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5 追いかけて〇〇   フォース・マスター

たった今、上司に辞表を出してきた。

思ったより、あっけなかった。

もっと、色々と言われると思っていたのに、こうも

あっさりと受け取られて、逆に腹が立つ位だった。

まあ、タイミングが良かったのかもしれない。

ヒマそうでもなく、忙しそうでもなく、

機嫌が悪そうでもなく、妙にテンション高いわけでもなく、

そんな時は、そうそう出くわさない、絶妙のエアポケット

ような時間だったのだろう。

時期については、来月末までと頼んでいる。


窓から夕焼けが見えた。

会社で、こんなきれいな夕陽を見たことはあったろうか?

雨上がりのせいも少しあるかもしれない。

気持ちに片を付けたからかもしれない。


とりあえず、いつからでも引き継ぎ業務にかかれるように

その準備はしておかないといけない。

自販機のカップのコーヒーで一息ついた。


内線が鳴った。

僕を訪ねて受付に、お客さんが来ているらしい。

この時間から初めての人は、話が長くなりそうだと思いなが

ら、名前を聞いて、急いで受付まで降りて行った。


「ごめんなさい。

 何も言わずに会社まで来ちゃって 」

初めて会った時よりも、もっと初々しく見える彼女が居た。

「僕の方こそ、こっちから連絡も入れてなくて、明日はそっ

ちに行こうと思ってたんだけど……」

僕が少し言葉につまっていると、彼女が人差し指で僕の言葉

になってない言葉を制止した。

「顔が見たくなっただけだから」

そう言って、彼女は、僕の口に当てた人差し指を、敬礼ポー

ズにして、立ち去ろうとした。


僕は何と言っていいものか、どうしていいものか、とっさに決

められらず、ウジウジしている数秒が長く長く思えた。

考えて行動はしないと、それだけは決めていた。

考えてというよりも、損得を計算してから行動はしないと決め

ていた。計算よりも、自分の直感を素直に感じた時に行動をし

ようと決めていた。


彼女がそのまま外に出て帰って行くのを、どう見送くればいいのか

わからない気持ちのまま、もう一度、自分をリセットした。


ビルの外で彼女は待っていた。

「待ってるって思った?」

イタズラっぽく彼女が聞いてきた。

「いや、居ないかもしれないけど、その時は、追っかけてみようっ

て思ったかもしれない」

そう僕が言うと

「どこに居るのかって聞きもせず?」

彼女がさっき以上にイタズラっぽく聞いてきた。

「多分、そんな野暮なことは聞かず、あきらめるまで探したかも

しれない」

カッコ悪過ぎる僕の想像を聞いて、

「そんなことは、させないから私は」彼女は言った。


面倒くさい会話に最近は辟易ヘキエキしていた僕は、彼女の

その一言に、どれだけ癒されただろうかと思った。


「焼き鳥屋さん、この辺にある?」

彼女の質問は本当にストレートで心地良かった。



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