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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
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2『花の命は短くて……』

『お名前おへんこ組』は互いの距離の取り方がうまくって、真夏には居心地がいい。

真夏ダイアリー


2『花の命は短くて……』    





 あーヤダヤダ……!



 なにがヤダって、明日から期末テスト。


 テスト二日前ってのは、少し気が楽。なんと言っても明日はテストの前日で、授業は昼まで。それが楽しみ。


 ところが、そのテストの前日になると、わたしにも猿以上には想像力ってのがあって、明日の試験に勉強……の真似事程度のことはしなくちゃならない。


 ドシガタイってほどバカじゃないけど、なんにもしないで試験受けて点数とれるほど賢くもない。中間じゃ二個欠点とってるし、一応の挽回ははからなくっちゃならない。



 どうも、高校に入ってから調子が悪い。



 中学じゃそこそこいけてた。フェリペは無理だとしても、専願なら乃木坂学院ぐらいは入れた。乃木坂学院の制服は、かつて『東京女子高制服図鑑』にも載ってたぐらいいけてる。で、行きたかったんだけど行けなかったのは我が家の事情が……いまは言いたくない。


「今日、どうする?」


 省吾が、窓の外、木枯らしに唸っている電線を見ながら聞いてきた。


「昨日は、あんなにポカポカだったのにね」


「じゃあさ……」



 玉男の提案で、いつもの三人野球を止めてカラオケにいくことにした。



 エグザイルとももクロでもりあがり、いきものがかりでシンミリ。次のAKBで落ち込んだ。


「どうした、真夏。なんかノリ悪いぞ」


「うーん……なんだか真冬に『真夏のSOUNDS GOOD!』てのもね……」


 ズズズ~


「あ、カラ?」


 飲みかけのオレンジジュースがカラになっていることに気が付いた。


「なんか注文しようか?」


「いい」


「久々に、入学式でからかわれたこと思い出したか?」


「あれは、もう終わったって。大杉ともテキトーだし……」


「じゃ、整理……」


「あ、生理……」


「ばか、そっちのセイリじゃねえよ」


 省吾が玉男をゴツンとした。


「真夏は、整理のついてないことが、ゴチャゴチャなんだよな」


「ま、そんなとこで理解しといて。わたし、お母さんに用事も頼まれてたから」


「そんなつまんないこと言わないでよ」


「ま、おれ達も、お家帰ってお勉強すっか。玉男、明日の試験覚えてっか?」


「えーと……」


「玉男の好きな家庭科と化学と現文、じゃあね」



 ワリカン分のお金を置いて木枯らしの街に出た。



 省吾は、わたしの気持ちを分かっている。話せば、なにか結論めいたアドバイスをくれそうなことも分かってる。

 でも、今のモヤモヤを人に整理されたくない。


 それに、そんな相談を省吾にしてしまったら、気持ちが省吾に傾斜してしまいそう。わたしたち『お名前おへんこ組』は、あくまで、オトモダチのトライアングルなんだから。



 今日のお使いは、なじみの花屋さん。


 うちのお母さんは、花を絶やさない。


 前の家にいたころからずっとだ。鉢植えが多かったけど、今は名ばかりのマンションなので、生け花ばっか。

 以前は、お母さんが自分で買ってきた。でも仕事をやり始めたので、花屋さんに寄る暇がなくって、夏頃からはわたしの仕事。


「あら、なっちゃん。もうお花?」


 花屋のオバサンに聞かれて、気が付いた。ほんの二週間前に山茶花を買ったばかりだ。


「山茶花って、長く咲いてるんですよね?」


「うん。ときどき水切りとかしてやると、一カ月はもつわよ」


「五日ほど前に、元気ないんで水切りしたとこなんです」


「……まあ、部屋の湿度とか、日当たりとかの条件もあるから。で、今度は、どんなのがいい?」


 そう言われて見回すと、まわりはポインセチアで一杯だった。クリスマスが近いんだ。うす桃色の蕾を付けた鉢植えが目に付いた。


「これ、なんていうんですか?」


「ああ、ジャノメエリカ。これは切り花にしないで、鉢植えがいいわ」


 小振りだったので、窓辺でも育つと聞いて、それにした。


「高く伸びちゃうから、枝先切っとくわね……」


 オバサンは、ていねいに枝を選んで、枝先を切ってくれた。


「花屋の言い訳じゃないけどね、花って、一方的に愛情をくれるの……だから、受け取る側が、吸い取り紙みたいになっていたら、花は愛情注ぎすぎて早く萎びてしまうのよ……」


「そうなんですか?」


「うん。それに、今のなっちゃんて、花でなくっても分かるわよ……」


「そ、そうですか?」


 わたしは急ごしらえの笑顔になった。


「まあ、お花に話してごらんなさい。そんな歯痛こらえたみたいな笑顔しないで、いろんな答をくれるから」


 オバサンは、ぶら下げて持てるようにしてくれた。代金を払って出ようとして振り返った。


「こないだの山茶花の花言葉ってなんですか?」


「赤い山茶花だたわよね?」


「はい」


「ひたむきな愛」


「……ひたむきな愛」


 ジャノメエリカも聞こうって思ったけど、気が引けた。オバサンの顔が「自分で調べなさい」って感じがしたから。



 で、家に帰って調べてみた。


 ジャノメエリカの花言葉は、孤独だった……。



花は自分で買うのがいい、愛情の持ち方が違うからね。水やりを忘れたりはしないよ。

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