25『代役の年末特番』
真夏ダイアリー
25『代役の年末特番』
その夜、夢の中にエリカが現れた。
そっと手を開くと、鉢植え用の栄養剤が載っている……。
「わたしには、もう、これも効かないわ」
エリカが、こんなにまとまった言葉を話すのは初めてだ。
「わたし、真夏と、お母さんが仲良くなれるようにがんばった……」
「知ってる……何度も夢に出てきて励ましてくれたものね」
「最初は自信があったの。あなたたち母子の仲は必ずわたしが取り戻してあげられるって。夕べは、最後の大勝負をかけてみた。二人ともグッスリ眠れたでしょ」
「うん……あれ、エリカのおかげ?」
「大浴場で、お母さんのスキンシップ、すごかったでしょう……」
「うん、背中流してくれたり、オッパイつかまれたり、ちょっとヘンタイみたいだったけど」
「あれ、お母さんの愛情なんだよ」
「分かってる……でも、どう絡んで、どう受け止めたらいいか分からなくて……」
「真夏には、なんだか他の力が働きかけているみたい。その力が強くて、わたしの力が及ばない」
「他の力……?」
「わたしにも分からない力……その力が無くなったら、また、わたしが力になれるかもしれないわ」
「……エリカ」
「わたしは、もうダメ。でも、わたしと同じDNAを持ったジャノメエリカは、他にもいるわ。わたし達は株分けで増やされた、いわばクロ-ンだから。これから、真夏には何が待ち受けているか分からないけど、くじけずにね……ね」
そこで、夢の意識が切れてしまった。
その朝、エリカは花を全て落として枯れて……いえ、死んでいた。
「やっぱ、長続きしないね……ようし、今日は、お母さんが買ってくるね」
「エリカは……しばらくやめてね」
「もち、お正月に相応しいの見つくろってくるわ」
語尾のところでは、もう、お母さんはキッチンに向かい、吸った息を鼻歌にして朝ご飯の用意にかかった。
わたしは、さっさと朝ご飯を済ますと、出かけることにした。
「あら、早いのね」
「うん、ちょっと寄っていきたいとこもあるし」
わたしは、事務所に行く前に渋谷に寄ってみた。むろん例のハチ公前。
予想はしていたけど、なにも起こらなかった。ポケットの中のラピスラズリのサイコロにお願いしても、変化はなかった。
――やっぱ、気まぐれなんだな。
そう思いながら、道玄坂まで行ってみたけど、なにも変わらない年末の賑わいだった。
Ⅳ号戦車なんか影も形もない、当たり前だけど。
わたしは、そうやっているうちにウィンドショッピングをしている自分に気が付いた。
わたしってば、この三週間あまり起こった身の回りの変化に、なんだか超常現象めいたことを思いこんでいただけなんだ。
潤とそっくりなのは、娘は父親に似るってことで説明が付くし、美容師の大谷さんが、それに気づいて、いたずら心で潤そっくりな髪型にしたことで、吉岡さんが見間違え、あとは、知らず知らずのうちに自分にかけた自己暗示。
エリカと話ができたのも夢の中だけ。ってことは夢なわけ。
ラピスラズリのサイコロは路上販売のオジサンに乗せられただけ、あとのいくつかの不思議も、わたしの思いこみ。
「おはようございま~す!」
おきまりの挨拶を何度かして、わたしはスタジオに入った。
「神楽坂24の子達が移動中に事故ってしまって、急遽うちにお鉢が回ってきたんだ。テレビ東都には義理があるんでね、三つ葉クロ-バーにお願いなんだ」
吉岡さんが手を合わせる。
AKR47の年末のスケジュールはいっぱいいっぱいだった。選抜メンバーでもある、三つ葉が抜けるのは痛いようだけど、神楽坂とは共存共栄。会長の一声で決まったようだ。
他の選抜の子たちが出かけたあと、スタジオいっぱいに使って、知井子、萌、潤、わたしの四人で、その日の振りと、立ち位置を確認し、台本は移動の車の中で目を通した。
さすがに、年末のやっつけ番組、簡単な打ち合わせの後、カメリハ。お弁当の休憩を挟んで、すぐに本番になった。
お弁当を食べながら必死で進行台本に目を通したけど、本番はADさんたちがQをくれるし、カンペだらけだし、歌と振りだけミスらなければOKというものだった。神楽坂の持ちネタである『居残りグミ』の歌と振りでは、ちょっとキンチョーしたけど、自分たちの『ハッピークローバー』はリラックスしてやれた。
それは、歌のサビの部分でおこった。
ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー♪
そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……
なんとライトが落ちてきた!




