22『真夏のデビュー』
真夏ダイアリー
22『真夏のデビュー』
二番になったところで、潤が入ってきて、いっしょに歌いだした。
バーチャルアイドル拓美をセンターにして、左右に、わたしと潤。わたしは驚きながら、表面は平然と歌い、踊り続けた。
「え、いったいナニ、これ!?」
タムリのオッサンが白々しいことを言う。
「あ、わたしが本物で、こっちが従姉の真夏です」
潤もニコニコ答える。
「ちょっとドッキリだったでしょう?」
涼しい顔で潤は続け、明日のゲストである同じAKRの矢頭萌に電話して、番組のエンドロールになった。
「ねえ、なんであんなことしたのよ!?」
楽屋に戻ると、わたしは潤に詰め寄った。
「ごめん真夏……」
潤は今までの業務用の笑顔を消して、うなだれた。
「オレが説明する……この放送局にやられちゃったんだ」
吉岡さんが苦々しく話し出した。
「潤がスタジオに入ってきたときに、ハンドカメラで潤のこと撮られてしまったんだ。生だから、そのままオンエアーされちまって、隠しようがなくなって」
「そのあとは、わたしの判断……真夏が姉妹だってことは、もうマスコミには流れてるし、真夏も、あんなに見事に歌って踊ってるし、もう逆手にとって、やるっきゃないと思ったの。でも、真夏、なんであんなに上手いの?」
「そうだよ、オレが見てもそっくりだった」
「わたしも、分かんないよ。なんだか自然に体が動いちゃって……自分が自分でないみたいだった」
そのとき、吉岡さんのスマホが鳴った。
「はい……あ、黒羽さん……え、いいんですか、そんなこと……会長命令……分かりました」
「なにがあったの?」
「真夏っちゃん……明日、潤といっしょに記者会見に出てくれないか」
記者会見の前に、事務所のスタジオで、もう一度歌って踊った。プロディユーサーの黒羽さんと光ミツル会長が見ていた。やっぱり体と声は、意思に反して潤になってしまう。
「やっぱり、そっくりだ……開き直って売り出すしかない」
「売り出すって……?」
「キミを、AKRの準メンバーとして発表する」
黒羽さんが真面目な顔で言い、会長さんは黙って頷いて、潤はうつむいている。
そんな状態が、三十秒ほど続いた。スタジオの中では自分の呼吸音しか聞こえなかった。
「一応、お母さんに連絡させてもらうよ」
沈黙を破って、黒羽さんが言った。
「いいです。自分の意思で決めます」
そう、わたしは自分の意思で決めた。
お母さんもお父さんも自分のやったことの結果だけを知ればいいんだと、そう思った。
思いの底には、十年間の寂しさが潜んでいた。その寂しさのさらに底には……口で言えないような感情が潜んでいる。
「芸名は自分で付けていいですか?」
「うん。でも、あんまり変なのは却下だよ」
「わたし……鈴木真夏でいきます!」
自分でもびっくりするような大きな声になった。
記者会見は大盛況だった。民放各社にNHKまで来ていた。
「芸名の由来はなんですか?」
思った通りの質問がされた。
「イチローさんにあやかりました」
予定通りの答えをした。
「そういや、よく放課後、グラウンドで野球やってますよね」
K放送の芸能記者が写真を見せながら言った。うらら達と五人野球をやっている写真だ。わたし以外の顔はモザイクになっていたけど、いつの間に……早々に、この世界の怖ろしさを思い知った。
その夜の歌謡番組にさっそく出ることになった。さすがにお母さんに連絡した。
――見てたわよ、テレビ。帰りは何時……あ、そう。帰ったらお母さんとささやかにお祝いしよう。で、明日と明後日は、スケジュール空けといてね。
部活で遅くなるぐらいのお気楽さで、お母さん。なんか予感がしたが、深くは考えないことにした。
鈴木真夏としての初仕事は年末の特番だった。
昼にセンセーショナルなデビューを果たしたばかりだったので、番組の視聴率が稼げるとディレクターは大喜びだった。出演しているみんなが喜んでくれているように思えた。
「気を付けて、どこで足を引っ張られるか分からないから」
潤が、CMの途中、ひそめた声で言った。
出番が終わって、バックシートに戻る途中、誰かとぶつかった。交代にステージに上がるアイドルグループだった。
番組が終わって、楽屋に戻ると、衣装の脇の所が小さく裂けていた……。
やれやれ……
なんとか日付が変わるまえに帰宅できた。
「わたしも、いま帰ってきたとこ。二日間休暇とるの大変!」
そう言いながら、小ぶりなケーキを用意してくれた。「おめでとう真夏」と書いたホワイトチョコのプレートが載っている。
「ありがとう、お母さん」
「おめでとう、鈴木真夏!」
ジンジャエールで乾杯。
その傍らで、エリカが精一杯背伸びしたように花をほころばせていた……。




