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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第九話「運命の輪」

ウィンド編1-5「イシス・スタラント」

マーリン編1-1「※※※※※」

「やぁ!」


人当たりの良さそうな柔和な笑みと親しみやすそうな雰囲気を発するその男は紛れもなく、昨夜遭遇した西のギルドマスター暗殺者スカーラであった。私の部屋は服と武器以外殆ど何もなく殺風景といえる。昔はマーリンが女の子は色々揃えるべしと言ってたのだが、特に欲しい物が無かったため結局のところ家具もベッドと机のみだ。そんなベッドで20歳過ぎ程度の女性と話していたのだが、その女性もよく見てみれば、昨夜襲撃された家の当主イシス・スタラントではないか。


若くしてスタラント家の跡を次ぎ、白髪悪魔説を唱えるだけに留まらず、対悪魔専用の武器を幾つも生み出し、ブランド名にイシスの名が刻まれた。藍色の長髪に藍色の瞳。レケと同じ程度の長身を持つ彼女はその美貌も周りから疎まれる存在であった。今は一応亡き者の名だからこそ、過去形なのだが、奇縁はさらなる奇縁を連れてきたようだ。それに私が今こういうふうに対立した元々の原因と言えば、恐らくこいつだ。確信があるわけではないが、自分の髪がそれを物語っている。北ギルドだからこその待遇だが、他のギルド行けば嫌な目で見られるのは間違いない。それくらい彼女の言葉には影響力があり、社会全体に浸透してるのだ。故に、殺すのが自然とも言える。


「こんにちは。」


家に入り込んでる時点で礼儀もへったくれないのだが、イシスの方は最低限の挨拶をして来た。しかし、最低限であって、それ以上口を開くつもりはないようだ。私の髪を見て嫌な顔をしたのを見逃さなかった。とはいえ、その横にいる男が頼ったのだから何も言えない。頼ったというよりは昨日の見逃しはこの為だったと思えば、これも計算づくで依頼とやらはまだ続いてるかもしれない。


一方、一番気にしていたセエレはベッドと対立した机の椅子に座っていた。先程までセエレとも話していたのだろうか?

少なくとも悪魔であることは既にわかっているのだろうが、依頼して来た側としてのマナーは守ってるようで安心した。それとも気付いてないのだろうか?それは殆どありえないことだが、敢えて探ろうとしないというのと有り得る。


「それで依頼について話してもいいかな?」


意識をしなければ空気と共に存在が掻き消えるその暗殺者は自分のことを忘れそうになったレケに自分を主張するかのように言った。レケは改めてスカーラを忘れぬようにセエレの横まで歩き、机の上に座った。近くに寄ってみて初めて気付いたのだが、距離は関係なく彼を構成するあらゆる気や力が無に近い。人よりも物に近い。人はそこに居るからには何かしらの雰囲気や魔力を発するのだが、スカーラは何も発さない。魔力の方はもしかしたら私の探査能力が低いだけなのかもしれないが、もしかしたら熱源探知しても引っかからないんじゃないかと思ってしまうほどに空気は彼を纏わず通り抜ける。太陽の光すらも彼には当たりそうにないほどにだ。


「それで、ギルドマスター様がなんの用よ。」


「イシスを預かって欲しいんだ。」


まるで友達と話してるかのような陽気な声で依頼内容を口にした。

子犬を預かるならまだわかるが、人間を預かれと言われ、終いには昨晩自身が襲った家系の当主だと知り、唖然とした。ということは、昨日の依頼とやらは彼女を拐うことでその拐われた本人はそれに承知してる。ここから導かれるのはその依頼人とはイシス本人のことではないのか?スタラント家から頼まれた依頼を思い出してみると、イシスの暗殺の首謀者がスカーラという1つの事実。確かに襲いに来たのはその御本人だったが、目的は全く違った。つまり、その情報はスカーラかイシスが流したもので最初から裏で組んでいたということだ。ならば、イシスがどのような依頼をしたのか気になる。


「は?」


その一瞬の口から漏れ出たものは反射的なもので、心から驚いている証拠でもある。思考停止をしかける自分をなんとか制御し次の言葉を脳内で作成する。この場において必要なのは真意ではなくその次だ。真意などわざわざ教えてくれるとは思えない。ならば、そんな無駄な話をするくらいなら、受ける前提で話すのが吉。なんたって、その相手はギルドマスターなのだから、おいそれ断れる相手ではない。


「一応聞いておくけど、報酬と期間は?」


本当ならば受けたくないが、昨夜の見逃しといい、今の見逃しといい、交渉の素材に持ち出されると困るものがある。その為その素振りだけは見せて置かなければならないのだ。


しかし、主導権は既にあちら側にあると見てもほぼ間違いないだろう。


「彼女の足の治療が治るまでかな。」


昨晩のイシスの歩く姿を見ている限り不自然な点は無かった。足に怪我をしているのにも関わらず顔には出さず普通に歩けるはずがない。程度の問題ではあれど、こういう言い方をするということは重症と見て間違いないだろう。だが、今も外見的には何も問題ないようにしか見えない。だから、当然の疑問として聞いてみた。


「何処を怪我してるの?」


その質問には暗殺に長けてるギルドマスターですら、少し苦笑いをして、イシスの方に目配せをした。その反応からかなりの重傷を漂わせる。それと同時に何かがあるということも臭わせる。スカーラに目配せられたイシスはそっと履いていた革靴を脱いだ。その足の形は明らかに歪なのが誰にでもわかった。まるで折り紙をぐしゃっと丸めたかのようなその足に動揺を隠せなかった。


スカーラは少し哀愁漂わせた雰囲気で話し始めた。そこからは今までとは違い人間味のある表情とイシスとの間に繋がりがあることを周りに認知させる。


「僕は彼女から電話で依頼されたんだ。スタラント家を壊して欲しいとね。」


その衝撃的事実により、ピースが当てはまった故にそこまで驚かなかったとはいえ、そこから浮かび上がるもう一つの真実も衝撃的だった。


「未だにスタラント家では男の方が偉いという家訓に従う珍しい家系だ。だから、前当主が死ぬ直前まで酷い虐待をされていた。」


古い歴史を持つ家系なら未だに根強く存在するその家訓は奴隷制度と言っても過言ではないほどに凄惨である。軽くて召使いとして育てられ、酷いと彼女の様に奴隷のように扱われる。彼女の場合、存在そのものが恥であった為、外に出したくないという理由から足を丸められたのだろう。


「仕事は終わったけどイシスを独りぼっちにするのは後味悪いし、君たちと出会えたのは運が良かったよ!」


先程の重々しい雰囲気から一転。

朗らかに笑った。彼にしてみれば空気は読むものではなく、壊していくものだと言いかねないほど、突然の変化であった。まるで先程の哀愁は演技でしたと言わんばかりのにこやかな雑味のない屈託のない笑顔に反応がしづらい。それを狙っていたのかもしれないが、わかったところでしづらさが軽くなるわけでもない。


「さて、治療は僕がやる予定だったけど、そこの魔術師さんの方が早そうだ。良かったらやってくれない?」


預かるという依頼に更に上から重ねてくるこの強引な交渉は2つめの見逃しがあるからこそ、簡単に出来るのだ。寧ろ、そのカードを今切ったとみても間違いないだろう。仮にここで報酬がなかったとしても受けるには十分過ぎる。家もバレているようだし、本気で逃げたところで直ぐに捕まえられそうだ。彼の所属する暗殺ギルドを動かされたら一溜まりもない。マーリンなら逃げられそうな気もするが、私というお荷物が居ては辛いだろうし、ここは承諾をするしかあるまい。

マーリンも流石にわかってくれるだろう。


「いいわよ。それも私達のとこが負担するわ。それで?」


「報酬は君たちの手伝いでどうだい?」


まさか……手伝いってそういうこと?


「うん、セリエレちゃんが悪魔なのも共存の話も当然知ってるよ。」


はっきりと口に出して言った。


そして、彼の言う報酬は破格の額でもある。

言ってしまえば、回数制限のあるジョーカーを手に入れたのと同様。私達にとって最も欲しかった援軍でもあるのだ。


しかし、何故こんなにもイシスの為に尽くすのだろうか?

彼は暗殺者の中でもトップに立つ存在。

当然、どの暗殺者より冷酷であるはずだ。

数ある中の一つの仕事に過ぎない。

だからこそ、こんなに固執をする理由がわからないのだ。


スカーラは報酬の内容を続けて言った。


「まぁ、僕も忙しい身だし、1回だけ助けてあげるよ。その一回がどんなことでも遂行してみせるよ。」


想像はしていたが、やはり回数制限があった。しかし、マーリンの魔力と引き換えなら安いもの。

暗殺者は万に通じると言うが正にその通りだ。

交渉も得意ならしい。


「交渉成立で良いわ。」


私から了承を得次第、影へと飲み込まれていった。


「それじゃあ、よろしくね」


最後まで優男風の面は外さずにベッドとスカーラの接面にある影に頭まですっぽり落ちていった。

イシスはその瞬間を初めて見たのか、その影のあった場所をポンポン叩いてみるが、残念ながらただの布である。どういう原理かはわからないが、影を使っての転移だとは思う。しかし、完全に彼のオリジナル魔法であり、今の所使えるのは暗殺者に限るという徹底した情報操作だ。


壁際に持たれていたマーリンがイシスの正面まで行き、膝を付いた。マーリンは私が勝手にマーリンを交渉材料にしたのを特に気にしてる様子はなく、イシスの足に対して幾つか魔法を掛けはじめた。


先ずは足を麻痺させて、感覚を無くす。次に足に対して時間逆流と成長促進をかける。この時点でこれは医療ではなく神の所業となん変わらないものであった。レケは気付いていないようだが、イシスとセリエレは回復魔法でないこと程度なら理解してるようだ。普通の人間なら一生を掛けても辿り着けない領域にマーリンは軽々と足を踏み入れてるのだ。


お陰で数分経つ頃には足は完全に普通のものとなっていた。

そんな自分の足を見つめるイシスは実感が沸かないのかぼんやりと見つめ、次第に涙の雫が溢れ落ちてきた。凛々しく冷たい表情をしていた彼女からは人間らしい感情が溢れ出てくる。何度も嗚咽が出て、泣き止むのに随分掛かった。それを見て、少しもやっとした気持ちがレケを襲ったが、何のことなのか自分でもわからず、その姿を見詰め続けた。


マーリンは少し疲れたとのことで、部屋にもう戻った。如何にも今の魔法による精神的な疲れみたいな雰囲気は出してたが、この程度で疲れるはずもなく、イシスの相手が面倒だから後は任せたの意であると察した。イシスの面倒は足が治るまでと言ってはいたが、行く宛があるはずもない。療養も兼ねて暫くは仲間として共に行くことにした。


ギルドへの登録とかはまた明日にでもマーリンと相談することにしよう。今日もまた色々なことが起きた。

私ももう疲れたため今日は寝よう。



次の日、マーリンはダシング家に用事があると言い。その後、帰って来なかった。



いつものように朝は朝食から始まる。

最初はマーリンと二人で食べていた。マーリンがからかい、私がそれに突っ掛かる。

お互いに深くはきっと何も知らない関係だったのだろう。歪で不安定かもしれないけど笑顔であふれていた。

そんな中、私のことを王と呼ぶセエレと出会う。

朝食はセエレ任せになることが多くなり、また少し違った朝となった。一時的とはいえ、イシスが加わり、賑やかな少し憧れていた朝となり、今の私は幸せモノだ。


「あ、そうだ。イシスをギルド登録したいけど、どうにか出来ないかな?」


イシス程の偉人となると、顔バレは確実にするだろう。だからこそ、それの対策をしなければならないのだが、あいにく攻撃系の魔法しか使えない。しかも、銃を通しての一時的なものに限る。


だからこそ、マーリンに聞いてみた。


「それなら、認識阻害の指輪でも渡しておくよ。魔力を少し使うから半永久的に発動するよ。」


「おお!流石、マーリン!」


袖の下に手を通すと、その手にはオニキスの石がはめられた指輪があった。オニキスの意味はトラブルから身を守る魔除けの石。それを認識阻害の魔法と組み合わせることにより乗法効果があるということだ。


「はい、どうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


少しぼんやりと指輪を眺めていた。相変わらずの無表情だが、一瞬嬉しそうな顔をしたのは気のせいだったのだろうか?


「ん?」


マーリンが突然声を上げた。


「あー、はいはい。」


まるで見えない誰かと話してるようなその姿にマーリンの正気を確認するという意味でも聞いた。本気で言ってるわけではなく、冗談半分で本当に誰かと話してるのだろうとは思っていた。だから、あくまで形式的な問題での言葉である。


「気でも狂った?」


「いや、ウィンドから連絡来てね。今日はそっちに行ってくるよ。」


ウィンドは風魔法の使い手だ。

言葉を風に乗せて運ぶぐらいは余裕のようだ。

最もこちらの声を聞くのはまた違った魔法が必要で、あまり使い勝手が良いとは言えない。だが、任務中に関しては最適だ。


聞くところによると他国で『ケータイ』と呼ばれる宝具があるらしい。それは魔力ではなく電力を使用して誰でも他社との会話が可能ならしい。是非とも手に入れたいものだ。

それがあればどれだけ楽になることだろうか。


その後、セエレとイシスと共にギルドへ向かった。


「はい。では、アセトさんはCランクに登録されました。レケさん後はお願いします。」


試験も終わり無事に登録が終わった。

やはりと言うべきなのか、彼女には戦闘はあまり向きそうにない。どちらかと言うと指揮官や職人としての方が活躍出来そうだ。

最低限の魔法は使えるし、魔力探知も上手い為、体さえ鍛えれば暗殺者として使えるかもしれない。

最近の暗殺者は魔法ガンガン使うのでなれて三流だろう。


傷自体は治ってる為、イシスの面倒を看るのは実質一人立ちが出来るまでだ。

この国ではギルドにさえ入っていれば案外どうとでもなる。他国ではカイシャなどという組織に属しているところもあると聞いたことがあるのだが、全ての国は基本鎖国状態なので深くは知らないが、とても窮屈ならしい。


それにしても、一度会ったことのあるニホンから来たサラリーマンとか言う職業に付いた人と話したことがあるのだが、まるで異世界に来たみたいだと騒いでいた。深く聞こうとした時、不運にも悪魔に襲われ死亡した。


そんな懐かしい記憶を思い出していた間、かれこれ4時間近く延々と試験の終わりを待っていたので昼食の時間となっていた。このギルドの居酒屋の方へ行ってみると、


「あ!レケさん!マーリンさんは居ますか!?」


毎度ながら何をしているのか突っ込ませて欲しい。ギルド長のアーデルはメイド服を着て、接客していた。しかも、口下手かつドジっ娘だから笑いの種にされてるレベルだ。


そんなアーデルがイシスの方を見た瞬間、顔を横に近づけてきて、小声で話して来た。


「そちらの方、イシスさんですよね。どうして阻害掛けてるんですか?」


流石はギルドマスター。世界ランキング10位以内の猛者である。ここに居る誰も気付かなかったイシスの存在を一発で見抜いてしまった。


彼女に対して誤魔化しなど通用しないのもわかっているので、障りだけ正直に答えた。


「依頼よ。しかも、ギルマスからのね。」


「そうですか。承知しました。」


一瞬、アーデルの目が静かで冷たくなったと思えばいつもの満面の笑顔に戻っていた。


いつまでも顔を近付けてる訳にもいかない為、アーデルの方から一人分間を空けて改めて話し始めた。


「まぁ、レケさんは私のお気にのメンバーですから無茶は程々にして下さいよー!」


要するに自分らのギルドに危害は加えるなと言う脅し文句なのだろうか。単純に心配してくれてるなら有り難いのだが、状況が状況だけにあまり純粋に言葉を受け取れない。


「わかってるわよ。程々に、ね。」


その言葉を聞くとアーデルは他の客の方へと向かっていった。それを確認次第、空きのテーブルに座り、幾つか料理を頼んだ。


それにしても、イシスはこのような居酒屋の料理が口に合うのだろうか?まぁ、今は昼だから、ランチ系に総替えしてるとはいえ、シェフは基本同じだ。日によってシェフが朝昼晩のどこを担当するのか変わるとはいえ、本業はギルメンの為、本場よりはどうしても味が落ちてるはずだ。


ウィンドに上手い飯を奢ってもらってる為、レケの舌も多少は肥えてるからこそわかる。


さて、今日のランダムランチは……『A級魚人の刺身添えご飯』と『A級ミノタウロス焼飯』と『C級ドラゴンのステーキランチ』

言ってしまえば、海丼と炒飯とステーキランチなのだが、素材のチョイスにツッコミどころが満載だ。しかし、C級ドラゴンのステーキは珍しい。中々狩るの大変だっただろう。

食事の為にAランクが一体何十人駆り出されたことやら…。


ちなみに、イシスは何故か最もアウトそうな魚人に手を出したのだが、スプーンが止まることはなく完食してた。意外と美味しいのだろうか?

無表情である為、わかりづらい。


その後、本当はサボりたかったのだが、イシスに慣れて貰う為に、Cランクの簡単なお仕事を受けた。


『料理宿で料金を払わずに逃げる悪魔の討伐』


そもそも悪魔は人間の食べ物を摂取しても大して栄養にならないのだが、どうやら人間の食べ物が気に入ったらしく、寿命などお構い無しで食べ荒らしてるとのこと。


毎回姿は変えてるらしいのだが、そこまで別人に見えるわけではないので、見付けるのには時間は掛からなかった。


セエレに捕獲させ話してみたが、低能な為共存の話もそもそも理解出来なかったようだ。レケの一言でセエレは首を握り潰し、頭と上半身を乖離させた。


気が付けばもう夕方。

今日は家で食事を作る予定だったので、家に帰ってみるとマーリンはまだ帰っていなかった。

しかし、明日になれば帰ってくるだろうと思い、セエレに料理を作ってもらい、その日は眠りについた。


次の日も今日と似たような日々を過ごしたが、マーリンが帰ってくる気配はなかった。


そして、次の日、流石に不審に思ったレケは直接出向くことにした。


「何!?マーリンが戻ってないだと!?」


当主はとても驚いた顔を見せていた。その素振りから察するに彼も知らないようだ。


「もしや……。」 


その後に続く言葉が途切れたのだが、間違いなく心当たりがあるという顔だ。


「もしや、なんですか?」


「すまない。答えられない。」


申し訳なさそうにするダシング当主に突っかかるようにして声を荒げた。


「どうしてですか!?」


「マーリンとの約束だからだよ。もし、自分に何かあったとしても決して誰にも言わないこと。」


「どうして……。」


次の言葉は自身に問うように口から溢れ落ちた。

答えるものはおらず、静寂が一瞬漂よったが、ダシング当主がそれの代替案を出した。


「代わりにダシング家は少しながら君の共存に手を貸そう。君との交渉次第では全面的な協力も視野に入れよう。」


「ズルいですよ…。こんな時にそんな……。」


その後は声にならず掠れた。


「すまない。」


当主は一言だけ謝罪をした。

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