6『裏切りの青空』
そう思って二度寝したのが悪い訳じゃない。
真夏ダイアリー
6『裏切りの青空』
「……まだ大丈夫」そう思って二度寝したのが悪い訳じゃない。
この世に生まれて十六年。部屋に差し込むお日さまの光の具合で、おおよその時間は分かる。念のためにセットアップした目覚ましも、五分早く設定してある。それで、まだ大丈夫と、五分の二度寝を自分に許した。
「せーの……!」
二度目の目覚ましのアラームで起きあがり、大あくび一つしてテレビを点ける。おなじみのキャスターが朝からオヤジギャグを飛ばしている。
え?
その右下の画面を見てタマゲタ。
タマゲタと言っても、どこかの大スターがが死んだとか、地震や大事故の速報があったわけでもない。時間が予定の八分先になっている。部屋の時計は呑気に八分遅れの時間を示している。
ドンヨリと薄暗い空模様に時間の感覚が狂ったんだ。
――ちっ! 百均の安物の乾電池を入れていたことが悔やまれた(引っ越し以来八か月、きちんと時を刻んでくれたんだから、ほとんど八つ当たり)
テスト期間中は、学校の始業時間が遅いので、お母さんの方が先に出てしまう。ま、わたしも子どもじゃないんで、自分の時間の管理ぐらいはできて……いた、今までは。
夕べ省吾が「デルスウザーラ」の感想文なんか頼んでくるから、わたしってば、そっちに時間くわれて、テスト勉強に支障をきたした。省吾に文句いわなっくっちゃ!
よくマンガやドラマで、遅刻しそうになった主人公が食パン咥えて駅まで走っていたりするけれど、実際にやってる人を見かけたことは無い。あれはドラマの演出。
じゃ、朝抜きで出かけるかというとそれもしない。朝は、なにかお腹に入れておかなければ血糖値があがらない。我が家では、親が離婚する前からの習慣。
で、生焼けのト-ストを、コーヒー牛乳で流し込んで、家を飛び出す。玄関のドアを閉めるときにエリカ(鉢植えのジャノメエリカ)が笑ったような気がしたが、そのまま駅までダッシュ。
千代田線のN駅で降りる。
改札を出たところに乃木坂学院のアベックの視線を感じる。なんだか見下されたような感じ。そんなのはシカトして、階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。すれ違ったサラリーマン風のオッサンの狙撃するような視線を後ろに感じた。スカートが翻っておパンツ見えてんのかもしれないけど、見せパンだもん。一瞬の意地を張ってN坂を駆け下る。
……なんとか間に合った。
でも、冬だというのに汗だく。
朝食のカロリーはこれで使い切ってしまった。お腹がチョキに勝つ音を派手に出した。まわりの人たちが笑いをこらえている。後ろの保坂穂波が、笑いながら鏡を貸してくれた。
「見てごらんよ、あ・た・ま」
「ん……」
セミロングが爆発していた。
乃木坂学院のアベックも、サラリーマン風のオッサンの視線は、ここにあったのかもしれない……くそ!
――いっそ、遅刻したほうがスガスガしいぞ――
省吾が、ノートにでっかく書いて見せる。その向こうで大杉が笑ってる。この場合大杉が笑ったのは許せる。でも省吾は許せない。
――あんたのせいなんだからね!――
「これ、食べなよ」
玉男がカロリーメイトをくれた。それを食べ終わったころ、監督の我が担任、山本先生が入ってきた。
「じゃ、試験配るから、机の上を片づけて」
教室に密やかな緊張感が走る。で、配られた試験用紙を見て声が出た。
「うそ!」
「なんだ冬野?」
「いいえ、なんでも……」
わたしってば、一時間目は現代社会だと思っていたら、数学だった……。
「ほんとに今日の真夏はバカだよな」
わたしの直球を馬鹿力で打ち上げて、省吾が言う。
「バカバカいわないでよね。今日のは省吾のせいなんだから」
「真夏に、なにかした、省吾?」
玉男が、打ち上げたフライを受け止める。
「なんにも」
「夕べの、映画の感想!」
「ああ、言ったろ。急がなくっていいって」
「でも、言われたら、イメージが膨らんじゃってさ!」
投げた球は、ピッチャーゴロになったけど、わたしは、そのゴロを取り損ねた。
「真夏、文芸部に入れば。あの感想文よく書けてたよ」
「……ありえない。あんなユルユルの文芸部なんて!」
「文芸部って、そんなもんヨ」
玉男が、取り損ねたボールを拾って投げ返してきた。
「真夏、おまえ文才あるよ。灯台もと暗しだった」
めったに人から誉められないわたしは、うろたえた。
「ね、お昼食べにいこうよ。わたし、朝からちゃんとしたもの食べてないから」
で、食堂ですますか駅前のファストフードにするかで、もめる三人でありました……(^0^)
空は、朝のドンヨリとはうって変わった裏切りの青空。
ま、いいか。
今の気分にはピッタリだし。
ね、お昼食べにいこうよ。わたし、朝からちゃんとしたもの食べてないから。