4 星の王子さま フォースマスター
目が覚めて、昨日の出来事と彼女のことを思い出しな
がら、シャワーを浴びた。
彼女は僕よりも7つ年下だった。
彼女は既婚者だが、現在の夫とはすでに2年以上の別
居状態で、子供さんはなく、現在、離婚協議中という
ことだ。
僕は自分のことを彼女に話しただろうか?
昨日の記憶をたどっても、僕の話をした記憶がなかった。
でも、あれだけ長く2人で話したのだから、多分言ってい
るだろう。
本当に何を話したのか、覚えていなかった。
ただ、彼女が楽しそうに話をしている姿を見ているのが
幸せな時間だという気持ちが、どんどんふくらんでいる
気分だったのだけが残っていた。
そうだ。今日は辞表を出すんだ。
引き継ぎもあるから1ケ月は針のムシロ状態だろうな。
今以上の収入があるのか、自分にチャンスとなる仕事
があるのか、まったく、わからないが、彼女といっしょ
に過ごす時間があるというのが、たまらなく幸せなこと
に感じた。
コーヒー豆を、いつも以上にゆっくりと挽きなが
ら、どうして何の具体的なものもないのに、こんなにも
楽しく感じてしまうのかを考えた。
中学生じゃあるまいし、ときめく恋でもないだろう。
高校生じゃあるまいし、いつできるかって、頭はそのこと
ばかりで、ドキドキする妄想的なゲームでもないだろう。
彼女からのラインに気づいた。
インスタにあげるような写真に解説がついていた。
彼女は写らず、モノだけしか写っていない写真に彼女の
いつもそそいでいる愛情を感じた。
僕はこんなに、モノに愛情をそそいでいるだろうか?
僕には、愛情をずっと、そそげる何かがあったただろうか?
サン=テクジュペリの『星の王子さま』のバラのように。