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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第八話「節制の暗殺者」

ウィンド編1-4「イシス・スタラント」

朝食を取り次第帰る予定となったが、まさかの家族全員出席だった。空席に案内され重々しく座ったところで改めて頭の中でマナーについて反芻してた。そんなレケのおどおどしい姿に対して、ダシング家の当主が口を開いた。


「ありがとう。私の馬鹿息子を助けて頂いた恩は忘れないだろう。」


オールバックにメガネ。厳格そうな見た目通りのぴしっと着こなしたスーツ。暗殺者として名を連ねる者なのか疑問に思う程、真面目そうな人だ。


「いえ、こちらこそ。お招き頂きあり」


「マナーもそうだが敬語も必要ない。家族として迎えよう。それに、失礼をするという意味ではそちらの魔術師かな?フード被ったままで座ってるじゃないか。少しは彼女のように図太い精神を見倣うと言いよ。」


一瞬で、マーリンの性別を見破った。

それだけで驚きだが、意外と豪胆さのある人なのかもしれない。まだ様子見程度にしておくが、共存計画を話しても良いのだろうか?


「ははは、気付いてたのか。それじゃあ、失態に続き妄言吐いちゃおうかな。」


「ほう、どのような妄言を吐くのかな?」


「実は私達は悪魔との共存を目指してましてね。よかったら、その思想に賛同していただけないかななーんてね。」


「ほう……。」


空気の圧が変わった。

流石のウィンドもこれは不味いと思ったのか、フォローを入れようとする。

そんな息子の行動に気付いたのか一閃。


「大丈夫だ。私とて、恩人に傷を付けようなど思わん。大人しく座っておけ。」


プライベートにおいて嘘が嫌いな父の言葉に基本的には偽りはない。仕事ではお互いに騙し合いをする部分もあるし、情報の掴ませ合いとかも当然ある為、プライベートでは嘘を極力付かぬようにするのだ。特に義理堅い父にとって、息子の恩人に牙を向けるわけがないと何故気付かなかったのか不思議なくらいに父から溢れる威圧が強大であった。


「レケよ。私達が暗殺の家系であることは知っているな?その上でそこの女は私に提案をしてきた。何故だ?」


口調も少々厳しめに変わった。そして、言葉の刃を向けたマーリンではなく、敢えてレケへ刺し返した。レケも同じ思想を持っていることは容易に察することが出来た。


また、スタラント家が昔より白髪の者は悪魔の手先として扱い殺してきたのも知ってる。

それとは逆に、ダシング当主は正直の所心から白髪生まれが悪魔の手先だとは思ってない。寧ろ、短命であったり、日に浴びれないという不自由さがあるからこそ保護すべきだとも思ってる。


それなのに、その白髪の少女が共存を望んだ時点で、悪魔と繋がりがあると見られても仕方がない。マーリンが何故このタイミングで、レケにも恐らくは内緒でダシング当主に、ダシング家が全員揃う朝食で持ちかけたのかは不明だが、少なくともこれはレケが交渉すべきことだ。


一瞬の隙間があったものの、考える余裕は与えてはくれないと思ったので自分の考えを率直に伝えた。


「共存した先にも暗殺という仕事は大切であると思います。共存したと仮定しても、その後裏切り者は次々現れるでしょう。その際に、人であろうと悪魔であろうと抹殺出来る機関が欲しいのです。」


「共存を望むと言いながら、なかなか過激なことを言うな。どうしても、私達が必要か?」


当主は私の目を強く見詰める。

体が軋むような威圧に負けぬよう強く答えた。


「はい、必要です。」


フッと笑みを零し、交渉成功した感覚が手元に来た。が、帰ってきた言葉は全く真反対であった。


「私達ダシング家は君には協力出来ないな。」


(なっ……)


手応えは確かにあったのだが、拒否をされた。私自身、暗殺者が必要である理由を言った。それでも拒否をされた。実際、暗殺者は悪魔より人を殺す方が多い。その点においても共存をしてもしなくともあまり関係はないはずだ。


寧ろ、悪魔からも依頼が来るようになり、さらなる繁栄も夢ではない。その上で、ダシング当主は拒否をした。全くわからない。


「何故……ですか?」


信じられないと言った顔の私に対して、ふぅとため息と共に放った言葉は。


「レケ、なぜかは自分で考えるのだ。こればかりは恩では話せないな。さて、少しばかり遅れたが朝食にしよう!」


次々と並ぶ高級料理を前に、味が分からなかった。その謎がどうしても解き明かせず、心ここにあらずであった。同盟を組んでも意味がないからだろうか?組んでも組まなくても状況に大差が無いと踏んだのか、それとも自分達にそれほどの価値が無いと踏んだのか。考えてしまえば幾らでもポロポロと降ってくる。要するに潮時ではなかったということなのだろうか。気付けば、朝食も終わりを迎えていた。食べていたという感覚はなく、その高級料理も今の彼女の前では形無しだ。


それほどまでに思考を何度も繰り返し、長考し続けた。

何故だ?何故?

いくら考えても堂々巡り。答えに至ることはなかった。


レケは帰り支度する為に部屋へと戻ったが、マーリンと当主は未だにその部屋にいた。

他の家族や使用人ももう居ない。


「久しいな。マーリン、何年ぶりだ?」


マーリンはフードを脱いだ。


「さぁ?私達に時間なんてあってないようなものでしょう。」


その言葉には二重の意味が込められていた。

心理的な意味と肉体的な意味。但し、肉体的な意味はマーリンのみ該当される。

意味を汲み取った上で素っ気なく返事した。


「そうだな。」


いつも通りの答えに聞いた時間が無駄だったと内心思いつつも、いつどおりであることに安堵した。


「それにしても、いきなり共存を望むなんて言われて驚嘆したよ。今度の遊びはどうだ?」


彼の中では、未だにマーリンの戯言だと思っている。断った理由の一つもマーリンが関係している。

友人としては、そのマーリンの諦めた想いが微かに漂うのを見逃せなかったのだ。


「いや、今回は大真面目だよ。というより、共存は君が生まれる前から行動していたことだしね。未だその夢は遠し、だね。」


互いが信用してるが故に話はとりとめもない世間話のようには淡々と進む。感情豊かに話すマーリンは身振り手振りをしながら話すのに対して、当主フィルマメントは腰を椅子に預け、目を閉じて話している。その表情は今の瞬間を楽しむかのように少し微笑んでるようにも見えた。


そんな空気から一変。

目を開き、マーリンの方を見た。


「それで見つかったのか?」


内心、勘違いからレケの言葉を安易に拒否したことを悔やみつつも、原因となった理由がどうなったのか知りたくてわかりきってはいてもつい聞いてしまった。


「いや、まだだよ。」


周りからすればなんのことを指してるのかはわからないが、お互いに哀愁を含んでいた。

それだけ、重要なことなのはよく伝わる。


「そうか……。共存の方は手伝う気は無いが、お前が死ねる方法は別で探してみる。」


フィルマメントは立ち上がった。

時間が惜しいと言った感じで早歩きで部屋から出て行った。残ったマーリンはボソリと呟く。


「無駄だよ。フィルマだって知ってるじゃあないか。人形は神に逆らえないってね……。」


風魔法の一番の使い手であるフィルマメントならばこの声も届いたのだろうか?


その言葉には只々悲壮感が漂っていた。


結局のところ、共存について話そうにも当主もその他の皆も散り散りとなって、仕事にとりかかってしまった為、会うことすら叶わなかった。


私としては今日の仕事をやっていけるような気力はごっそり彼方へと消えてる為、サボりたいのだが、マーリンがそれを許してはくれないようだ。


1日休めば腕が鈍るだとか至極真っ当なことを言われると反論が出来ない……。


仕方がなくギルドに行くことにした。


「そういえば、あの子どうしたの?」


レケが思い付いたようにマーリンに聞いてみた。


「?」


しかし、なんのことか分からないようで疑問符を浮かべるように軽く首をひねった。


「ほら、セエレよ。」


「あぁ、今はセリエルという名前ですよ。」


「あぁ、そうだったっけ」


本当に聞きたかったのは別のことなのだが、今の一瞬で忘れてしまった。まぁ、これだけすぐに忘れるのだから大したことではないだろう。


いつも通りギルドに入ると、周りがざわついてる。何か問題でも起きたのだろうか?


すると、今日はギルド長の服を着たアーデルがこっちに歩いてきた。いつものような雰囲気はそこになく、真剣な眼差しだ。


「レケさん。先程、貴方への依頼として西のギルドマスターがやって来ました。貴方の家で待つとのことです。」







「はぁぁぁぁぁぁぁああ!!??」


心の内から叫んだ。

個人的には会いたくもない相手ではあるが、昨日の見逃し以外で彼とあった記憶が無いからこそ、その依頼が怖くて寒気がする。


昨日見逃したから何か依頼を受けろ的なよくあるパターンしか頭の中で浮かばないが、ただ一つわかるのは面倒だと言う事だけだ。


今日はお手頃な簡単な賞金首でも探す振りをして終わらそうと思っていたが、ここにきてまさかのギルドマスターからの依頼。


そして、次に思い出したのがセエレ。

ギルドマスターとて、悪魔ぐらいすぐ判別が付くだろう。最悪、殺され………。


「ありがとう、アーデル。今すぐ向かうわ。」


アーデルも西のギルドマスターに対して良い思い出が無いのか心配そうにしている。


「もし、助けが必要であればいつでも言ってください。この件に関しては、ある程度援助します。」


後背のアーデルに対して軽く手を振り、了解の意を示した。

正面向いて話すほどの余裕は今のレケにはない。折角、手に入れた悪魔の協力者なのだから、有効活用したい。


私は直ぐ様ギルドを出て、自宅と向かった……。

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