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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
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7『江ノ島クンとの出会い』

ただね、やなことが一つ。

真夏ダイアリー


7『江ノ島クンとの出会い』    




 今日の試験は、まずまずだった。



 なんの試験だったかって? それは言えません。


 試験二日目まで、ここで試験のこと書いたら、さんざんだったから。


 でしょでしょ。化学はヤマがはずれるし、数学は現代社会と間違えるし。で、このダイアリーには書かない。そしたら、ばっちし。わたしって、こういうとこ験を担ぐの。


 ただね、やなことが一つ。


「今日も爆発頭だよ……」


 試験開始前に、後ろの穂波がささやきながら、鏡を二枚貸してくれた。


「アッチャー……」


 合わせ鏡にして見たら、後頭部は使い果たしたモップみたく、ヒッチャカメッチャカ。


 携帯ブラシ出して櫛けずってみるけど、自分ではどうもうまくいかない。


「やったげるわ」


 穂波が憐れんで手伝ってくれる。


「……イテ、イテテテ」


「真夏、髪自体が痛んでるよ。ブラシが……!」


「イテ!」


「ブラシが通んないよ!」


 向こうの席で何人かが笑っている。


「ハハ、猿の毛繕い」


 大杉が聞こえるような、ヒソヒソ声で言った。


 言われた穂波も含めて、何人かが笑った。もち省吾と玉男も。


 穂波には、こういうとこがある。多少いじられても、それが面白ければ、自分もいっしょになって笑っている。気短なわたしが、なんとかクラスにとけ込めているのは、正直、かなりの部分穂波のおかげ。


 わたしってば、自分のダメなとこ、たとえ日記にだって書きたくないから、今まで書かなかったけど、穂波はできた子だ。


 次の休み時間に、ひっつめのポニーテールにしてみたけど、とたんに首周りが寒くなる。


「ハーックション!」


 父親譲りのでかいクシャミがしたので、それも止める。



――うーん、なんとかしなきゃ……わたしは決心をした。



「なんだ~今日はやんないの?」


 玉男がつまらなさそうに言った。


「乙女心よ、乙女心!」


「なんだよ、真夏がデートってのもありえねーだろうし」


「それって(問題発言……と、言いかけて)可愛くない!」


 やっぱ、穂波のようには返せない。しかし、このあと省吾の軽口が本当になってしまった……。


 N坂を登って千代田線の駅に向かう。そこで声をかけられた。


「あのう……乃木高の冬野真夏さん……ですよね」


「え……あ、はい」


 そこには、イカシタ乃木坂学院高校の制服が立っていた。


 むろん中身入りでね、制服だけ立っていたらホラーだわよさ。


 それに、ドッキリした。


 いろんな意味で。


 まず、その制服クンが昨日の朝、駅の改札でわたしのこと見ていたアベックのカタワレだったってこと。


 チラ見したときよりオトコマエ。


 そして……わたしの学校名をバラしたこと!


 わたしは、自分の学校をN高校としか書いてこなかった。


 正確には東京都立乃木坂高校という。千代田線の乃木坂駅を挟んで、上りが私立乃木坂学院高校。下ると都立乃木坂高校。


 ブランドがまるで違う。


 濃厚豚骨伊勢海老ラーメンと、インスタントラーメンほどに違う。


 ラーメンに例えることが、そもそもミミッチイ。であるからして、わたしは、この七回目まで、学校名は書かなかった。でも、このイケメン制服君なら許してしまいそう(^_^;)


「あの、春夏秋冬ひととせ君から、『デルスウザーラ』の観賞評見せてもらったんです」


「げ、省吾のやつ見せたんですか!?」


「うん、とても良く書けてるって、ネットで転送してくれて。本当によかった。黒澤監督が、地平線にこだわってカメラまわしてたことや、虎とデルスのカットバックに気づいて感動するなんて、感動でした」


「いや、あれは省吾の挑発にのっちゃって、つい……おかげで、明くる日のテストはさんざんだったし」


「ううん。あのタイガの自然と、男二人の友情を見事に汲み取ったとこの評なんてたいしたもんだった」


「あ、それは、どうも(#^_^#)」


 自分で、自分の頬が赤くなっていくことが恥ずかしかった。


「あ、初対面で話し込んじゃって、ごめん。どんな人か、一度声がかけてみたくて。これ、ぼくの名刺、よかったら、このアドレスで、メールとかくれると嬉しい。じゃ、呼び止めて、ごめん」


 制服は、爽やかに反対のホームへの階段に向かった。


 名刺には「乃木坂学院高等学校 文芸部 江ノ島裕太」と書いてあり、住所や携帯番号なんかが書いてあった。

 


 地下鉄に乗って気づいた。


 あのタイミングのよさ、一発でわたしを見つけてフルネームで呼んだこと。これは、省吾がイッチョカミしているのに違いない!



「美容院いくから、お金ちょうだい」


 わたしは、地下鉄を途中下車して、お母さんの出版社に行って、爆発頭の処理費用を請求した。


「いいけども、予約しなきゃなんないでしょ。試験中だよ、大丈夫?」


「うん、もう予約してある。お母さん御用達のハナミズキ」



「あら、冬野さんとこの真夏っちゃん」


 チーフの大谷さんは、覚えていてくれた。まあ、一回聞いたら忘れられない名前だけどもね。


「だいぶ痛んでるわね」


「ええ、ここんとこ構ってるヒマ無かったもんで」


「悩み多き青春だもんね。いろいろあるんでしょ」


「え……分かります?」


「そりゃ、化けるほど美容師やってるとね……地肌も荒れてるね。ほっとくとハゲちゃうわよ」


「ドキ……とりあえず、トリ-トメントしてボブにしてください」


「まかしといて。前向きに気分転換したいときは、ショ-トにすることね……(中略)ほい、できあがり」


「すっきりした。ありがとうございました」


「我ながら、いいでき。ちょっと撮っていい?」


「ええ、どーぞ」


 観葉植物の横で、ちょっとおすまし。


「ええ、これ、わたし!?」


 感動して、写真を送ってもらった。


 気のせいか、道行く人たちの視線が集まってくるような気がした。これで、テストの後半がんばりまーす!



道行く人たちの視線が集まってくるような気がした。

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