7 ユニバースからマルチバースへ フォース・マスター
セッションが始まった。
参加者の中で希望した人から選ばれた、トーク・ゲストと
呼ばれる人が、45分間という制限はあるものの、自由に
ずっと一人でしゃべってもいいし、コチラに質問をしてき
てもいいという、自由度の高いものだが、それは1人だけ
しか選ばれないという意味では、いかに他の参加者たちが
このトーク・ゲストに感情移入をしていけるか、そのため
のバリエーションをどれだけ広げていけるかが、コチラ側
の技量にかかっていた。
トーク・ゲストが語り始めた。
その人がしゃべり始めたというよりも、見ている参加者の
想いもエネルギーのようにもらっているように思える程、
みんなの集中が感じられた。
トーク・ゲストが、普通なら人前で話さなくても良さそう
な自分の気持ち淡々とを吐露していくうちに、見
ている参加者の半分近い人たちが、ポロポロと涙を流し始
めた。
見ている人たちが、トーク・ゲストの代わりに涙を流して
くれているような気さえしてきた。その分をトーク・ゲスト
は勇気を代わりにもらっているかのようだった。
僕は本当に何もしないままで、このセッションが終わるかも
しれないと思った。
僕は初めて、彼女の主催するセッションに参加したのだが、
それは、ぶっつけ本番で、彼女と2人で進めていくという
が冒険的なチャレンジングものになるのか、代わり映
えしないものになるのかが、1つの見所だ。
それは彼女のファン的な参加者への良い意味での期待の裏
切りを目指しているというよりも、僕と彼女が、この先ど
れ程の「化学反応」を起こしていけるのかを彼女も楽しみ
にしているからだと思う。もしかしたら、彼女は確信が
あるから、僕を参加させたのかもしれない。
「間もなく45分になります。そろそろ、シェアリングに移っ
ていきます」
彼女の声が、天の声のように、会場の空気を一変させた。
言葉以上に、言葉に意思が込められている感じだ。
ドロドロっとした感じで、本来の形が崩れてしまっ
て、枠がなくなってしまったような雰囲気を、一気
に、違う新しい枠へ流れ込んでいかせるような、羊
飼いが、牧草地に散らばった羊の群れを、再度
元来た小屋の方へ導いてやるような、そんな例えで伝わるか
わからないが、今の僕にはそんな説明しか出来なかった。
「どう感じましたか?」
僕に発言がまわって来た。
「とても強く、ご自分の弱いと思っているところを大切にさ
れていると感じました。弱いと思っている部分を一番大事に
されておられる、それにまったく迷いがないことに、尊敬の
念をいだきました。
それともうひとつ。このセッションは、トーク・ゲストの
方を参加されている全員で支えているという強い想いを最初
から感じて、言葉よりも大切な想いを感じるからこそ、今以上
に言葉を大切にしようと思えるだと感じました 」
その後に言うつもりだった言葉をぐっと飲み込んで僕は自分の
発言を終えた。
考えて言おうとすると、結局、その間は、人の話から離脱して
しまっていることだというのも強く思った。だから、考えたこ
とを話すのではなく、その時に感じたことを感じたままに話そう
と思った。だが、これもその時感じたままではないか。
書くことも、すべて説明してしまうのは、自信がないからそう
なってしまうと最近身にしみて感じていたが、話すのも自信が
ない時ほど、説明のための話をしてしまうのだろう。話すのは
どう感じたか、何を感じたか、その想いを深めてくれるのが言
葉なのだろう。
彼女が、焼き鳥屋で、あんなにオシャベリなのは、そこがホワ
イトホールのようなもので、セッションはブラックホールのよ
うに、彼女はすべてを飲み込んでいってしまうと思うと可笑
(おか)しくなって、一人で吹き出してしまった。




