↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
47/72

47『桜の記憶』

真夏ダイアリー


47『桜の記憶』    




 うっすらと、セーラー服にモンペ姿の女学生の姿が見えてきた……!


「あれは……」


「じっと見ていて……」


 女生徒は、もんぺ姿から、普通のセーラー服に変わり、視野が広がるようにまわりの様子が変わってきた。


 女生徒の仲間が増えた。友だちを待っているんだろうか、弾んだゴムボールのように笑いあって……ハハ、先生に叱れれてる。みんなでペコリと頭を下げたけど、先生が通り過ぎると、またひとしきりの笑い声。

 先生も、仕方ないなあと言う感じで苦笑いしていく。

 やがて、お下げにメガネの小柄な子が「ごめん、ごめん」と言いながらやってきた。で、だれかがおかしな事を言ったんだろう。ひときわ大きな笑いの輪になり、校門に向かった。

 途中に、なにか小さな祠(ほこら)のようなものがあり、ゴムボールたちは、その前までくると弾むことを止め、祠にむかって、神妙な顔でお辞儀した。そして、校門を出る頃には、もとのゴムボールに戻って、坂を昇り始めていった。


「あの祠、奉安殿……」

「よく知ってるわね」

「でも、この景色は……」

「あの桜の記憶。乃木坂女学校が、まだ良かったころ……そして、一番愛おしいころの記憶」

「……なぜ、こんなものが見えるんですか」

「あなたに、その力があるから」


 仁和さんが黒板を一拭きするように手を振ると、景色はもとに戻った。


 グラウンドの桜並木を歩きながら、仁和さんは、語り続けてくれた。不思議に人が寄ってこない。こういうときの仁和さんには話しかけちゃいけない暗黙のルールでもあるのだろうか。


「そんなものないわよ。わたしが、そう思えば、そうなるの」

「どうして……」


 心が読めるんだろう……。


「ホホ、わたしの超能力かな……さっき見えた女生徒や先生は、みんな空襲で亡くなったの。あの桜は、その人達が死んでいくとこも記憶してるけど、桜は、あえて良かった時代のを見せてくれた。これは意味のあることよ」

「どういう……」

「それは、真夏という子に託したいものがあるから……」


「仁和さん……ご存じなんですか……あ、なにか、そんなことを」


「ううん。なんとなくね……あなたは、ただのアイドルじゃない。そして、あなたがやろうとしていることは、とても難しいこと……それぐらいしか分からないけど、桜が見せてくれた人たちが死なずにすむように、あなたなら……」


 仁和さん、真夏、お昼の用意ができました!


 潤が、校舎の入り口のところで呼ばわった。


「ホホ、わたしの超能力も腹ぺこには勝てないみたいね」


 昼食後、旧館の校舎の中で屋内の撮影。掃除用具のロッカーを木製のものに変えたり、アルミサッシが写らないようにカメラアングルを工夫したり、仁和さんと黒羽さんのこだわりは徹底していた。


 帰りは、ロケバスと、観光バス二台で事務所に帰る。わたしは省吾たちといっしょに帰りたかったけど、そこは我慢。アイドルは団体行動!


 仁和さんが、ニッコリ笑って横の席をうながした。


「仁和さん、タクシーじゃなかったんですか?」

「わたし、こういう方が好きなの。あなたとも、少し話しておきたかったし」

「はい……」


 仁和さんは、お昼や休憩時間は、黒羽さんや他のメンバーとも話していた。でも、わたしと話したがっていることは確か。なんだか緊張する。


「寒そうだけど、見事な青空ね……」

「はい、冬の空って、透き通っていて好きです」


 1941年のワシントンDCの青空を思い出していた。


「本当は、もっと違った青空の下で撮りたかったんでしょうね……」


 一瞬、ギクリとした。


「ミツル君、福島の出身なの……覚えとくといいわ」


 会長が口にしない歌の意味が分かったような気がした……。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。