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130side広瀬・・・ショップ最年長のワンちゃん

本日2話投稿します。

1話目です。


お客様がいらっしゃらなくてもペットショップの店員は多忙だ。特に私が所属する生体管理部はシフト通りに帰れる事の方がめずらしい。


今日は平日だからお客様も少ないけど、店員も少ない。結果、やる事がさらに増える。


私は今店頭で店番という名の休憩中だ。

バックヤードではごはんの後片付け、自力で食べれないワンちゃんの食事フォロー、洗濯、床掃除、犬舎掃除、夜ワンちゃんを寝かす寝床準備などなど言い出したらきりが無い雑用が山ほどある。


私は店番をしながら、ワンちゃんのブラッシング&爪切り&耳掃除、あっもうすぐ15時になるな、業者さんが商品を納品にきちゃう。検品しなきゃな。あれ?休憩ってなんだっけ?まあバックヤードよりは忙しくないだけだ。バックヤードよりは。


若干現実逃避しながら、ポメ吉 (ポメラニアン・オス)をブラッシングしていると、誰かが階段を上がってくる音がする。スタッフ・・・じゃないな、体力勝負のペットショップでヒールで働くバカはいない。


お客様かな?ただしトリミングのお客様の可能性もあるし、ワンちゃんを見にきたお客様でも、自分から頼んだり、こちらから『抱っこしてみませんか?』なんて言うよりも、最初から『お手入れ中なんです♪可愛いでしょ♪』なんて言って触ってもらった方が警戒心もなく触れ合ってもらえるから、お客様が来たからといってお散歩デビューを済ませてる(消毒の必要がない)ポメ吉を犬舎に戻す事はない。戻すような店員は二流だ(消毒の必要がある場合は別)。


2階へ上がって来た女性は、私の姿を見るなりこう言った。


「この店で一番安い犬をちょうだい!」


は?


初めて受ける要望に驚き、とっさに言葉が出ない。


まだ『お散歩デビューしたワンちゃん』とかなら理解できるけど、安いってなんだ!?


「ちょっと聞いてるの!?今すぐ連れて帰れる一番安い犬をちょうだいって言ってるの!早くしなさいよ!!」


とりあえずポメ吉はしまおう。

「少々、お待ちくださいませ〜。」と言いながらポメ吉を犬舎に戻す。


少し悩んだがプライスカードを見れば分かる事なので、『一番安い犬』つまり『この店で最年長』のコーちゃん(ウェルシュ コーギー ペンブローク・オス)のところへ案内する。


「このワンちゃんが一番最安値になっております。」


「じゃあ、このコでいいわ!」


『このコがいい』じゃなくて『このコでいい』か、このおばはんなめとんのか!?


私は湧き上がる怒りを抑えながら、待ったをかける。


「しかしお客様、ワンちゃんと飼い主には相性というものがございます。例えばお客様の様にオシャレに気を使われる方には、毛が抜けやすいワンちゃんというのはストレスになるのではありませんか?」


幸い今、毛の抜けないワンちゃんで大きなコはいない!安さを求めるなら、『ご期待にお応え出来ず申し訳ありません。』と言うだけだ。これがペットショップに出来る最大限の抵抗、とっとと帰れ!クソババア!!


「私がオシャレなのは確かだけど、こんなの普段着よ♪それにボーダーコリーを飼ってたから、毛が抜けるなんて今さら気にしないわ♪」


おばはんが得意げな表情で言う。


私が持ち上げといてなんだけど、腹立つ表情かおしてんな。


飼ってたか・・・


「そうですか。ボーダーコリーちゃんはお亡くなりに?」


「いいえ?脱走したのよ?」


おばはんが何言ってんの?みたいな顔してるけど、こっちが何言ってんの!?だからな!!


「それは心配ですね。捜索のチラシなどありましたら、お店でも貼らして頂きますが?」


「今はそれどころじゃないの!」


「それどころじゃない?」


脱走したワンちゃんより優先して新しいワンちゃんを買う理由って何だ?


「娘が犬がいないって言って泣くのよ!」


はい?


「それは脱走したボーダーコリーちゃんを求めているのであって、代わりのワンちゃんを求めているわけではないのでは?」


「あなた何言っているの?娘はまだ小さいのよ?犬の判別なんて出来るわけないじゃない!」


おばはんが心底おかしそうに笑う。


娘の年なんて知らんがな。



結局、私の奮闘むなしくコーちゃんは、おばはんに飼われる事になった。


私は、動物保護法やワンちゃんに飼うにあたっての説明を他のお客様の倍以上時間をかけて念押しした。


娘とやらが可愛がってくれるのを期待しよう。


その日コーちゃんはラックスになった。


予想外に良い名前にびっくりした。意味は華美・贅沢らしい。




閉店後、私は店長におばはん、じゃなくて高野さんのことを話した。

店長も最終的には売るしか出来なかっただろう。偏見を持つんじゃなくて可愛がってくれると信じようと言われた。


確かに偏見はあったので素直に頷くが、ワンちゃんに新しい家族が出来たのに心から喜べないのは初めてだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



数日後、私は仔犬達を連れて病院へ健康診断に行った。


診察中いつもなら顔を出す松嶋さんがいないことに不思議に思い先生に尋ねる。


「先生、松嶋さん今日はいらっしゃらないんですか?」


「いるよ。実はボーダーコリーを保護してね。そのコのお世話をしてるんだ。だいぶ衰弱しててねーーーーー」


途中から先生の言葉が頭に入ってこなかった。


ドクン ドクン ドクン ドクン


自分の心臓の音が大きく響いてくる。


もしかして高野さんのところのボーダーコリーじゃないの?

確証はないけど、期待してしまった。

だってもしもそうだとしたらコーちゃん取り戻せるかもしれないじゃない!


「気になるんなら見て行くかい?」


先生の言葉に頷く。


ドクン ドクン ドクン ドクン


期待と不安がないまぜになる。


治療室に入ると衰弱し酸素マスクをされたボーダーコリーが横たわっていた。


もしもこのコが本当に高野さんのところのボーダーコリーだとしたら?

弱って、それでも脱走したところへ帰すの?私が?

それをしてコーちゃんが幸せになる保証は?

2匹もいらないからって保健所に連れて行かれない?


『偏見を持つんじゃなくて可愛がってくれると信じよう。』


私は店長の言葉にすがりついた。


このボーダーコリーが高野さんのところのコだという確証はない。

コーちゃん、いいえ、ラックスくんはきっと娘さんと仲良くしてる。

あんなに甘えん坊で賢くて優しんだもん。大丈夫!このボーダーコリーもラックスくんも幸せになれる!!




次話も引き続きside広瀬です。


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