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異世界の日常と休日

1.


 魔剣。コレが俺に唯一造る事が許された剣の名前だ。闇属性の魔力を与えられた剣はすべからく魔剣にカテゴライズされる。

闇の魔力が宿った魔剣は超金属―オリハルコン―で造られた聖剣・神剣より強度の面で劣るものの、聖剣にはない高度な自己修復機能を持ち、鋭い切れ味を誇る。

攻撃補助効果を持つタリスマンとの相性もすこぶる良く、安定した需要があるのが魔剣である。

ただし、光属性の魔力を宿したタリスマンとの相性は最悪である。相反する属性同士がぶつかって相殺されてしまい、込められた力を発揮できなくなるのだ。

魔剣は攻撃用途に使えば優れた力を発揮するが、防御方陣シールドの展開といった防御への用途には徹底して不向きなのである。

タリスマンの嵌め込みスロットも最大で4つと聖剣・神剣の2つと較べて多く、魔剣の利便性は高い。

そこに稀代の天才錬金術師、エリカの造ったタリスマンが合わせられれば、強力な魔剣は更に強力になる。

過剰とも言える威力を持った魔剣はそれこそ飛ぶように売れた。

材料のミスリルは地球における鉄並に安く手に入り、魔力を込めたハンマーさえあれば自在に成形できたので

異種鋼を組み合わせなければならない日本刀より造るのが簡単だった。

ミスリルには焼き入れや焼き鈍しをする必要が無かった為、日本刀独特の反り返った刀身と鍔がある形に成形するだけで済んだので、製作速度は自然と速くなった。

 あまりにも簡単に仕事が進むので、俺は鞘造りも始めた。

今取り組んでいるのは、地球に居た頃、マンガで読んだことのある方法だった。

予め魔力を剣に込めた状態で鞘に納めることで、鞘の内で剣に宿る魔力を増幅させ、初撃からエンチャントの効果を最大の状態で引き出すことが出来ないか、というものだ。

要は鞘を魔力増幅機として使えないか、という事である。

 予備動作を減らせば、自然と攻撃の機会が増える。攻撃の手数を増やせられれば戦闘はグッと楽に、スピーディーなものになるはずだ。

 …意外と早く、その雛形は出来た。魔力増幅効果のあるタリスマンをエリカに提供してもらい、鞘に嵌め込む。これで一応完成だ。

 早速魔力を魔剣に込め、鞘に収める。俺の計算がおかしくなければ、約10秒でエンチャントの効果が最大になるはずだ。

 10秒はあっという間に過ぎた。俺は用心深く、魔剣を鞘から引き抜いて構える。目標は机の上に並べた空のビール瓶10本。

「セイッ!!」

 気合を入れて、剣を横に一閃させる。

 ビール瓶たちは甲高い音を立てて、横一文字に斬り裂かれた端から乾いた砂になっていった。

「…成功…か?もっと何かあってよかったんだが…」

 俺は魔剣を鞘に収め、独り言を言いながら机に近付いた。

 次の瞬間、ヴァッ!!という虫の羽音のような喧しい音を立てて、木で出来た机は砂となって霧散してしまった。

 ドンドンドン!と扉が乱暴に叩かれ、エリカが鍛冶場に入ってくる。

「けんちゃーん、何さっきの大きな音〜。年末は休みだって言ってたのに、また実験?」

 うぐ。反論できない。

「ああ、ちょっと実験をな」

「もー、けんちゃんは働きすぎ(ワーカーホリック)さんだねぇ〜。僕みたいにたまにはダラダラした方がいいよ?」

 過労死なんてされたら誰を恨んでいいか分からなくなるからねと言い置いて、エリカはウチのリビングルームに戻っていく。

…ここ、俺の家なんだが。


2.


 レムリア帝国。異世界の木星級サイズの地球型惑星レムレースの全土を版図とする大帝国の正式な名称である。

帝国と言っても、他国に侵略戦争を仕掛けている訳でもない。帝国と名乗っているのは、単に元首として皇帝を戴いているからだ。

国情に合わせて国名の王国への名称変更も議会から上程されたが、看板だけかけかえても仕方ないとして廃案になり、以後そのまま現在に至っている。

皇帝の下には選挙で選ばれた議員のいる衆議院と、皇帝直々に指名された名門貴族が名を連ねる貴族院が存在している。

立法府の最高権力者は両院選挙で選び出される首相で、帝国陸軍・海軍・空軍の3軍の最高指揮官を兼務する。

兵士を始めとした公務員は全て志願制で、応募の年齢制限はない。ついでに定年もなかった。

納税は国民税、消費税、法人税を始めとして各種の税金が地球同様に存在している。

地球にない納税方法と言えば、月1回の魔力電池への魔力提供だろうか。

大気に満ちる魔力の影響でコンピューターを始めとした精密機器は全くと言っていいほど使えない為、簿記と電卓が使える人間は各省庁で重宝された。

帝国民の大半は地球におけるファンタジー小説に出て来るようなドラゴンといったモンスターや、エルフ、天使と称されるような雑多な種族が人化の法という魔法で人間の姿に化けており、

人間との交配も出来るようになっている。彼等の多くは美形であり、嫁や婿の貰い手に困ることは無かったのである。

 帝国各地には各地の領主が管理するダンジョンが数多く存在しており、バラエティ豊かな迷宮を構築していた。

 1999年当時、帝国は人口減少による存亡の危機に瀕しており、人口爆発によって滅亡への道をゆるやかに歩み始めていた地球に人的資源を求め、

地球全土に転送の門を開くという前代未聞かつ乾坤一擲の賭けに打って出た。

 多少の紆余曲折はあったが、乾坤一擲の賭けは帝国の勝ちとなり、地球からの移民によって減少の一途だった帝国の人口は一気に増加へ転じた。

 かくして帝国各地に人は溢れ、帝国はかつての繁栄を取り戻しつつあった。


3.


 錬金術師の朝は早い。

 彼等の多くは朝5時には起床し、1日の仕事の準備を始める。

 寝ている間に練った上質な魔力を必要な属性に練り上げ、球状に加工されたダイヤ・ルビーと言った無垢の鉱石に送り込んで

定着させ、タリスマンに加工するのが錬金術師の朝の日課である。

そうこうしているうちに開店時刻を迎え、店には客が訪れ始める。欠損した四肢や脊髄の再生といった再生医療は勿論のこと、武器防具へのエンチャントと客の依頼は様々だ。

大抵の客は筋力増強、守護効果増大といった売れ筋のタリスマンを買っていくのだが、中には独自仕様のタリスマン作成を頼むワガママな客もいる。

稀代の天才として既に帝都中に名が売れているエリカの店の場合、独自仕様のタリスマン制作は最短でも納品まで3ヶ月の時間を要する程の人気ぶりだ。

ベーシックな効果のタリスマンなら値段の上限は知れているものの、独自仕様のタリスマンというのは完全なオーダーメイド品であり、

作成の難易度も指数関数的に上昇し、値段も店頭に並んでいる商品と較べて最低数倍から最高で数十倍に跳ね上がる。

それでも作成の依頼が絶えないのはエリカの錬金術師としての技量の高さ、実力の証明と言えた。

 お宝をタダで手に入れようとして強盗が入った事もあったが、その全てはエリカの指パッチン1つで下半身と武器を持った手を瞬時に金へと錬成され、

もれなく動けなくなった所を警察に突き出された。

生かすも殺すも自由自在、錬金術師恐るべしである。

 

4.


 錬金術師が朝早起きなのに対して、武器屋の朝は遅めだ。

 俺を含め、日野崎家の面々が起床するのは朝8時になってからである。

 エリカの店と違ってこちらはまだまだ駆け出しの武器屋であり、朝から店を訪れる客はまばらだ。

 日本人の鍛冶がミスリル製の強力なサムライソードを造っているという話題性もあって、最近の客足と売り上げは上々と言えたが

店の在庫はお世辞にも豊富とは言えず、ゾーリンゲンや菊一文字といった一流ブランド店の売り上げとは大きな差があるのが現状だ。

 店主の息子―つまり俺である―の造る魔剣が一番人気を博しており、有名店では目玉が飛び出るような高額になるオーダーメイドにも比較的安価に対応している為、

毎日のように作刀依頼が舞い込んでくる。

 貧乏ヒマなし(と言っても一家4人食べていけるだけの儲けは出ているが)とはよく言ったものである。

 かくして俺はハンマーを握り、熱したミスリルを叩いて剣の形に成形していく日々に忙殺される。

 魔力適性が絶望的に低い親父様に代わって、作刀の前線に立つのは魔力適性の高い俺になった。

 親父様には作成に際して微弱な魔力でも作成が可能な魔剣の鞘を造ってもらう事にした。

 定休日は隣りにあるエリカの店に合わせて毎週月、金曜日となっている。

 土日祝日はダンジョンが最も混み合う書き入れ時だから休みにはしないと両家は示し合わせて営業時間、休日を決めていた。

 商売人の魂、死ぬまでであった。


5.


 年末のダンジョンは、入り口からして混雑していた。芋の子を洗うとはまさにこの事である。

店も年末年始の休みに入った為俺とエリカの2人はヒマを持て余しており、退屈しのぎにダンジョンでも探索しようかと考えて入り口に来ていた。

広いダンジョン入口を埋め尽くす人の群れ。右を見ても左を見ても人、人、人の大混雑。

オイ、警備員はどこに行った。こういう時こそ警備員を雇って整列させるべきだろうに、帝国は何をやっているんだ。

「ウヒャー、すごい人だかりだね〜。皆考える事は同じかぁ。そんで、けんちゃん?今日はダンジョン探索で良かったの?」

 こんな事なら帝都にあるドトールコーヒーか帝立図書館でも行けば良かった、と後悔してももう遅い。人の波に押されるようにして俺たちはジリジリと受け付けの方向に流れていく。

小一時間ほど人の波に揉まれて、やっとこさ俺たちは受け付け前に辿り着いた。

「はい入場料!そしてコレが帰還の指輪!入り口はあっち!」

 いつもニコニコ笑顔で通しているリンディさんも、今日は笑顔を浮かべてはいなかった。受け付け嬢の数は3倍に増えてはいるものの、入場者は増えるばかりで対応が追い付いていない。

いつもよりちょっと乱暴に渡された帰還の指輪を指にはめ、俺たちはダンジョン入り口を目指して歩き出す。今回は地下5階から探索開始だから、

ミスリルゴーレム対策はしっかりしておかないといけないなと考えて俺は腰に差した魔剣の柄をチラリと見た。柄には爆ぜる炎を中心に湛えた爆裂のタリスマンが鎮座ましましている。

脇を固めるのは筋力増強のタリスマン2つと雷属性のタリスマンだ。リュックには帰還の巻物が1つと疲労回復効果のあるポーションが満載されている。

「こりゃあ、野良パーティーを組んで下を目指す、ってのもアリかも知れないな」

「そうだね、パーティーを組むのも十分アリだと思う〜」

 探索できる範囲が深くて困るということもないので、今回は地下で野良パーティーを組んで下を目指すことにする。

魔剣士と錬金術師なら、受け入れてくれるパーティーもあるだろう。錬金術師はチート職と揶揄されるだけあって、戦闘では無類の強さを発揮する。

魔剣士は優秀な前衛として、少なからず需要があった。と言っても、並の並といった程度ではあるが。

「最悪パーティーに入れてもらえなくても、2人でも第2階層までは行けるだろう。罠にさえかからなければ何とかなるって話だし」

 人の波に揉まれながら、エリカが返事を返す。

「確かにそうかも。2人の方が気楽に探索できる面もあるしね〜」

 お互いに人付き合いが苦手な人種だけあって、ダンジョン探索でパーティーを組んだ経験は少ない。

高校時代の友人たちは地球で大学生活を謳歌しているはずであり、レムリア人の友人もいないわけでもなかったが、ダンジョン探索に興味がないと断られてしまった。

今頃一族揃って酒宴でも開いていることだろう。羨ましい限りである。

 そうこうしているうちに、ダンジョンの入り口に到着する。俺とエリカは通常の入り口の隣にある階層縦断魔法陣に向かう。

魔法陣の脇にある石碑に魔力を送り込むと、ほのかに青白い光を放つ魔法陣が赤色の光を放ち始めた。

「転送」

 と俺が大声を張り上げて告げると魔法陣が起動し、閃光が放たれた。


 目眩にも似た感覚を覚えること数秒。俺とエリカは一瞬にして地下5階まで移動していた。 

 お互い勝手知ったる関係だ。無言で魔法陣から歩み出る。まずはこの階をひととおり回ってパーティー探しから始めることにする。

年末高齢のレアモンスター増量キャンペーン期間中、と入り口で渡されたチラシに書いてあっただけあって、ここも冒険者でごった返していた。

「パーティー加入希望でーす。職業は錬金術師と魔剣士でーす!」

 エリカが声を上げると、周りに人だかりがあっという間に出来上がる。流石は錬金術師、大人気だ。

「この歳で錬金術師か…是非ウチのパーティーに!あ、魔剣士も歓迎するよ!」

 一番に声を上げたのは口髭を蓄えた、見るからに筋骨たくましいプリースト(僧侶)だった。

プリーストは剣が使えない代わりにメイスやモーニングスターといった打撃系の武器を使用する前衛職で、ヒーラーを兼務できる優秀な職業だ。

特にアンデッドモンスターに対しては無類の強さを発揮する。

ゾンビやスケルトンを一掃する『黄泉還し(ターンアンデッド)』が使えるのはプリーストだけであり、パーティーに1人は欲しい職業と言っていい。

「コッチも歓迎するぞ!前衛が足りないんだ!」

 次に声を上げたのは、パラディン(聖騎士)だった。

パラディンはナイトの上位職で、本職のヒーラーに及ばないものの、回復魔法が使える盾役タンカーである。

彼等は鋼のように鍛え上げられた肉体にフルプレートアーマーを装備し、巨大な盾といった重装備を駆使して

敵の攻撃を一手に引き受ける事で味方へのダメージを軽減する、冒険者の中核を成す重要な職業だ。

盾に蓄えられた魔力を使って弱いながらも魔導障壁バリアーを展開できるのはパラディン特有の能力である。

彼等の多くは間合いの長い槍を使って的確に敵の急所を狙って攻撃する。逞しい肉体から繰り出される槍の刺突は鈍重だが高い威力を誇る。

「どうする?これから先はアンデッドモンスターもいるし、プリーストと組んだ方が良くないか?」

 戦闘を避けたい俺としては、是非プリースト一行とパーティーを組んだ方が効率的に戦えると踏んでいた。

「確かにそうかも〜。じゃ、パラディンさんには悪いけれど、今回はプリーストさん達とパーティーを組もう!」

 決まりだな。俺は丁重にパラディンに辞退と感謝の意を伝えると、プリースト一行の方に向けて歩み寄る。

「僕は日野崎剣十郎です。職業は鍛冶屋と魔剣士。コイツは西園寺エリカ。錬金術師です」

 俺が自己紹介すると、パーティーにざわめきが走った。帝都に名高い稀代の天才錬金術師だけあって、エリカを知らない者は居ないのだろう。

「ほう、君がかの有名な天才錬金術師か。その若さで錬金術を修めるとは、まさしく天才だな。俺は堀田公平。プリーストと、このパーティーのリーダーをしている」

 堀田さんが返事を返すと、パーティーメンバーがそれに続けて自己紹介を始める。

「私は稲田朋美。ヒーラーです。どうぞよろしくお願いします」

 腰まである長い髪の毛を束ねてポニーテールにした黒目黒髪の美女が軽く会釈する。俺たちもそれに習って会釈を返す。

柔和な笑みを浮かべている美女は俺たちより年上らしく、その瞳には理性的な光が宿っていた。

「僕は落合友一郎。君と同じく魔剣士をさせてもらっています。君の造った魔剣は十分に役立っていますよ。

この探索が終わったら、君の店に行って新しい魔剣を注文したいと考えています」

 筋骨隆々とした長身の魔剣士が、モデルのように整った顔に朗らかな笑みを浮かべて自己紹介してくれた。ウチで魔剣を買ってくれていたとは思いもよらず、

俺は嬉しいやら気恥ずかしいやらで、面映い気持ちになった。落合さん、これからもどうぞウチの店をご贔屓にしてやってください。

「わたしは尾崎晶。マッパー兼マジックユーザー」

 ボブカットを更に短くしたような髪型をした、男受けが良さそうなグラマラスな肢体をした美女が言葉少なに自己紹介する。

 場数を踏んだマジックユーザーらしく、その右手には魔力増幅のタリスマンが嵌め込まれ、使い込まれたミスリル製の杖が握られていた。

「俺は須藤竜馬。見ての通り、パラディンをしている」

 上下揃いのフルプレートアーマーと巨大な盾に長槍といった重装備に身を包んだパラディンが、ガシャガシャと鎧の動く音を立てて俺たちの前に出て来る。

鋼のように鍛え上げられた肉体と、左手に握られたミスリル製の大盾にはところどころ傷が刻まれており、彼のパラディンとしてのキャリアの長さを物語っていた。

「俺は稲田豊。ヒーラーの朋美とは夫婦で、地球ではプロボクサーをしていた。今は格闘士グラップラーをしている」

 軽装鎧に身を包んだ黒目黒髪、角刈りの頭をした格闘士がシャドーボクシングをしながら自己紹介をする。

 鎧の所々に刻まれた傷から考えて、かなりの熟練者らしい。

「皆さんはお知り合いですか?出来たらこの次もパーティーに加えて頂きたいんですけれど」

 俺が堀田さんに恐る恐る言うと、

「俺たち5人は地球に居た頃からの友人同士だよ。パーティー加入だが、2人共大歓迎だね。寧ろコチラの方が居てくれて助かる位だよ」

 と堀田さんが返事をしてくれた。これから先は毒を持ったモンスターが現れ始める。

俺とエリカの2人ではせいぜい第1階層が限界だと感じていたので、常にパーティーを組んでくれる人たちがいれば大助かりである。

 俺が5人に感謝の意を示すと、堀田さんは「行こうか」とひと声かけ、5人はダンジョン内を歩き始めた。俺たちもそれに続く。

ガーディアンであるミスリルゴーレムが待ち構えている広場への曲がり角を曲がると、そこには既に他のパーティーに倒されたらしいミスリルゴーレムの残骸が転がっていた。

コアも破壊されているようで、巨人が再生する様子もなく、周囲は音ひとつ聞こえない、静寂が支配していた。

「先客がいたか。まぁこれで戦闘をせずに下に行ける。ありがたい事だ」

 先頭を行く堀田さんが安堵したかのように言う。俺たちは小さく頷くと、広場奥にある階下に通じる魔法陣に乗った。


6.


 俺たちが地下6階に着いた時、聞こえてきたのはダンジョンの至る所で行われている戦闘の音だった。

「どうやら押されているパーティーがいるようだ。皆、加勢に行くぞ!」

 オウ!と俺たちは戦闘が行われている方向に向かって走り出す。曲がり角を全力疾走で曲がると、

そこには麻痺毒を持つサラマンダーと、薄いながらもバリアーを張れるメイジゴブリンに押されているパーティーの姿があった。

 押されているパーティーのリーダーらしい魔剣士がサラマンダーに斬りかかる…が、毒の影響か動きが遅い。刃はサラマンダーの硬い鱗に弾き返される。

続いて鎌鼬現象がサラマンダーを襲うが、これもまた硬い鱗に阻まれてサラマンダーに傷一つ付けられなかった。

 追い打ちをかけるように、メイジゴブリンが爆裂魔法を放つ。閃光と爆炎が軽々と魔剣士を吹っ飛ばし、壁に叩きつけた。

声をかける時間すら惜しいとばかりに、俺たちはサラマンダーとメイジゴブリンに相対した。

「僕はメイジゴブリンの相手をやるから、皆はサラマンダーを倒して!ヒーラーさんは倒れている人の治療を!」

 エリカの声に俺たちは小さく首肯すると、サラマンダーを取り囲む。

朋美さんが小走りに倒れた見知らぬパーティーの1人に近寄ると、急いで解毒魔法に取り掛かった。

麻痺毒は命を奪いはしないが、完全に解毒しないと後になっても手足の痺れが取れないといった後遺症が残る、厄介な毒だ。

マジックバッテリーから魔力が出力され、朋美さんの体に流れ込む。次の瞬間、朋美さんの手からエメラルドグリーン色の光が放たれた。

光は倒れた冒険者の体に入り込み、毒素が床に滲み出るようにして体外に排出され始める。

朋美さんは結果を見届ける事無く他のパーティーメンバーに駆け寄り、解毒魔法を使って次々と解毒していく。

 俺たちはサラマンダーを取り囲み、攻撃を始める。まずは尾崎さんの氷結魔法がサラマンダーの脚を襲い、分厚い氷になって固まってその動きを封じた。 

サラマンダーが俺たちに向けて炎のブレスを放つが、須藤さんの張ったバリアーがそれを阻んだ。

「フンッ!!」

 堀田さんが裂帛の気合を込めて、メイスをサラマンダーの脳天に叩き付ける。メイスが脳天にめり込むと思いきや、

メイスは目標寸前で停まっていた。メイジゴブリンの使うバリアーだ。どうやらコイツより先にメイジゴブリンを倒さないといけないらしい。

「エリカッ!」

 俺がエリカの名前を呼ぶと、わかってる、と小さくエリカは首肯した。

 爆裂魔法がエリカを襲うが、この程度の威力の魔法では錬金術師の魔導障壁を突破出来るはずもなく、エリカは全く動じない。

エリカは体内で練り上げた魔力を両手に込め、地面に流し込む。

 次の瞬間、メイジゴブリン2体は足元から突き出した無数の魔力を帯びた槍にバリアーごと貫かれた。

「これでトドメッ!」

 エリカがスナップをすると槍は大爆発し、メイジゴブリンたちを粉微塵に吹き飛ばした。

 メイジゴブリン2体が倒されると、次の瞬間サラマンダーの体が赤い光を放った。バリアーは消えたようだ。

 俺たちは改めてサラマンダーを攻撃する。

 サラマンダーの吐いたブレスが須藤さんに襲いかかったが、巨大な盾に阻まれる。

 尾崎さんの放った稲妻がサラマンダーの胴体を貫き、麻痺させる。

 懐深くに踏み込んだ稲田さん渾身のアッパーカットが脳天を打ち抜き、更に麻痺させる。

その隙を突いて俺はサラマンダーの脳天めがけて魔剣を振り下ろす。刃がサラマンダーの脳天に食い込み、斬り抜けた。

次の瞬間サラマンダーの体内で爆発が起こり、頭部を盛大に吹き飛ばす。頭を失ったサラマンダーは2、3回痙攣すると動かなくなった。

サラマンダーの肉体は骨まで液体と化して地面にアメーバのように広がると、ジューッと煙を上げて蒸発していく。

 お疲れ様〜!と言いながら、エリカがさしたる疲れも感じさせない調子で歩いてくる。

 解毒治療も終わったらしく、朋美さんもこちらに歩み寄ってきた。

「…どこのどなたかは分かりませんが、皆様ありがとうございます」

 麻痺毒も抜けて本調子に戻ったらしく、魔剣士が俺たち一行にお礼の言葉を言った。

「なぁに、困った時はお互い様ですよ。しかしこの階でサラマンダーに当たるとは、ツイていませんでしたな」 

 堀田さんがお互い様ですよ、と魔剣士に応じる。地面に倒れていた他のパーティーメンバーも麻痺から回復したらしく、魔剣士に向かってゆっくりと歩んでくるのが見えた。

 足元がふらついている者も多く、この状態ではこれ以上地下を目指すのは無理だろう。

 どうやらチラシに書いてある通り、レアなモンスターがダンジョン中に出ているみたいだ。

サラマンダーとメイジゴブリンは本来地下10階、第3階層へと繋がる魔法陣を護るガーディアンである。それがダンジョンを徘徊しているということは、

ガーディアンは未知の強力なモンスターになっている公算が大きいということを如実に指し示していた。

「エリカくんもさることながら、剣十郎くんもその若さで凄いな!おかげで僕は出番なしだったよ」

 にこやかな笑みを浮かべて堀田さんが俺たちに近寄ってくる。その口ぶりから察するに、俺たちを試していたみたいだ。

ハッキリ言って値踏みをされるのは好きではないが、これで俺たちの実力は認めてもらえただろう。

 パーティーメンバーの戦力として一歩前進である。俺とエリカは顔を合わせると、労をねぎらうかのようにお互いの肩を叩きあった。

 帰還のスクロールが発動し、広場に青白い燐光を放つ魔法陣が広がる。

 地上に戻っていく風の旅団というパーティーを見送ると、再び俺たちは地下を目指して歩き始める。

迷宮のそこかしこで起こっていた戦闘の音も今ではパッタリと止み、辺りを再び静寂が支配していた。

暫くの間、俺たちは無言で迷宮を歩く。カツーンコツーンと硬質な靴音だけが壁に反響し、消え去っていく。

 迷宮をひたすら歩くこと30分。地下へと通じる魔法陣が見えてきた。辺りにはモンスターの気配どころか人の気配すら無く、ひっそりと静まり返っている。

 何の感動もなく、俺たちは無言で魔法陣の上に乗って地下7階を目指す。


7.


 地下7階で、俺たちは強盗の集団に遭遇していた。

 命が惜しければ身ぐるみ全部置いていきな、と凄むリーダー格の魔剣士に、エリカが氷よりも冷たい目線を送ると独り、矢面に立つ。

 一見して無防備なエリカに向かって無数の矢と攻撃魔法が遅いかかったが、矢は巨人に捕まえられたかのように宙で静止し、魔法は錬金術師の服に焦げ跡1つ付けられずに終わった。

しびれを切らしたリーダー格がミスリル製の剣で斬りかかったが、剣はエリカに届く寸前でガラスで出来ていたかのごとく、粉微塵に砕け散った。

「臭いなぁ。近寄らないでよ」

 見るのも触れるのも嫌だ、とばかりにエリカが腕を振り払う。次の瞬間、魔剣士崩れの盗賊は見えない拳に殴られたかのように吹き飛ばされ、壁面に叩き付けられた。

「堀田さん、今何時ですか?」

 まるで敵がいないかのように、エリカが堀田さんに問いかける。

「今の時間かい?11時5分だよ」

 そうですか、と堀田さんににこやかな笑みを浮かべてエリカが答える。

 再び盗賊たちに振り返ると、エリカは無表情になった。

「さぁ、おじさんたち。お祈りの時間くらい待ってあげるよ」

「ざっけんな、このクソガキ!ぶっ殺してやる!」

 エリカの言葉に、盗賊のリーダーが怪気炎を上げる。 、

「あっそ。じゃあサヨナラだね。バイバイ!」

 エリカが脚から地面に魔力を送り込む。刹那、紫電が地面を走って盗賊たちを絡め取った。

「ざけやがって、このクソガキ!こん程度で俺たちを封じられると―ゲェッ!?」

 リーダーの声は途中から驚愕の叫びに変わった。金色の輝きが足先から上へ上へと広がり、盗賊たちの肉体を蝕んでいく。

「クソ、テメェ錬金術師か!…先生、出番ですぜ!」

 リーダーが声をかけると、黒いローブをまとった1人の人間がエリカの前に歩み出てきた。

無言の魔力が紫電と化して盗賊たちを再び絡め取る。するとビデオを逆再生したかのように、金色の輝きが引いていく。

 完全に戒めから盗賊たちが開放されたのを確認して、錬金術師らしき人間はローブのフードを外し、素顔を現した。

 表情の消えていたエリカの顔に、驚きの表情が広がる。どうやら知り合いのようだ。 

「…へぇ…エンリケ・ペンデルトンじゃん。師匠の下から逃げたかと思ったら、こんな所で盗賊の用心棒になってたとはね」

 案外元気そうじゃん、とエリカが珍しくはしゃいだような声を上げた。

 対してエンリケと呼ばれた錬金術師崩れは苦虫を噛み潰したような、苦い苦い表情を浮かべた。

「…エリカ・サイオンジ…」

「同じ錬金術師のよしみで君だけは見逃してあげる。10秒時間をあげるから、実家に帰ってママのおっぱいでも吸ってなよ、ママっ子ちゃん!」

 余裕綽々といったエリカに対して、エンリケの方に返事を返す余裕は無かった。

 …10秒はそれこそあっという間に過ぎた。どうやらエンリケと呼ばれた錬金術師は逃げずに戦う腹を決めたようだ。

「へぇ、逃げないんだ。せっかく生き延びるチャンスをあげたのに、命なんていらないのかな?」 

 逃げれば命だけは助かるが、用心棒として雇われた身ではそうそう撤退などできようもないのだろう。

震える手でエンリケは懐からダガーを取り出し、地面に突き刺した。

 魔法陣が広がり、目も眩むような閃光と共に無数の雷が現れ、一本の線になってエリカに襲いかかった。 

「フン、今更化石になったような技を…所詮、半端者は半端者だね」

 心底の侮蔑を含んだエリカの声。放たれた雷はエリカの前に開いた黒い穴に吸い込まれて消えていく。

雷を吸い取り尽くした黒い穴は閉じられ、広場は再びシンとした静寂に包まれた。

「冥土の土産に、本当の錬金術師の力を見せてあげる。せめて苦痛を知らず、安らかに逝くといいよ」

 再びエリカは地面に魔力を送り込む。100%の本気で放たれた魔力が唸り、床面に巨大な魔法陣が形成された。

「来たれ稲妻!ギガ・サンダーボルト!」

 強烈な破裂音が響き、先ほどとは比べ物にならないほど巨大な雷の柱が地面から何十本も立ち昇る。

エリカが腕を一振りすると、雷はまるで意志あるかのように蠢き、錬金術師と盗賊たちを包み込んだ。

超高エネルギーに包まれた盗賊たちは悲鳴を上げるヒマもなく、一瞬で炭化して光の中で崩れ去っていく。

 目も眩むような閃光と轟音が収まった時、広場にはチリひとつ残っていなかった。

「邪魔者もいなくなったし、先に進みましょうか」

 先程の無表情から打って変わって満面の笑みを浮かべたエリカに、堀田さんは生返事を返すのみだった。


8.


 地下8階の中央にはモンスターの立ち入ってこない広い聖域があり、そこには何組ものパーティーがキャンプを構えていた。

 水場もあり、冒険者たちが水浴びをしている。中にはドラム缶を持ち込み、風呂にしている一行もあった。

 俺たちも空いている場所を見付け、背負った荷物を降ろして休憩することにする。幸い地下への魔法陣は聖域内にあり、目と鼻の先だ。

 リュックから取り出した疲労回復効果のあるポーションを一気飲みし、俺は大きく深呼吸をして床に寝そべった。

火照った体に床の冷たさが心地良い。

「さっきの錬金術師、惜しかったな…」

「ほんとほんと。逃げたら命だけは助かったのに、バカだよね〜。けんちゃん?」

 言いながらエリカが俺の横に寝そべる。

 常住坐臥、寝ている時でさえ体内に取り込んだ魔力を体内で練り上げている錬金術師は、あの程度の量の魔力放出では疲れの欠片も出しはしない。

錬金術師にポーション要らずとはよく言ったものである。それに加えてあの強さ、まさにチートとしか言いようがない。

 男には引けない一線があるんだよ、と俺が言うと、エリカがくっくっと笑いをこぼした。

「それは命より大事なもの?意地っ張りは早死にするよ?」

 それもそうだが、コイツには男が女の前で見せる強がり―男のロマン―を理解するつもりはないらしい。

「死んじゃったらロマンもクソも無くなるよ〜。命あっての物種って言葉もあるじゃん。

けんちゃんにはソコの所、弁えていて欲しいな〜。迷惑なロマンは邪魔なだけだよ。

けんちゃんは引き際を心得ていて欲しい〜」

 ヘイヘイ、分かってますって。引き際を心得るのは、少年兵時代に痛いほど経験している。

おかげで死なずに済んだ場面が結構あったし、その感覚を掴んでいたおかげで生きて日本に帰ってこれたワケだし。

「お前は気楽で良いねぇ。こちとら付いていくだけで精一杯だよ」

「付いて来てくれるだけでも嬉しいよ〜。商売の方も順調だし、移住して正解だったと思う」

 地球じゃこうはいかなかった、とエリカが言う。奇遇だな。俺もそう思う。

 日本では廃業寸前の鍛冶屋の一人息子で元少年兵に単なる天才女子高生だったのが、

異世界では売り出し中の鍛冶屋兼腕利き魔剣士と稀代の天才錬金術師だもんな。

日本と異世界じゃ雲泥の差だ、と俺は返事を返して空になったポーションの瓶をリュックに戻す。

ゴミは持ち帰るのがダンジョン内のマナーであり、不文律である。

聖域にはラバトリー(トイレ)も用意されており、休憩するには最適な場所だ。

 俺たちは寝そべるのをやめて起き上がると、弁当を広げて食い始める。

 腕時計は正午を指しており、昼飯にはちょうどいい時間だ。

 ダンジョン近くの弁当屋で買った唐揚げ弁当は、冷めても美味しいように調理されているのが良かった。

 薄く上品な塩味。噛めば鶏肉の旨味が舌に広がり、俺は顔をほころばせた。何と言うか、幸せって感じだ。

 弁当をたいらげ、リュックにしまうとラバトリーに行っていた堀田さんたちが戻ってきた。

 どうやら休憩時間は終わりのようだ。


9.


 地下9階で俺たち一行を待ち受けていたのはモンスターではなく、人の行列だった。見渡す限り、行列が―おそらく魔法陣まで―続いている。

 噂話が前から伝言ゲーム式に伝わってくる。どうやら地下10階のガーディアンはサラマンダーから、鋼鉄でできたゴーレムに変わったらしい。

 …鋼鉄で出来たゴーレムか。なるほど確かにレア中のレアモンスターだ。この世界の鉄の少なさから鑑みて、SSSレアモンスターと言っていいだろう。

 地球では鉄なんぞ、それこそ捨てるほどあるのにこの世界じゃダイヤモンド並に貴重ときている。

 おかげでティファニーやバーバリーと言った高級ブランド店はこの世界向けにステンレス製のアクセサリーを販売している位だ。

 仕方なく俺たちは行列に並んで順番を待つことにする。列はジリジリとだが前に進みつつあり、時間をかければ魔法陣まで最短距離で案内されそうだ。、

 俺の後ろについているエリカが眠たそうにアクビを漏らす。

「退屈〜」

 同感だ。この調子だと外に出られるのは夕方になってからだろう。

ダンジョン探索のパーティーにも入れてもらえたし、今回の探索の首尾は上々といった所だな、と俺が言うと、

「そうだね〜。いい人たちだし、できたらこのまま最下層までこのパーティーで行きたいね〜」

 と返事が返ってくる。

 他愛のない雑談をしているうちに時間が経ち、転送の魔法陣の手前まで俺たちは流れてきていた。

先に並んでいる堀田さんたちが魔法陣の中に入り、転送される。俺たちも続けて魔法陣の中に入った。


10.


 懸念通り、地下10階にはモンスターの姿はなかった。どうやら先に行ったパーティーたちが狩り尽くしてしまったらしい。

この調子だと、ガーディアンたる鋼鉄のゴーレムはとうの昔にコアを破壊されて、残骸も地上に持ち出されているに違いない。

 と言っても、数トンもある質量の残骸を一部のパーティーが持ちきれるはずもない。小遣い程度の稼ぎにはなる程度の残骸はあるだろう。

 俺たち一行はまず中心部にある縦断転送魔法陣に向かい、石碑にそれぞれの魔力を登録することにした。

 メンバー全員が魔力登録を終えたのを確認して、堀田さんが口を開いた。

「よし、これでひとまずは目標達成だ。僕たちはキャンプ用装備を持っていないから、この階で探索は一旦終了にしようと思う」

 誰か異議はあるか、と堀田さんがメンバーを見回す。誰も異議を唱える者はいなかった。

 まだ時計は午後3時を過ぎたばかりであり、そのまま地上に帰るのはもったいないので雑談が始まる。

「堀田さんは、普段何をされてるんですか?」

 俺が尋ねると、堀田さんは快く答えてくれた。堀田さんは日本の大手製鉄会社に勤めており、レムリアへは駐在員として訪れたのだという。

平日は会社員として働いており、ダンジョンに潜ってプリーストをするのは週末だけ。妻子は地球に残っており、こちらには単身赴任しているのだそうだ。

引退したら、レムリアに移住して本格的にプリーストをやりたいと言っていた。

 稲田さんご夫妻は俺たちと同じ移民で、平日は公務員として国防省に勤めているそうで、こちらもダンジョンに潜るのは週末だけだという。

 落合さんは農協の職員で、レムリアには稲作を始めとした農業のやり方を指導しに来たのだという。肥料や除草剤が売れそうだと言っていた。

 尾崎さんは俺やエリカと同じく一家で帝国に移住してきたクチで、普段は高い魔力を生かしてポーションを始めとしたマジックアイテムを売る雑貨店を営んでいるそうだ。

 須藤さんは現役の自衛官で、帝都にある日本の大使館で駐在武官をしているという。どうりで筋骨隆々としているワケだ。これだけ逞しい護衛がいると、大使も安心だろう。

「ヘェ、剣十郎くんは少年兵をしていたのか。日本に居た頃はマスコミがうるさかっただろう?」

 堀田さんは同情の混じった声で言った。

「ええ、うるさかったですね。何しろ飛行機事故で死んだと思われていましたから。少年兵をしていた頃は死ぬような思いもしましたけれど、今は家族に囲まれて幸せですよ」

 武器屋としての仕事も順調ですしと俺が答えると、堀田さんはそれは良かったと言って朗らかな笑みを浮かべた。

 雑談に花が咲いているうちに時間が経ち、ふと見ると時計の針は午後5時を指していた。堀田さんがメンバーに声をかける。

「そろそろいい時間だ。皆、愛しき地上に帰ろう」

 確かに、とメンバー全員が頷き、転送の魔法陣の中に入った。 

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