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真夏ダイアリー  作者: 大橋むつお
19/72

19『ラピスラズリのPSYCHOLO』

真夏ダイアリー・19

『ラピスラズリのPSYCHOLO』    




――二十五日、テレビに出てもらえないかなあ……。


 とても申し訳なさそうだった。


 潤は腹違いの姉妹。


 で、潤が知らないうち……ってか、潤の存在そのものをこないだ潤に間違われて大騒ぎになるまで気づかなかったんだけど。


 潤は売り出し中のアイドルグル-プのAKR47のホープ。行きつけの美容院の大谷チーフが、気づいていて、髪をカットしにいったときに、潤そっくりなヘアースタイルにされ、しばらくは間違われっぱなしだった。


 潤本人や事務所の会長さんの約束で、もう、わたしは潤とのゴタゴタには巻き込まれないことになっている。


 ところが、潤の電話の声には、そのゴタゴタに巻き込まれそうな(つまり、「申し訳ない!」って気持ちが滲み出ている)気配。わたしは半ば覚悟を決めて聞いた。


「どういうことか、まず説明してくれる?」


――事務所のミスで、仕事がダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。


「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」


――申し訳ない。『イイトモ』の方に……。


「わたしと潤は似てるってだけで、中味はぜんぜんちがうんだよ。潤てことで出たらサギになっちゃうよ」


――あ、真夏は、真夏でいいの。特別ゲストってことで、真夏に出てもらって、後半わたしが入るから。ね、お願い、一回ポッキリだから。ね、一生のお願い!


 わたしは人生初めてのテレビ出演をすることになってしまった。


 迷子になっちゃいけないというので、スタッフの吉岡さんが迎えにきてくれることになった……てか、わたしの気が変わって逃げ出さないための見張りだと思う。


 交換条件にクリスマスプレゼントを頼もうかと思ったけど、なんか人の弱みにつけ込んでいるようで、やめた。


 お昼ご飯食べてから、気分転換を兼ねて、渋谷に出てみた。


 300均の店を一軒検索しておいたのだ。定期プラスちょっとで行ける。


 渋谷の駅に着いてみると、ちょっと変な気がした。駅の東側に行くつもりが、西側に出てしまった。


 ……なんだか、とってもハチ公に会ってみたい気になった。


 ハチ公は、待ち合わせの人たちや観光客の人たちになで回されてツルツル。特に前足はピカピカ。


 わたしも、ちょっとドキドキしながらハチ公の足に触ってみた。


 すると、銅像のハチ公にはっきり犬の気配がして、思わずその顔を見てしまった。


 ブロンズのハチ公に瞳はないが、そのときははっきりハチ公の視線を感じた。その視線をたどって振り返ると、ベンチの横に、路上販売のオジサンが、畳半分ぐらいの黒い敷物の上にいろいろと品物を並べている。


 昔は、こういうヒッピーってのか、路上販売の人ってけっこういたみたいだけど、わたしとしては昔話の世界。「ヘー……」って、近づいていった。今時珍しいのに、道行く人たちは関心がないようで通り過ぎていく。アクセサリーやアンティークな小物が多くあった。手作りのイミテーションなんだろうけど良くできている。


「三百円のクリスマスプレゼントだね」


「え?」


 オジサンは、わたしの顔も見ないで、言い当てた。


 人通りが少ない所だったら逃げ出していたかもしれない。


 しかし、そこは渋谷。それも東京でも指折りの名所のハチ公前。わたしは、あっさり返事した。


「はい」


「じゃ、これがいいよ……」


 オジサンは、足もとのトランクから、三センチほどの青いさいころを出した。


「珍しいさいころね」


「ニュアンスが違う。PSYCHOLOと呼んで欲しい」


 なんだか怪しげな発音でオジサンが言った。


「プサイコロ?」


「フフ、クサイコロに聞こえるね」


 もう、自分で言わせといて。


「微妙にね、促音になるように発音するんだよPSYCHOLO」


「ッサイコロ」


 アハハハ


 なんだかおかしくなって、オジサンといっしょに笑ってしまった。


「日本人は語頭にくる促音は苦手だからね」


「もっかい聞かせてもらえます?」


「PSYCHOLO」


「なるほど」


「どうだい?」


「きれいな青ですね」


「そりゃ、ラピスラズリのPSYCHOLOだからね」


「ほう……」


「心で、数字を念じて振ってごらん。運が良ければ、念じた通りの数字が出るから」


 わたしは5を念じて振ってみた……5が出た。


「ほらね」


 わたしは、さらに三回、違う数字を念じて振ってみた。三回とも念じた目が出た。


「ホホホ……今日は、PSYCHOLOの機嫌ががいいようだ」


「これ、三百円でいいんですか?」


「いいよ。ただし、キミの財布の中の五百円玉で、お釣りにさせてくれないか」


「え……あ、あった」


 わたしは、古びた五百円玉を出した。


「これこれ。この五百円玉を探していたんだよ。昭和56年。どうもありがとう」


「いいえ、古いので申し訳ないですね」


「いや、お釣りの方も古いから」


 もらったお釣りは昭和41年。たしかに古い……。


「ほんのたまにだけど、願い事を聞いてくれることがあるよ」


「ほんと?」


「ああ、試してみたら?」


 一瞬頭に、なにかがよぎった……すると道玄坂のほうから、ガラガラとお腹に響く音がして、何かがやってきた……目の前に自転車ほどの速度で、それはやってきた。


 四号戦車D型……それもハッチのあちこちが開いて、セーラー服の女子高生の姿が見えた……これは『ガールズ&パンツァー』の世界だ……!


 周りの人たちも、白昼現れた戦車に呆然。あちこちでスマホを構えている。


 わたしも急いでスマホを出して画面を覗くが、戦車は写っていない。アングルを間違えたのかと、目の前の戦車と画面を見比べる。でも写らない。スマホを構えた他の人たちも同じ様子。


「ええ……?」


 思っているうちに、戦車は走り去ってしまった。


「ねえ、オジサン……」


 オジサンの姿は、広げた店ごと無くなっていた……。


 家に帰って、さらに驚いた。百円玉は昭和42年からで、41年の、このデザインのものは存在しない。


 五百円玉も、昭和57年からで、56年のそれは存在しない。


「え……思い違いかなあ?」


 で、もう一度百円玉を見ようとしたが、帰りの切符を買うのに使ったんだろうか、財布の中にはなかった……。



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