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お嬢様、ご訪問

今回はプロットめいた物を作って書いてみました。


 蒲田糖矢は、悩んでいた。自分の部屋では狭すぎるからだ。彼の趣味は鉄道模型で、お金がかかる趣味として有名だった。おまけに場所も取られる。親から許されたスペースは、事務机一個分(九十センチ×六十センチ)がやっとだ。


 おやじのマニアだと、家じゅうに線路を引き回す剛の者もいるが、とても真似はできない。そんなことをしたらおかんが実力行使に出て、息子のコレクションを燃えるごみとして出してしまうかもしれなかった。


 それ以前に、わびしい小遣いでは、レイアウトはおろかポイント線路を買うのがやっとである。彼はレイアウト制作のためにクラスメイトを抱き込む算段でいた。


 金のありそうなクラスメイトといえば、実家が企業を経営していて、鷺宮コンツェルンのお嬢様、鷺宮恵津子に白羽の矢が立った。女の子が鉄道模型に興味を持つとは思えないが、だめ元で誘ってみた。


「あの、私、同じクラスの蒲田糖矢と申します」

さすがに相手は大金持ちのお嬢様だけあって、声をかけるだけでも緊張する。蒲田の額から汗が落ちた。

「あら、蒲田さん、何の御用かしら」

「恵津子お嬢様は、鉄道模型にご興味はございませんでしょうか」

「それはどのようなご趣味なの」

意外にも、興味を示してきた。ここは少しずつ鉄道模型の魅力を語るに限る。

「木製の枠に線路を敷き、精巧な町づくりをして、現実世界のミニチュアをこしらえるのでございます」

「あら、面白そうね。協力するわ」

「はい。恵津子お嬢様に賛同していただいて誠に光栄でございます」


 こうして、鷺宮恵津子お嬢様は、鉄道模型レイアウトの共同制作を受け入れてくれたのだった。

学校が休みの日、蒲田の自宅で、レイアウト制作ミーティングが行われることになった。

お嬢様の訪問ということで、蒲田家は家族全員が緊張していた。おかんは、三回部屋を清掃し、父は背広を着てガチガチになっていた。間違えて、背広を冷凍庫に入れてしまったからだ。やがて、家に横付けした黒塗りの高級車から、恵津子お嬢様が降りてきた。そして黒い背広のボディガードが一人、続いて降りてきて玄関の前に立った。


 彼女はエレガントドレスにボレロを羽織り、ポーチ片手に蒲田家の玄関に降り立った。父は丸めていた赤じゅうたんを敷き、ドアまで彼女をエスコートした。

「狭苦しい家ですがどうぞ」

父はドアを開けてやると、おかんが糖矢の頭を押さえつけて土下座をしていた。恵津子お嬢様は大層驚きになり「どうかお顔をお上げくださいませ」とおっしゃられた。


 「くれぐれも失礼のないように、ね!」とおかんに釘を押された糖矢は、自室へ恵津子お嬢様を案内した。おかんが念入りに掃除したせいで、隠していたエロ本までが本棚に並んでいた。糖矢は慌てて、ひっくり返しておいた。

 「これが蒲田さんのお部屋ね」と無邪気に見て回るお嬢様。糖矢はというと緊張のあまり、動きが電池の切れたロボットのようになっていた。机の前には、自前の回転椅子の隣に、一人がけのソファーが用意してあった。父が前日、お嬢様に失礼がないようにと運んでおいたのだ。


 ソファーになぜか、先ほどのボディガードが座り込んだ。「小生がお嬢様をお近くでお守りするためです」と言っていた。続いて恵津子お嬢様が回転椅子に座る。「わぉ、これが下々の椅子ね。面白いですわ」とぐるぐる回るお嬢様。仕方ないので糖矢は、畳の上にじかに正座した。


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