6 TRSUT(信頼) フォース・マスター
いきなりの仕事というか、いきなりの本番というか、
単独で話しをしていくセミナーやセッションは経験はあるが
彼女の主催セッションに、僕が一緒に入ってやるというのは
どんなものなのか予想ができなかった。
昨日そんな話を聞いて、あくる日の夜にあるワーク・セッシ
ョンで、それをやってみようと言われ、逆に時間がないから
要らない心配をする暇もなくて良かったのかもしれない。
昨日の夜、焼き鳥屋で、これから一緒にやっていく仕事につ
いて、彼女と2人で話をした。
これまで彼女が1人でセッションをやっていたスタイルから、
僕と2人でやっていくスタイルを作っていきたいというのが
彼女の考えていることだったが、いきなり、それを本番で、
やってみようと言われて、上手くいくと思う彼女の確信が
一体どこから来ているのかの方が、僕には不思議だった。
事前の資料ももらってないが、事前の打ち合わせもない方が
いいからという彼女の考えに、僕がどれだけ本気でコミット
していけるかが今一番必要なことだと思った。
「それじゃ、行きましょう」
彼女の言葉に、僕は重たくなっていた気持ちをバッサリと切
り捨てて、会場の部屋に向かった。
こじんまりはしているが洒落たお店の1室を使っ
た会場には、10人余りの人が来ていた。全員女性だ。
「こんばんわ。
いつものように急な予定変更で、皆さんに驚いてもらうの
が私は嬉しくてしょうがないのですが、始めにお話
をしておきますね。
いつもは私1人でお話をさせてもらっていますし、男性に
お話をしてもらうこともなかったのですが、今日は私が今一
番大きな影響を受け、一番尊敬をしている男性に、一緒に
皆さんとのセッションの時間を過ごさせてもらえることを
本当に幸せに思っていますし、いつもとは違う私を、皆さん
とともに私も味わってみれるのを楽しみにしています。
簡単なプロフィールは、お手元にお配りをしている資料を
ご覧いただき、貴重な90分間を、セッションそのものに使わ
せていただくために、さっそくセッションに入っていきます
では、皆さんの中でデモ・セッションで、お話をしても大丈
夫だという方はおられますか。もし、おられたら……」
彼女は話しながら、右手を肩程の高さに小さく挙げるしぐさを
して、スタートの「トーク・ゲスト」の立候補を促した。
一番近くに座っている女性の手が、他の2人よりも、ほんの
少しだけ早く挙がった。
「では、こちらの方をトーク・ゲストとして、私の方は2人、
3人のクロス・トーク・セッションを始めます。予定時間は
45分間です。その後、皆さんの感想やご意見を一緒にシェア
させていただくお時間にしたいと思います。
最初は、いつも、トーク・ゲストの方に気の済むまで、しゃ
べっていただきます。あまりに終わらなそうな時には、こちら
からお声を掛けますが、とにかく、言い終わるまでは、私の方
からは一切介入はしません。
ただ、私たちに聞かれたいことがあれば、いつでも質問され
て下さい。聞きたい時には、私がしゃべっているのを強引に止
めてでも、聞いてくださいね。 」
この調子なら、僕の出番は、そんなには無いかもしれないなと
思った。