70『避けられたスネークアタック』
真夏ダイアリー
70『避けられたスネークアタック』
高野(省吾)は腕時計のリュウズを押した……。
とたんに、国務省の中の全てのラジオが鳴りだした。
――NBC、臨時放送です。ニューヨーク時間12時50分、国務省において日本政府から我が国政府に対し最後通牒が野村大使からハル国務長官に手渡されました……これを受け、国防省は、ハワイの太平洋艦隊のキンメル司令長官に、警戒電を発するもようで……。
「すごい、もうスクープされている!」
野村・来栖両大使は驚いた。
――省吾、あなたのしわざね――
――ああ、アメリカの三大ネットに仕掛けをしておいた。このあと、国務長官と大統領との電話のやりとりなんかも、ライブで流れる。この仕掛けに半年かかった――
四人が国務省を出て公用車にむかうと、ルーズベルト大統領の罵声が、国務省のスピーカーからも流れてきた。
――これじゃ、日本のスネークアタック(だまし討ち)にならんじゃないか、OSSや国防省はなにをやっていたんだ!――
――大統領、この会話は、ラジオで流れています!――
――なんだと!?――
「これで、前のようなもみ消しはできないわね」
「ああ、ただ、やつらは、我々を無事に大使館に帰すつもりもないようだ……大使、急いで車に乗ってください!」
「運転はわたしがやるわ!」
「大丈夫か?」
「まかせて、グランツーリスモ・5で鍛えた腕だから」
「後ろから。OSS、その横の道からはパトカーが通せんぼをしにきてる」
わたしは、絶妙のタイミングで、シフトチェンジし、後ろのOSSの車を引き離し、横の道からきたパトカーは、ドリフトさせてかわした。直後、後ろでクラッシュするする様子がバックミラーに映った。交差点に進入してきたパトカーにOSSの車が激突、消火栓にぶつかり、盛大な水柱が吹き上がった。
「あれは、消火栓の老朽化で処理されるはずよ」
わたしは、前回の経験から、そう踏んだ。
「……いま、我々を掴まえないように指令が出たようだ。ハル長官が叫んでる」
「高野君、軍人なら功一級の金鵄勲章ものだよ」
「ハハ、だいぶ寿命が縮む思いをしましたからね」
「そりゃ、わたしたちも一緒だ。真夏君、もう曲芸運転もいいだろう」
わたしってば、まだグランツーリスモのノリでハンドルを握っていた……。
大使館にもどると、大使館員の全員が集まっていた。
「大使、いま真珠湾攻撃成功の放送があったところです!」
「そうか……スネークアタックにならずにすんだ。これで任務終了……じきに日本に送還されるだろう。荷物を整理しておきたまえ。機密書類は、すぐに処分を」
野村大使はテキパキと指示を出した。来栖大使はネクタイを緩め、ソファーに座り込むと目を押さえた。
「わたしと真夏君は通信室を処理して、独自のルートで姿を消します。祝勝会は貸しということで」
「そうかい……高野君、真夏君、世話になった。日本で会えたら、いずれ……」
「はい」
わたしたちは二人の大使に挨拶をして、通信室に向かった。
「この資料を、暗号化して日本に送ってくれ」
それは、現時点でのアメリカ軍の情報のほとんどだった。
「こんな圧縮した情報、受信できるだけの装置が日本にあるんですか?」
「オレが作った。アナログで、解凍に三日はかかるが、この時代じゃ十分な早さだよ。項目別に送ってやらなきゃならないから、一時間近くかかるがね。その間、オレは日本の飛行機を誘導する」
「え、そんなので移動するつもり?」
「ちがうよ。アメリカの空母、エンタープライズ・ヨークタウン・ホーネットを発見させるんだ。空母を叩かなきゃ完全試合にはならないからね」
そうやって、わたしと省吾は、仕事に熱中した。
「できた!」
「終わった!」
同時に、最後の任務を終了。わたしは笑顔を省吾に向けたが、省吾の顔は暗かった。
「どうかした?」
「ジョージ・ルインスキが死んだ……」
「え……」
「国務省の角でクラッシュしたパトカーに乗っていた……重症だったけど、いま息を引き取った」
「そんな……」
潤と同じように、どういじろうと、変わらないことがあるんだと胸が痛んだ……。




