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異世界からの帰還と日本の変遷

 ―世の中の構造が明らかに変わった瞬間というのは、

日本国の国民なら、誰しもが『あの事件が発生して以降からの事だ』と認識しているだろう。

万単位に及ぶ大量の犠牲者を出した我が国史上最悪の規模のと言い得るテロが発生して以降、

この国は劇的に変わった。いや、変わらざるを得なかったのかも知れない。

即座に『我が国は関与していない』と声明を出した国連加盟国の協力もあって国連憲章から敵国条項は削除され、

あれだけタブー扱いだった憲法は改正されて自衛隊は正式に軍隊扱いとなり、

果てはアメリカからの手厚い援助もあって最新鋭の原子力空母導入でさえすんなりと成ってしまった。

アウトローな代物の代名詞であった拳銃の民間人への販売が解禁され、拳銃の所持・携帯が導入時のの手続きは煩雑ではあるものの

合法化されたのだから、苛烈なまでの変化がこの国と国民に襲い掛かったと言っても差支えが無いのではないだろうか。

今や日本も立派な銃社会であり、銃砲店の開業と世界各国にある銃器メーカーの日本進出・銃器製造工場の建設ラッシュは未だに続いている。

それ位、拳銃は身近なものになってしまった。

願わくば、その道具がこれ以上の悲劇の引き金にならぬことを―

と私は願って已まないのである。

―対テロ特殊独立作戦群、通称SIFATシファト第1行動グループ隊長、井ノ上光太郎大尉いのうえこうたろうたいいの回想より―



 異世界―レムリア帝国―との国交が始まって幾星霜が過ぎた頃、2024年の夏。

俺こと日之崎剣十郎は1年ぶりに祖国日本―東京―の土を踏んだ。

空港に備えられたレムリアと日本を結ぶ転送門てんそうゲートを恙なく抜け、

パスポートを係官に見せて杓子定規を絵に描いたような問答を終えて空港の自動ドアを潜り抜け、

級友が自動車を待たせている駐車場への二重ドアを潜る。

「よう、日之崎!1年ぶりの祖国の土を踏んだ感想はどうだ?」

「たいして変わりなさそうに見えるのは何より結構な事だ、と思ったよ。

しかしまぁ最新鋭のハイブリッド車やEVじゃなくて、何でまたそんな旧いクルマに乗っているんだ?」

 ―パルサーGTI-Rと言うらしい、明らかに自己主張の度合いが現代の自動車とは違っているクルマだ―で空港に乗り付けた級友は無言で、

『何で1度きりの人生をそんな没個性を絵に描いたような自動車に乗って過ごさねばならんのだ?』と言いたそうな顔をして返しただけだった。

「他人の人生観と価値観に介入するつもりはないが、日下部くさかべたちのクルマといいお前といい、

お前らはマニアックでないと生きられない病気にでも罹っているのか?」

「失礼なことを言うな。これは俺がこの世に産まれてきた瞬間から定まっていた事だ。選択の余地は存在していない」

 と純白のボディをベンベンと叩いて俺に言い返したのは、

二次元から飛び出てきたかのような甘いマスクをした金髪の青年―名を大牟田篤おおむた・あつしという―であった。

「相変わらず女っ気の感じられない生活か・・・寂しくはならないのか」

鹿苑寺高校ろくおんじこうこうの英雄を迎えに行く栄に浴しているのに、

女を侍らせる必要がどこにあると言うんだ?」

「過分な尊称を賜りこちらこそ光栄だよ。

しかし単なる元・少年兵が英雄扱いってのは、何とかならんもんか」

「修学旅行で行ったヨーロッパでテロリストに人質として東欧に連れ去られてもなお、

誰ひとり命を落とさずに日本に帰還できたのは

何よりあそこで少年兵をしていたお前の功労があってこそだろう。

奇跡を成し遂げた人間を、英雄以外にどう形容しろと言うんだ?」

 そう言い返して大牟田はドアを開け、俺にクルマに乗るように促した。

「・・・そう言えば、お前も含めて何で道行く人々から皆ガンパウダーとガンオイルの匂いがするんだ?

空港の警備をしている警官がサプレッサー付きのサブマシンガンを持っていたし、

いつの間に日本は銃社会になったのか、是非ともご説明願いたいものだな」

 パルサーGTI-Rに乗り込み、俺は鼻をひくつかせて大牟田に問いかけた。

「それは日下部に説明してもらえ。お前がいない1年間で日本も色々あったんだよ、色々とな」

「ならそうさせてもらおう」

「まずは金剛銃砲店に寄って銃と弾薬を買え。次は日下部病院で精密検査だな。

俺たち『呪われた世代』の中でもお前は特別な呪いを受けた身だ、

年齢から言って身体に何らかの変調が現れていてもおかしくはないだろう」

 そう大牟田が言うと、大牟田の運転するクルマは去年とは去年とは段違いと言ってもいいほどスムーズに動き始め、

空港の駐車場から走り去っていく。

「そうそう、日下部からお前に謝罪したい事があるそうだ。

精密検査を受ける前に日本が置かれている現状も含めて説明してもらえ」

「・・・。そうか」

 パルサーGTI-Rはクラシックカーとは思えない快音を響かせながら、東京から鹿苑寺市への道を走っていく。

鹿苑寺市と東京を結ぶのは、1週間戦争以降行われた大規模な都市合併に伴って整備された猛烈な長さをした弾丸道路だ。

フルマラソンが余裕で行えるほどの長さを誇る直線道路であり、

その手の趣味をした連中からしたら聖地扱いらしい。

だが当然の如く要所要所にオービスが設置されており、警官の目も光っているのでそうそう無茶は出来ないのだが。

「しかしまぁ、皆が皆俺と同じ―地獄に堕ちる選択をする―とは思ってもみなかったぞ」

「神の手になる楽園を追放された人間は、地獄に堕ちるしか選択肢がないのさ。

とか言っている間にホラ、金剛のやってる銃砲店に着いたぞ」

 パルサーはスムーズに銃砲店の駐車場に到着し、俺は大牟田に促されるがままクルマを降りた。

 金剛銃砲店と大書きされた看板を見上げ、俺は大幅に拡張された形跡が伺える銃砲店の自動ドアを潜った。

 「いらっしゃいませー!」と店に入った俺を見かけるなりよく通る声で俺を出迎えたのは

高校時代に数々の修羅場を共に潜り抜けた級友と言うよりも戦友と言った方が相応しいであろう存在の1人、

金剛銃砲店の看板娘である金髪に紅い目をした女性―金剛千束こんごう・ちさと―であった。

「金剛、単刀直入に訊くがCZ75P-01はあるか?使い慣れているんでな。

あと予備マガジンが最低3本は欲しいな。弾薬も当然必要だ。

あとそれ用のホルスターを扱っていてくれていると助かる。

あとガンロッカーも借りたい」

「あるある、あるよぉCZ75P-01とそのホルスター。

チェコ製が好きなんだねぇ、日之崎くんは。

しかし携帯の許可が下りるまでだいぶ日数を待つことになりそうだけど、弁護士・警官・自衛隊員の推薦なしでいいの?」

「なんで9パラの拳銃ひとつにそんなご大層な許可が要るんだ?」

「推薦人の役目は俺が担う。売ってやれ金剛」

 ・・・と言って俺の背後から現れたのは見るからに厳つい見た目の、

大柄な黒目黒髪の自衛隊員―名を井ノ上光太郎いのうえ・こうたろうと言う―だった。

「売っても良いけれど、推薦人の身分証明書の提出が必要だね。当然持っているとは思うけれど、持ってなかったりはしないよね?」

 とカウンター越しに井ノ上に問いかける金剛に対して、井ノ上は無言で懐から警察手帳的なモノを取り出し縦に拡げてカウンターに置いた。

警察手帳的なモノなのだろうか?部隊章の上にはSpecial Independental Forces Anti Terrorism

(対テロ特殊独立作戦群とでも言うのだろうか?)と英語で表記されており、

下半分には制服を着込んだ井ノ上当人の写真が貼り付けられ、

日本政府所属の者である事を示す文章が記されて、

ご丁寧な事に個人を識別する為であろうQRコードまで印刷されていた。

「やっぱり精鋭揃いのSIFAT所属の人間が知り合いだと説得力が違うな。申請もスムーズに通るだろうねぇ~」

 手許のスキャナーでQRコードを読み取り、レジと直結したパソコンに身分証明のデータを読み取らせて電子メールで送信する金剛。

するとものの数分で拳銃の販売・携帯の許可証が警察署から電子メールに添付されて送られてきた。

「全部でいくらだ金剛?」

「拳銃と予備マグとかの諸々のお代は、ええっと。

・・・つけとく事にするよ。お付き合いはこれっきり、ってワケじゃなさそうだしね」

「・・・だな」

 財布を取り出して諸々の代金の事を金剛に問いかけた俺に手をヒラヒラと振って返事を返し、

地下にあるであろうガンロッカーのキーと銃本体とアクセサリー類を俺に寄越す金剛。

確かにこれっきりってワケじゃなさそうな雰囲気なのは確かだ、といった雰囲気は感じ取れたので

俺は黙って差し出されたCZ75P-01と差し出されたモノたちを受け取り、ホルスターを装着すると次はマガジンに弾を込め始めた。

少年兵時代から使い慣れているCZ社の製品に、俺は全幅の信頼を置いている。

ポリマーフレーム・ストライカー式撃発の銃が昨今は流行りのようだが、俺はイマイチその流れに乗る気になれなかったりするのだ。

ハンマー式撃発の方が使い慣れていると言うのも大きな理由だが、やはり銃の素材で一番いいモノは鉄と言うか鋼だと思うのである。

「やっぱり銃の素材は鉄と言うか鋼だよなぁ、って思うよホント」

「「とか言いながら、P-01のフレームはアルミだろうが」」

「知ってるよ、使い慣れているのを選んだだけだ」

 大牟田と井ノ上の揶揄いに、俺は使い慣れているんだから仕方ないだろうと答えながらマガジンに弾を込め続けるのだった。



 予備3本と本体に予め装着されていたのを含めてマガジン4本に弾を込め終えて銃に装填し、

肩の下に装着したホルスターに収めてスーツのジャケットの前ボタンを閉じ、カバンに予備マガジンを放り込むと、

大牟田が「そろそろ日下部の病院に行くぞ」と言って俺を手招きした。

「じゃあ、井ノ上もまた会場で会おう」

「ああ、異世界での冒険譚を楽しみにしているよ。こっちは刺激がめっきり少なくなってな・・・」

「銃社会が刺激的じゃないってのは初耳だな。慣れた頃が一番危ないんだ、注意しろよ?葬式の案内が来るのはごめんだ」

「大丈夫だ、こう見えてこのスーツは特注品の防弾モノだしな」

 ―俺は『急所である頭部を狙われたらどうする?』と言い返したかったが、

対テロの専門家に言うのは釈迦に説法というものだろうしやめておくことにしておき、

店を出て大牟田の待つ駐車場へ足を向けて歩き始める事にした。

 金剛の「ありがとうございました~」という営業スマイル満点の挨拶に見送られ、

俺は大牟田が既に乗り込みエンジンをかけて待っていたパルサーGTI-Rの助手席に乗り込み、

5点式シートベルトを締めるのであった。

「金剛の店で客の小話を耳に挟んだんだが、この国で半年前、大規模なテロが発生したそうだな?」

「相変わらず地獄耳だな。万単位の死人を出した我が国が始まって以来未曽有の、最悪の規模のテロだったよ」

 おかげで日本もすっかり銃社会、みんなみんな地獄へ堕ちる選択をしたってワケさ、と大牟田は前を見つめながら不機嫌そうな顔をして答えた。

詳しい事は日下部の奴が話してくれるだろう、と言って大牟田はわざとらしくフェイントモーションをかけ、

クルマは派手なスキール音を立てながらコーナーを曲がった。どうやらこれ以上大牟田は話すつもりがないらしい。

「・・・そうか」

 と俺は小さく生返事を返すのが精一杯だった。



 ほどなくして、大牟田の駆るパルサーGTI-Rは日下部の両親が営む鹿苑寺市内随一の大病院に到着し、だだっ広い駐車場にスムーズに駐車した。

俺は大牟田に付き添われると言うか監視されるかのようにして病院の正面玄関に設置されている自動ドアを潜った。

「よう日之崎、元気してたか?」

 ・・・と陽気半分、陰気半分といった感じで

これまた日本人離れした銀髪をした医大生の美形の青年―日下部源一郎くさかべ・げんいちろう―が俺に声をかけてきた。

普段は陽気そのものな人間の日下部にここまで陰鬱な声をあげさせる位なのだから、

俺は半年前に起こったテロ事件の規模の大規模さ加減が透けて見えるような気がした。

「俺はいつも通り元気なつもりだが、身体の方はかなり歳を取ったなと感じるているよ。

・・・で、俺に謝罪したい事があるって何についてだ?」

 日下部は困ったような顔をして付いてこいとだけ陰鬱そのものな声で言い、俺を手招きしたのだった。

行く先は俺たち『呪われた世代』の遺伝子配列(せっけいずと開発コンセプト)が記録されている

スタンドアローン式端末の安置されている特級の機密エリアだ。

端末にアクセスするには特に厳重なセキュリティーロックが施された

―核シェルターに匹敵する強度の扉で通常火力では突破できない扉―を潜る必要があり、

その威容は高校卒業時に見たのと変わりないように見える。

俺と日下部の網膜認証が成功すると重たい対爆隔壁が左右に開き、

呪われた世代の人間の遺伝子データが収められたスタンドアローン端末を収めた部屋―通称『雨の岩戸』―が露わになる。

扉が重たい音を立てて閉ざされると、日下部は俺に深々と頭を下げた。

「済まない日之崎、俺はお前に謝罪しなければならない」

「それは何の意味での謝罪だ?俺の設計開発コンセプトが判明でもしたのか?それとも俺の遺伝子せっけいデータが流出でもしたのか?」

 日下部の唐突な謝罪の言葉を受けて俺の頭に浮かんだのは、その2つの疑問だった。

「両方の意味での謝罪だ日之崎。お前の設計開発コンセプトが明らかになった上に、

ここから何者かによってお前の遺伝情報が盗み出され、

インターネットを介して世界中に拡散させられてしまった。

子供を作れないお前の欠点は遺伝子改造で直されており、

お前の『子供』たちが今まさにこの地球上で大量に産まれようとしていても何らおかしくはない状況だ」

「半年前に起こったとされる日本史上最悪の規模のテロと、俺という人間の設計・開発コンセプトが何らかの関係があったとでも?」

 俺の問いかけに対して日下部は深刻な顔で首肯した。

「結論から言って大ありだ日之崎。お前という人間の設計・開発コンセプトは

『兵士として最適な資質ライトスタッフを持った人間』だと政府の詳細な調査で判明した。

加えてテロの実行犯たちがお前の遺伝子データを流用・改造して何者かがどこかで人工子宮を悪用して製造した、

促成栽培されたクローン人間だった事が軍の事件後に残されたテロリストの死体の遺伝子調査で判明している」

 土下座でもしないだろうか?と疑ってしまうほど陰鬱な表情と声で日下部は俺に謝罪の言葉を述べた。

 俺は曖昧な表情を浮かべて苦笑する他に取り得る選択肢がなかった。

「諸外国はこのテロについて何か声明を発表したのか?」

「国連に加盟している、いないを問わず地球上にある総ての国が即座に『我が国はこのテロに一切関与していない』と声明を出したよ。

未曽有の規模のテロ被害を受けた日本への同情もあって国連憲章から敵国条項は削除され、

憲法改正はアッサリと達成され自衛隊は専守防衛の方針は変わっていないが日本軍に改称され、

対テロを専門とした特殊部隊(SIFAT)が創設された上に

民間人も個人の防衛の為に拳銃で武装する事が基本的人権の1つとして認められ、

横須賀にはアメリカの援助もあって最新鋭の原子力空母や強襲揚陸艦、各地の軍港には攻撃型原潜までもが配備されるまで至ったってワケさ」

 攻撃型原潜にトマホークは積んでないがな、と言って日下部は言葉を切った。

専守防衛にしては重武装が過ぎるのじゃないのか?と言いたそうに首を傾げ、

日下部はおどけるかのように、俺に日本が置かれている現状を語ってみせた。

俺は正直言って自分が原因のようなもので大規模テロが発生したとは半ば信じ切れず、

日下部にかける言葉を失わざるを得なかった。

「・・・そうか、俺が兵士としての正しい資質を持った人間として設計・開発されたと分かったのは大きな収穫だ。

俺の遺伝子を利用した子供たちが産まれ出てきても何らおかしくはない、というのは不本意だが仕方ないな。

しかしそれを盗み出した人間はいったい何者だ?ここのセキュリティーはかなり厳重なんだと聞いているが」

 日下部の説明を受けて俺の頭に浮かんだのは、

俺の遺伝子情報をここから盗み取って世界中にばらまいた人間が何者なのか?という疑問だった。

 日下部は無言で網膜認証を行い、重たい扉を再び開けて通路を歩き始めた。

 これ以上は誰かに聞かれても構わない話だ、ということなのだろう。

精密検査室につながる通路を歩きながら、日下部がばつの悪そうな顔をして口を開く。

「それが・・・非常に言いにくい事だが身内だ。

犯人は高校時代にお前の彼女だった女だ。国木田、国木田涼香くにきだ・すずかだったんだよ」

 俺は自身の遺伝子データの流出・拡散が高校時代に共に死線を潜り抜けてきた戦友であり、

親密に付き合っていた彼女の行為である事に大いに驚き、目をを見開かざるを得なかった。

「国木田は、俺との間に子供ができない事を気にしていた。一連の犯行も、せざるを得なかったのかも知れない。

・・・で、国木田は今現在、どうしているんだ?」

 俺の疑問に、日下部は非常に残念そうにかぶりを振った。

「それが、分からないんだ。彼女はお前の遺伝子データをインストールした精子を使って自身の卵子と結合させ受胎した後、

俺たちの前から姿を消した。今は完全に行方不明になっている」

 日下部は八方手を尽くして彼女の行方を調べさせてはいるが未だに行方は分かっていない、と続けて口を閉じた。

これ以上の情報は彼自身も持っていないということなのだろう。

「俺の出来る説明はこれまでだ、日之崎。約束通り精密検査を受けてもらおう。

お前の身体は俺たち『呪われた世代』の中でも特別だ、

度重なる戦闘を経て、なにがしかの変調が現れていても何らおかしくはないからな」

「そうさせてもらうよ。しかし済まないな、毎度毎度タダで精密検査してもらって」

「お前の身体を調べることで、こちらの得られるモノは沢山ある。金銭には換算できないほど莫大な情報が手に入る」

 日下部に促されるがまま、俺は俺の身体の精密検査を受けることにした。

高校を卒業して異世界に鍛冶屋として移住して以降、日本に帰ってくる回数は同窓会が開催される1年に1回程度に減った。

そして日本に帰ってくる度に日下部病院で精密検査を受け、実年齢と肉体年齢の乖離が進んでいないか?を検査してもらうのが恒例となっている。

レントゲン・CTスキャン・MRI・・・といった最新鋭の医療機器たちによる身体各所の撮像を経て、

最終的に院長であり腕利きの医者でもある日下部の親父さんによる診察を受ける。

「単刀直入に訊きますがおじさん、俺の身体はいつまで持ちます?」

 俺の問いかけに、日下部の親父様は真剣な顔で俺に告げた。

「度重なる荒事を潜り抜け、負傷からの超回復を経て君の肉体は急速に疲弊し、老化していっている。

君の肉体年齢は今現在60代前半といった所だ。幸いガンなどの肉体的変調は顕れていないが、

最大幅で見積もっても恐らく、あと5~6年といった所だろう。

これが君の遺伝子に定められた『生命の終わりのカタチ』なのだろうと私は見ている」

 俺はそのことを遺伝子改造によって施された、

俺という人間の生命に定まっている諸々の事について誰よりも知っていて、

全幅の信頼を置いている医師当人から告げられて、改めて心の中で覚悟を決めて席を立った。

「そうですか、なら次からは1ケ月に1回は日本に帰ってくることにします。

銃社会で生きていくにあたって、皆に伝えなければならない事も出来ましたし」

 俺の言葉に、日下部の親父さんは緊張を解き、ホッとしたような顔をした。

「そうか。そうしてくれると、こちらとしても大いに助かるよ。

正直言って君のように荒事を何度も潜り抜けてきた経験者の指導がなければ、

我々は銃社会を生き抜いていく自信が持てないだろうからね」

 俺は日下部の親父さんに一通り礼を言うと、診察室から出て大牟田の待つ待合室へ向かった。

パルサーGTI-Rに同乗して目指すは同窓会が行われる、桐山邸きりやまていである。

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