126オレを知らない店員さん
「10時前にタイミングよく来れるバスはなんてなかった!なかったたらなかった!」
小声で何度も言い聞かせて、自分自身を慰めることりに例え言葉が喋れても『あるよ』とは言えそうにない。
真横を通るバスを見ないようにして、オープンしたお店に入る人波に紛れて進む。
「「「いらっしゃいませ〜!!」」」
クリスマスの装飾をされた店内とクリスマスソングが楽しい気分にさせ、ホテルにワンちゃんを預けた飼い主はこれからの旅行の予定を楽しそうに話し、ワンちゃんのごはんを買いに来た飼い主はクリスマスだからと特別なおやつに手を伸ばし、ワンちゃんとの出会いを求める人は、「ダックスがいい」「柴犬がいい」と期待をこめて2階へ上がり、トリミングへ来た飼い主は愛犬に「今日はスペシャルシャンプーコースにしたからね♪」と笑顔を向けて話しかける。
嫌なことを聞いたな・・・羞恥拷問コースにスペシャルバージョンがあったとはッ!!
そんな楽しい雰囲気の中で、ライフゼロのことりとこれからライフゼロになる予定のオレがいる。
場違いじゃないかな?
「いらっしゃいませ♪何かお探しでしょうか?」
キョロキョロしてたことりに店員さんが話しかけてくれた。
この店員さんは初めて見るなぁ。
「あ、はい。トリミングの予約をしてます、森山もぐです。えっと、どうすれば・・・?」
「トリミングですね♪ありがとうございます♪トリミング室へご案内しますね♪こちらへどうぞ♪」
「ありがとうございます!」
店員さんに案内され2階へと向かう。
「かわいいワンちゃんですね♪もぐちゃんって言うんですか?」
「はいそうです♪」
「おとこのこ?おんなのこ?」
「おとこのこです♪」
「そうなんですねー♪何ヵ月なんですか?」
「もうすぐ3ヵ月です♪」
「じゃあそろそろお散歩デビューですか?♪」
「そうなんです♪今日3回目のワクチンで♪」
「それは、楽しみですね♪」
「はい♪」
このペットショップで、店員さんに自分のことを説明するなんて変な気分だな。
2階へ上がると思わず探してしまうのはしょうがないだろう。
どこかなぁ〜?
お〜い広瀬さ〜ん!!あっ!いた♪
オレは広瀬さんに向かってしっぽを振った。
広瀬さんは「いらっしゃいませ〜♪」と声を出し、ちらっとオレを見てから犬舎の方へと視線を移してから、おもいっきり振り向いて目を大きく見開いた。
綺麗な2度見だな!
広瀬さんはオレとことりを交互に見て、だんだん目を細めて首を傾げる。
えっ!オレのこと気づかないの!?
飼い主が違うくらいで気づかないなんて酷いやつだなッ!
はぁ、まったくしょうがない。
キャン!キャン!キャン!
「えっ?もぐどうしたん?」
「やっぱりもぐちゃん!!??」
広瀬さんの驚きの声がフロアに響いた。
とりあえず、指さすな!
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