レイアウト制作
恵津子お嬢様の了承を得て、レイアウトの制作を始めた。お嬢様とボディガードは週一で、蒲田家を訪問し、レイアウトのチェックをしに来る。費用はほぼ向こう持ちだが、いろいろと意見があるらしくうるさい。レイアウト作りのセオリーを無視しまくった要求をしてくる。素人だから仕方ないが。
「土をレイアウトに入れて、本物の植物を育てませんこと」
「恵津子お嬢様、植物がオーバースケールで列車より大きくなってしまいます」
「スケールといえば、小生はシースルーのランジェリーが好きでね」
「そのスケールじゃないぞ!」
ボディガードは何しに来てるのか全く分からない。よくこんな男を雇ったものだ。
「病院や学校がないと人が集まらないわ」
「あくまで架空の世界ですし、スペースが足りません」
「体育館の横に、穴をあけて線路を通せばいいじゃないの」
「そんなのリアルで見たことあるのか! 失礼足しました」
「小生の子供の頃、道の真ん中に電車が走っていましたが」
「それは路面電車!今でもあるよ」
どうやらボディガードは物を知らないらしい。
恵津子お嬢様は綿埃を人形の頭に接着剤でつけていた。
「できたわ!アフロの人」
「あのー、そこで遊ばないでいただけませんでしょうか」
「今時、どんな田舎にだって、アフロヘアの人ぐらいいますでしょ」
「アフロと言えば、小生のアパートの部屋には風呂がないんだ」
「お前は給料を何に使っているんだ?」糖矢は誰にでも平気で突っ込めるようになってしまった。
山にライケン(樹木の代わりになるもの)を植え、カラーパウダーをまぶし、建造物を接着し、小さなレイアウトとはいえ、だんだん見られるようになってきた。
「山から里に下りてきた猪や熊を設置するのはどうかしら」
「恵津子お嬢様。レイアウトに事件性を持ち込まないでください」
「クマといえば、小生はよくコンシーラで消してます」
「化粧までしてるのか」糖矢にはボディガードがどんな人物なのかわからなくなった。
あれやこれや紆余曲折はあったが、ついに糖矢のレイアウトは完成した。
「さっそく十両編成の特急列車を投入するわね」
「恵津子お嬢様。このスペースでは先頭車が最後尾車を追いかけてしまいます」
「まぁ!最後尾だなんていやらしい!」
ボディガードが勘違いしたようだが、放置することにした。
「このレイアウトには、ディーゼルカー二両編成がお似合いです」
「これ、公園で皆に見せびらかしていいかしら」とお嬢様は笑みを浮かべて嬉しそう。
「いやあの、電源がないと動きませんよ」
「残念ね、発電機は持って来ていないわ」
「なら小生の発案で、日光写真だけでも」
「レイアウトで日光写真遊びなんてするか!」
「小生の好きな青い柿を紐でつるしてぶら下げては如何でしょうか」
「それ、干し柿って言えよ」
「大丈夫よ、モーターなしの電車を走らせて、その力で発電すればいいじゃないの」
「まんま永久機関じゃねーか!」
初運転は、普通に糖矢宅で行いました。