32『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
真夏ダイアリー・32
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
新年会の「夢物語」のあとで、玉男が「現実的なこと」を言った。
「ねえ、みんな、冬休みの宿題やった?」
一瞬、シーンとなり、お互いの顔をうかがった……。
――やりました……という顔は一つもなかった。
「みんなで、ワークシェアリングしようぜ!」
省吾のアイデアに、みんなが飛びついた。
で、ジャンケンの結果、わたしには読書感想が回ってきた。
由香が、読書感想用の本を持っていた『のぼうの城』と『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』という本だ。このダイアリーを見ても分かると思うんだけど、本を読んだり、文章を書いたりというのは、わたしの得意技。
『のぼうの城』は、わたしも読んでいたので、これは楽勝。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』こんな本は知らない。
「これ、AMAZONでプレミアが付いて、8000円もするんだよ!」
「いいの、そんな貴重本借りて?」
「ハハ、他のネット書店じゃ、定価の1260円。版元の青雲書房で買えば、送料無料の定価よ。わたしは、渋谷のジュンプ堂で、たまたま見つけたときに買ったんだけどね。なんたって、お隣の学院が舞台なんだもんね」
「我が乃木坂は出てこないの?」
「カケラも。それを除けば、けっこう面白い本。まあ、二時間もあれば読めるわ」
本当に二時間で読めてしまった。
まどかって子が、廃部寸前の演劇部を再建していく青春ドラマ。
展開が面白く、主役も、わたしと同い年なんで、「ああ、こういうことってあるよなあ」と入り込めて読めた。
学校近辺の描写もリアルで、親近感が持てたしね。
ただ、ラストで、主人公のまどかが、カレの忠友クンとうまくいっちゃうのは、ラノベとはいえ、羨ましかった。
しかし、由香が言っていたとおり、半年の長さで物語が書かれているのに、我が都立乃木坂高校には一言も触れられていないことが、寂しいというか、不自然だった。
――大規模演劇部が、事故や顧問の退職で部員が激減した乃木坂学院高校演劇部が小規模演劇部に落ち込みながら、主人公まどか達の努力で再生するまでを、まどかの恋物語や、幽霊部員(本物の幽霊!)の活躍をからめ、下町の荒川周辺、乃木坂界隈を舞台に展開。女子高生の恋物語と演劇部の再生を縦糸に、時代を超えた友情を横糸に繰り広げられる青春コメディー。アハハと笑い、ホンワカと温もり、ちょっぴり涙するうちに、気が付けば、演劇部の有りようが分かるマネジメント本でもある。現役高校生から大人まで楽しめる物語。主人公のまどかは、こんな子が友だちに、妹に、娘にいたら、とても人生が楽しく、ハラハラドキドキさせられる。人生って、若いって、お芝居って楽しいと思えました――
と、要約すれば、そういう内容になる読書感想を書いた。
『のぼうの城』は、こんなふうに書いた。
――“のぼう”ってのはデクノボウの事、時は戦国の再末期 秀吉の北条攻めが舞台。北条方の一枝城「忍城」守兵500人対秀吉方 石田三成・大谷吉継以下20,000人。この忍城守護のトップが“のぼう様”こと成田長親。
デカい身体をしているが武術・体術からっきし、城代の倅ながら城下の村をうろつき百姓仕事を手伝いたがる。
それがまともに出来るならまだしも、麦踏み程度の作業にも失敗する。 百姓にしてみれば有り難迷惑も良いところで 本人にメンと向かって「のぼう様は手を出さんで下され」と言い放つ。言われた長親、悲しそうではあるが一向に怒る気配なし。
さて、この話 れっきとした史実であり、成田側、石田側はたまた公式の戦記にもはっきり記載されている。
江戸期の書物には 公方に逆らった者として、必要以上に石田三成を貶めた書き方がされているが、戦闘があった当時のリアルタイム資料が五万と残っている。
本作の面白さは、合戦のスペクタクルと、“のぼう様”が本当に馬鹿者なのか稀代の将器かトコトン最後まで解らないというこの二点。
時にハラハラ、時に爆笑(こっちの方が多い)しながら最後まで一気に読ませる。作中 長親が内心を吐露する部分は一切ない。その場に一緒にいる人間の評価が示されるだけで、読者にも全く判断が付かない形になっている。一読、隆慶一郎の何作かが浮かんだが……隆さんの作品にも この小田原攻めを扱った部分は多くあるのだが、また違った趣の小説である――
これでも要約なんだけど、まあ、本の中味が『のぼう』の方が倍ほどあるので、こんなもの。これを、お仲間に一斉送信。あとは、適当に言葉を足してもらって、それぞれのオリジナルにしていただく。
今日5日は、午後からシアター公演がある。
相棒の潤に迷惑かけるわけにもいかないので、早めに家を出る。もう一度読み直そうと『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』をカバンに入れていく。地下鉄で上手く座れたので、パラパラとページをめくり、後書きを読む。
――この物語に出てくる、団体、人物は架空のものです――
その一言が、ひっかかった……架空じゃないじゃん。乃木坂学院って、実在するし……。
「そう、この世界じゃね。この作品を書いた作者の世界では、実在しないんだよ」
いつのまにか、隣りに、省吾のお父さんが座っていた。
「分かったかい、パラレルワールドが存在することが……」
「おじさん……」
「まもなく指令がとどく、よろしく頼むよ。真夏クン」
そう言い残し、おじさんは、次の駅で降りていってしまった……。




