変わったのはどっち?
少女は人が好きだった。
人の好きなところを探すことが好きだった。
誰もが「偉そうに」と煙たがっていた優等生の彼女は、放課後に教師に質問をしながら一生懸命勉強をしていた。
こんなにも努力のできる子なんだと尊敬した。
誰もが「気持ち悪い」と距離をとっていた彼は、大荷物で両手が塞がって困っている先生の元へ笑顔で駆け寄り手伝っていた。
少女は「邪魔だな」と舌打ちして横切っていく生徒達よりもずっと心の優しいいい人だな、とその生徒をかっこよく感じていた。
苦手だな、と思っていたクラスのムードメーカーのあの子や、近づきにくいと思っていたクラスで浮いていた金髪の彼。みんなの嫌われ者の学級委員長や、馴染めていない転校生……。
でもよくよく見ていると、必ずどこかにいいところがあって、心から嫌いにはなれなかった学生時代。
特別友達が多かったわけではなかったが、毎日心から友達だといえる子たちに囲まれて笑い合っていた日々は少女にとってキラキラと輝いていた毎日だった。
そんな世界が一転したのはいつからだったのだろう?
世間でいう「大人」というものになったあの日からなのかもしれない。
自分の都合しか突き通さないその人は、どれだけ目を凝らしてもいいところを見つけることが出来なかった。
自分の立場をいいことに弱いものをいじめるあの上司も、影でぐちぐちと人の悪口しか言わないパートのおばさんも、噂好きであることないことを話して歩く近所の人も、どれだけ目を凝らしたところで、この人にもいいところがあるはずだと言い聞かせても、何も見えてこない。
電車の優先席では平気な顔をして高校生が電話をしていて、街に出れば誰もが手元の液晶画面から目を離さず自分からぶつかっておきながら舌打ちをしては行き交う人を睨みつけている。
どこからか「死ねばいいのに」「生きてる価値なんてないのに」なんて言葉が平気に飛び交っていて、弱者をいじめていることを武勇伝のように自慢している。
ヘッドホンをしなくてはこの黒い渦に吸い込まれていきそうだ。
少女はため息をついて大音量で音楽を聴く。
暇つぶしにみるSNSに並ぶいろんな人のつぶやきは、何が本当で何が嘘なのかなんて分かるわけもなくて、信じたくて、でも心から信じることが出来ない。
本当はそんなこと思ってないくせに。
鼻で笑うたびに、胸がチクリと痛んだ。
変わったのはこの世界なのか、それとも私なのか。