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129トリミング室での出来事(後編)


普段ドライヤーの音でうるさいトリミング室でも小さな声が届いたのは、みんながコーギー先輩の事を見てるからだ。


コーギー先輩は冬場なのにかなり脱毛しボロボロの状態だった。

毛がない部分をよく見ると細い針のようなもので引っ掻かれたのか、赤い線がいくつも走ってた


虐待。


その言葉が一番に頭をよぎる。


痛々しい身体とは別にコーギー先輩の瞳は輝いていた。


大好きな広瀬さんに会えてたまらなく嬉しいと心から喜んでいるようで、しっぽがあればヘリコプターのように回してたに違いない。


「ひっ、うぐ、コーちゃん!ごめんね!コーちゃん!!」


嗚咽を漏らす広瀬さんに北川さんがスタッフルームに行って休むように言う。


広瀬さんが後ろ髪ひかれながらもトリミング室から出て行くと、北川さんはコーギー先輩のシャンプーを始める。


「シャンプーは薬用にしましょう。傷口を刺激しないようにしないと。差額分は私が払うわ。」


コーギー先輩のシャンプーは丁寧に行われた、傷口を避けているはずなのに時々コーギー先輩が暴れているので、見えないところにも傷がありそうだ。


北川さんの表情も曇っていく。


一体なぜコーギー先輩があんな目に?


よく、子は親を選べないとはいうが、それは動物にも当てはまると思う。


オレ達は飼い主を選べない。


オレがコーギー先輩にしてあげれる事はないだろう。


それでも幸せになって欲しいと願うことくらいは許して欲しい。




コーギー先輩のシャンプーが終わり、サークルに入れられた。


コーギー先輩の居る場所はオレからよく見える位置で、コーギー先輩はトリミングのスタッフに向かって愛嬌を振りまいている。


笑顔が痛々しく感じてしまいスタッフの涙を誘う。


オレ達はおもちゃなのか!?

喋れないからって何してもいいのか!?

感情がないとでも思ってんのか!?


人間は、人間はなんでこんなに傲慢なんだ!!


ちくしょう、ちくしょうッ、ちくしょうッ!!


ガチャ


コーギー先輩のシャンプーが終わるのを見計らっていたようなタイミングで、広瀬さんが再びトリミング室へ入ってきた。

真っ直ぐコーギー先輩のもとへ行き、頭を撫でる。


コーギー先輩は本当に嬉しそうだ。


気持ち良さそうに目を閉じて身体を預けている。



ピンポン!ピンポン!ピンポーン!!


この鳴らし方はあの高飛車なおばさんだな!あいつ嫌いだ!!


ガルルルゥゥゥ!


コーギー先輩も飼い主のお迎えに気づいたのだろう。


さっきまであんなに幸せそうな顔をしてたのに、まるで犬が変わったかのように表情がガラリと変わり、低く唸りながら広瀬さんの手首をおもいっきり噛みついた!


あの女は嫌い!あんな奴のところに行きたくない!まるで懇願するように広瀬さんを見つめて精一杯抵抗をする!!


「あんなに優しかったコーちゃんが・・・」


ショックを受けて広瀬さんが固まっていると、高飛車のおばさんは勝手にトリミング室へ入ってきて、コーギー先輩のリードをとり「お会計はどちらかしら?」とスタッフに尋ねて、力いっぱい踏ん張って抵抗するコーギー先輩を引きずって出て行った。


緊張や恐怖じゃなくて、怒りで身体が震えている。


どうしてコーギー先輩があんな目に!?



止まっていた時計の針が動き出したように、みんな仕事へと戻っていく。


一様に表情は暗い。



ピンポーン♪


あっことりだ。

オレは立ち上がりしっぽを振る。


ことりもオレを見つけたようで笑顔で手を振る。


北川さんがオレを出すために犬舎の前までやってきた。



うん?ちょっと待って?

もしかしなくても、これから注射じゃないか?


嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーーーーーーーー!!!!!


キャァゥーン!ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャーーーーーーーン!!!!!


オレは犬舎の隅っこに陣取り精一杯抵抗する!!


「なんでもぐちゃんまで!?」


お読み頂きありがとうございます(^ ^)

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