128トリミング室での出来事(前編)
「なんだ妹さんなんですね♪びっくりしました、本当に・・・では本日のトリミング終了のお知らせは妹さんにさせて頂いてもよろしいですか?」
北川さんは驚きはしたものの素早く立ち直り、必要事項を確認していく。
「はい、それでお願いします。」
「それではこちらへ、お名前とお電話番号のご記入をよろしくお願いします♪」
ことりが必要事項を記入する。
い、いよいよか。
ガクブル ガクブル ガクブル
今からシャンプーに行くんだと思っただけで緊張し、身体が震えてくる。
突然震えだしたオレに驚いたことりが心配たのか、オレを抱え直し目を合わせて声をかけてくる。
「もぐ、どうしたん?大丈夫?」
「多分、もぐちゃん緊張してるんだと思いますよ♪」
「そうなんですか?」
ことりが不安そうに2人に尋ねると、
「前回トリミングの時もそうでしたから♪」
と北川さんはことりを安心させるように微笑み、
「もしかしたらシャンプーが少し苦手かもしれないですね〜。今からシャンプーだと分かって緊張してるんだと思います。もぐちゃんは賢いですね〜♪」
広瀬さんはせっかく北川さんがオブラートに包んだ事を暴露する。
オブラートって剥ぎ取るものだっただろうか?
「ことりさん。」
「はい?」
「もぐちゃん注射も苦手みたいなので、ワクチン接種の時には注意してあげてくださいね♪」
良いアドバイスをしたとニコニコ笑う広瀬さんに肉球パンチ(爪あり)をおみまいしたいオレは悪くないと思う!!
アドバイスを聞いたことりは再びオレと目を合わせた。
「もぐ〜、シャンプーも注射も怖いん?おとこのこやろ!?シャンプー頑張ったらおもちゃ買ってあげるから頑張り〜♪それに注射は針見なかったから痛くない痛くない♪」
ちょ、騙されないよ!
おもちゃは元々買ってくれる予定だったじゃないか!
だいたい注射に関しては『しっかり針を見た方が痛くない』って言ってた人もいたぞ!?
「わぁ♪もぐちゃんおもちゃ買って貰えるんだ♪よかったね〜♪」
「おもちゃのためにもシャンプー頑張ろうね〜♪」
ことり〜!やっぱシャンプーやだ〜!
キュゥ〜ン!キュゥ〜ン!キュゥ〜ン!
「じゃあ、お願いしま〜す♪」
ことり〜!!
キュゥ〜ン!!
北川さんに連れられて中に入ってシャンプーされる。
前回と違って実況されるわけじゃなく、「水流すよ〜♪」「えらいね〜♪」など、優しい言葉をかけてくれた。
人に説明しながらシャンプーすることに比べると当たり前だが、今回のシャンプーコースは早く終わった。
羞恥拷問コースの羞恥はとってもいいかもしれない。
一番高い所にある犬舎に入れられて、水を置かれた。
北川さんがことりに電話をかけてるな、すぐに迎えが来るだろう。
今回は早く終わって本当に良かった♪
「もぐちゃん、お迎えもうしばらくかかるからお利口さんにしててね〜♪」
なんですと!?
ピンポン!ピンポン!ピンポーン!!
北川さんは言うだけ言うと、次のお客様のところへ行く、それにしても荒いチャイムの鳴らし方だな。
「予約しております、高野ですけど!」
なんか高飛車なおばさんだな、嫌な感じだ。
「はい、伺っております。高野ラックスくんですね。お預かり致します。終了後にお電話を「結構です!」
あまりに食い気味に拒否されて、唖然とする北川さん。
「何時に終わるのかしら!?」
「・・・今から1時間後くらいですね。」
「分かりました!1時間後に来ます!」
そう言って高飛車なおばさんはヒールを鳴らして帰って行った。
犬好きに悪い人はいないっていうけど、本当に感じの悪いおばさんだな。
どんなワンちゃんを飼ってるんだ?
北川さんに連れられてトリミング室に入ったワンちゃんを見て驚いた。
ガチャ
慌てたように入ってきた広瀬さんはそのワンちゃんを抱きしめて、絞り出すように苦しげな声で名前を呼んだ。
「コーちゃんーーーッ!!」
そこにはかつてオレが『お幸せに』と願ったコーギー先輩が痩せ細ってボロボロの状態で広瀬さんに抱きしめられていた。
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