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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
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61『エリカの予言』

真夏ダイアリー


61『エリカの予言』    




 省吾のいない怖ろしさが心を占めていった。


 さっきまでは、寂しさだった。省吾のお父さんがモザイクになって消えていき、何事もない公園の風景の中に一人取り残されて、その寂しさは怖さになった。


 この世界は、省吾が居ないこと、それに関わる物や記憶がみんなから無くなっていることを除けば、何一つ変わってはいない。でも、それは全てを失ったことと同じように思えた。


 わたしは、小学校のころ渋谷に連れて行ってもらったとき、ステキなブローチを見つけた。親にねだれば買ってもらえそうな金額だったけど、わたしは、自分のお金で買おうと思った。その方が手に入れたときの喜びが何倍も大きいし、欲しい物を手に入れるということは、そういうことだと、子供心にも思った。


 三ヵ月かかって、やっと買えるだけのお金になった。お母さんが渋谷に用事があるというので、いっしょに連れていってもらった。貯めたお金が嬉しくて、途中何度も紙袋に入れたお金を見てはニマニマしていた。


「このお店で買いたいものがあるの!」


 そう言って、お店に入ってブローチを手にした。レジに持っていこうとして、愕然とした。さっきまで、ポシェットに入れていたお金の袋がない!

 わたしは、ポシェットをいっぱいに開けて、中を覗いたけど見つからない。お店の前の道路に出て探したが、雑踏の中に人々の足が見えるだけで、紙袋は見あたらなかった。


「どうしたの、真夏?」


 お母さんが声を掛けてくれ、わたしは涙目で、お母さんに説明した。


「なんだ、じゃ、お母さんが買ってあげる」


 そうして、ブローチは手に入った。


 でも、何かが違っているような気がした。これを買ったお金は、貯めたお金と同額だった。でも、わたしが貯めた、そのお金じゃない。けして貯めたお金が惜しいんじゃなくて、貯めるために努力したり我慢したことが、そのお金には付いていなかった。お金ではない大事な物を無くしてしまった。そんな喪失感。


 省吾が居ない世界は、その喪失感に似ていた。


――分かるわよ、その気持ち。


 びっくりした。エリカが話しかけてきたのだ。


 このエリカは観葉植物のジャノメエリカ。去年のクリスマス前に買って、ギクシャクしていた、わたしとお母さんに、精一杯の愛情をくれて枯れてしまった。ジーナさんが、同じDNAで作ったクローンのエリカ。でも、記憶はオリジナルのときのままのようだ。


「あなたは、もとのエリカ……?」


――うん、わたしだけ、元の世界からついてきた。


「じゃ、省吾のことも覚えてるのね!?」


――そう。カテゴリーじゃ、真夏の付属物だから、付いてこられたの。


「付属物?」

――真夏の体の一部と同じ。


 急に親近感がこみ上げてきた。そして、ワガママを言った。


「省吾に会いたい!」


――また、会うことになるわよ。ちょっと歳くった省吾だけど、中味は元々の省吾。


「……時間かかるんでしょうね」


――そこまでは分からないけど。もう一回会うのは宿命のようよ。それまで、真夏は、この世界でやらなくっちゃならないことが、いろいろありそう。エリカの予言。


 エリカの予言は、次の朝には現実のものになった……。


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