』」
ことりがサッとドッグフードを目線の高さよりも上にもっていく。
オレは軍人のようにサッとおすわりして、ビシッと姿勢を正し、しっぽの毛1本1本まで意識する。
「『伏せ!』」
ことりがサッとドッグフードを下げる。
オレはビタンッ!と音が聞こえるかと思うほど、サッと伏せの姿勢に身体を移行させた。
「『待て!』」
ドッグフードを持ったまま器用に手のひらをこちらに見せたことりは注意深くオレを見つめる。
オレは最後の合図を前に自分の心臓の音が聞こえるほど緊張してた。
ドクン ドクン ドクン ドクン
「『よし!』」
やったぁ!これで終わりだ!!
「『おくん』」
今にも動き出そうとした身体が固まった。
もしかしなくてもアレだよね!?
動いちゃダメ!絶対にダメ!と自分に必死に言い聞かせた。
ことりをじっと見つめると、ことりはふわっと笑って「『よし!』」と言った。
「もぐちゃんと『よし!』と『よしおくん』の違いが分かるんやね♪えらいね♪さっきのは少し張り切り過ぎちゃったんやね♪これならお散歩デビューも安心やわ♪よしよ〜し♪」
と頭を撫でられた。
こんな時にひっかけを使わないで欲しい。
そんなことを思っていたオレは、ひっかけにひっかからなかったせいで、トレーニングがよりハードになることをこの時オレは気づかなかった。
「もぐ、ホンマにめっちゃ賢いなぁ♪」