表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
7/47

第七話「闇に潜む」

ウィンド編1-3「イシス・スタラント」




この街の地主であり、統治者でもあるハインツ家の長は、レケのことを愛していた。愛されてるレケはその産まれながらの白い髪により悪魔の手先である魔女の生まれ変わりだと昔から信じられていた。実際は只の持病で直射日光に当たることが出来ないという不憫なものだ。にも関わらず、その原因も理由も解明していない故に奇怪な目として見られ、偶然目の敵であった悪魔と誰かが重ねてしまったことが全ての始まりだ。


彼の腹心であるイシス・スタラントは魔女の生まれ変わり説を大々的に推していた。世間から隠していたレケを見つけた途端、殺せと何度も講義をした結果、不安は募り周りも次第に同意見へと染まっていった。それからというもの、やはり子を愛してたと思われるハインツ夫婦は全く姿を見せなくなった。館も執事やメイドも居るのに、姿の見えぬそれにスタラント家の前代当主は黙認していた。確かに喧嘩という枠では収まりきらなくらい深い溝を作ってしまったが、これでも昔は親友だった。今となっては道は2つに分かれてしまった。もう彼と会うことはないのだろう。彼もきっと会ってはくれまい。それでも、私は白髪悪魔説をやめる気はない。寧ろ、親友にそんなことをしてしまったからこそ今更やめることなどできない。無論、罪悪感から説いてる訳ではない。それが正しいと思うからやるのだ。


優しき彼に愛しき我が娘を殺すなんて出来ない。

様々な交渉の末、街から離れた小屋に永久に閉じ込めるという案で可決した。ここまでが市民の知りうる情報。多少は噂により話が大きくなってるかもしれないが、大まかには同じだ。市民もハインツ当主の優しさはよく知っている。だからこそ、ここまで繁栄した。だから、塞がっている今のハインツ当主への不満による反対勢力も2割という驚異的な数字で収められている。そこまで反対勢力が少なかった裏でスタラント家が関与していたのは秘密だ。やはり、絆を完全には断ち切りたくないのが本音だとその行動に如実として表れてる。


しかし、小屋を燃やしたせいで逃亡をしたことが彼の腹心にも伝わった。その後、レケという名のギルドメンバーが加わったというのも聞いた。その彼女がハインツ・レケと全く同じ顔であるのも確認した。これは悪戯な運命の仕業か?


否、今度こそ彼女が悪魔の手先である証拠を見つける為に神が私達に試練を課したのだ。ハインツ家が見つけるより先に必ず悪事を見つけてやると深く心に刻んだ。今度こそ騙されているハインツ当主の目を覚まさせるのだ。それに、仮に伝わったとすれば表舞台にも上がってくるのは間違いない。実際に会って、説得するのも使命だと思っている。友の為、街の為、市民の為にだ。


次の日、レケと共にその男とカフェで待ち合わせをしていた。周囲と見比べて正装という少し浮いた存在というのもあり、直ぐに見つけられた。そのピンとした背筋や横に停めている馬車から溢れる気品さは貴族の召使だと皆に知らしめている。この街の治安の良さもあって、何事もなく会えたのは幸運だ。というより、ギルド前で問題を起こそうとする輩はここには居ない。ギルドの中でも最も自由で最も仲間思いと言われたこのギルド前だからだ。何か問題を起こそうものなら、周辺にいるメンバー達が即座に動くだろう。最近はパトロールも自主的にやってるらしい。


「これはこれは来て下さりありがとうございます。レケとマーリンですね?」


マーリンも昨日会った時から質問したかったことであるのだが、レケも同様に引っ掛かったのか問い掛けた。


「何故、私達の名を?」


これまでも依頼と称して、実は悪魔でしたというのは偶にあった。だからこそ、念の為に聞いてみたのだが、何事もないかのように答えた。


「実は私の務めるスタラント家はダシング家とよく交流があるのです。その際にウィンド家のご子息より、困った時は貴方達を頼るよう仰せつかってます。」


「なるほどね」


確かに、暗殺家業のダシング家は有名な家のところなら大抵は顔見知りだ。皆、心中では殺したい相手がわんさか居るのだろう。

それに対してスタラントは悪魔専用の武具を作る専門の家系だ。しかし、武具を作る家系なら沢山あるので、結果的に副業もやらなくてはならなくなる。そこで副業として選んだのが暗殺専門の武具も作ることであった。


「それで、私達に依頼って?」


お互いに上辺だけの笑みを交わしていたのだが、真剣な顔で仕事モードに切り替えると、相手も真顔となり話し始めた。


「実は先日、イシス様の護衛として就いていたウィンド殿から重要な情報を入手しました。それはイシス様の暗殺計画が立てられているとのことです。」


「へぇ、でも、その程度ならよくある話じゃない。狙われるようなことしてるんだから仕方ないしね。」


「ただ、その暗殺計画の首謀者が西のギルドマスターであるとも聞きました。」


ギルドマスターという言葉を聞き空気が一変した。西のギルドマスターは暗殺に優れている。黒い髪に特徴のない普通の優男顔。身長も165ぐらいであまり目立たない。声量は広く男女どちらでも出せる。

武器はナイフが体のあちこちに仕組まれており、曲芸にも見えるナイフ捌きで敵を仕留めていく。

ただ、彼の魔術は不明。武器もその辺で売ってるようなものなので、上級悪魔相手だとどんな戦い方をするのかも不明。

故に対策のしようがない。


「それで私達に護衛をしろと?」


「いえ、他のAランクを数人呼んでいます。到着するまでの数日、足止めをして頂きたいのです。」


つまり、私達では役に立たないと。しかし、ウィンドにオススメされたからそれなりに役に立つのだろうと期待も込められていると見た方が良いだろう。Cランクだからと私達の実力も見定められないなんて憐れとしか言いようがない。寧ろ、私自らが行くのだから、Sランクの首一つぐらい貰って当然。


「なるほど、わかったわ。んじゃ、報酬の交渉と任務の内容について打ち合わせしましょう。」


案内をするようにギルド内へと誘導する。

イシスは暗殺計画を阻止するまでは地下で暮らすとのこと。当然、スタラント家しか知り得ぬ隠し通路があるとは思われるが、セキュリティ面で考えると、地盤を破壊されない限りは安全だ。相手は暗殺者なので爆薬か遅延魔法による床の崩落をするとは思えないが、一応警戒はされてる。私達二人はそのイシスの部屋近くで数日間、見張るという任務を受け持っている。相手の手がわからない以上、家全体に魔法無効の魔術が掛けるという手段にスタラント家は出てきた。そのため、マーリンも珍しく剣を携えている。魔術的な面の無効という点では相手の得意分野に誘導しているが、潰せるのなら出来るだけ手数は減らしておくのが得策だ。それに暗殺の際に筋力強化を使っているとすればそれすらも消し去ってしまうので、全くの不利益というわけでもない。マーリンの気配阻害やら自身に掛けてる魔法が解けてないところを見るに、抜け道はあり、ギルドマスターならばその抜け道も知っていそうだ。マーリンに聞いたところ、感覚的な問題だからなんとも言えないとのことだ。どちらにしろ、気休めでしかなく、最悪の場合相手は自由に使える可能性もある。この魔術阻害は明らかに味方の防衛を邪魔してるようにしか思えないのだが、イシスきっての命令上、最低限の意見しか言えず、黙るしかない。


「部屋はここをお使い下さい。一日三食分の食事は配給します。では、これにて失礼します。」


部屋に案内されて、とりあえず休憩を挟みたいが、その前にこの地図がどこまで正確かを確かめる為に軽く見廻ることにした。家としては、一軒家の六倍の敷地の広さがあるため、護衛をする為の配置も相当考えられたのだろう。無駄に多くの部屋があるのは護衛をする側としてはキツイ案件である。朝夜と交代制で数人のDランク相当が見張りをしている。抜け道はまだまだ尽きそうにない。


その中でも階段付近にはcランク相当の護衛が指揮官として居て、数時間ごとに人数の確認と身元の確認を何度もやっている為、変装による侵入の危険性はほぼ0だ。しかし、確認後忍び込み、次の確認までに殺ってしまう可能性も考えられる為に、私達が居るのだ。それに先に変装されていては確認しても水の泡。そういう点でマーリンの目が役に立つ。特別な目をもってるわけではなく、単純に魔法が掛かってるか否かの確認だ。自分自身に阻害を掛けてるからこそ、他人の阻害も見破れるというわけだ。正確には魔力がこもっていた場合はクロとして扱う。とはいえ、変装を破れる気はしない。魔力を探知させないように抑えられるとそのまま見逃してしまう可能性は十分に有り得る。だからこそ、よく注意はしてるが今のところ引っかからない。


4階まである故に少々手間取ってしまったが、侵入するなら正面玄関、裏口、窓ぐらいだ。地下への階段はそのどれとも遠く、かなりの人数を掻い潜らなければならない。ペアで見回ってるのもあり、より侵入難易度は高くなっている。だが穴があることにも気づいたのだが、仲良くするつもりは無いらしく、忠告も意見も何も聞き貰えなかった。協力する気が無いその態度には少し不愉快なのだが、仕事である以上我慢するしかない。


それはともかく、地下に行っても間取りそのものは基本変わっておらず、奥には行き止まりとなった通路のみなのだが、その通路が明らかにおかしい。何の為に行き止まりの通路をつくったのだろうか、それを確かめる為に行ってみることにした。こういう情報の違いを先に確かめておかないと後々支障が来されそうだ。


地下へと行き右へと曲がったとき、そこに見慣れない護衛二人が座っていた。明らかに上にいた護衛達とは雰囲気が一味違う。Bランク相当の力の持ち主と思われる。その内の片方と目が合った。


「お前達は護衛として依頼を受けた者達だな?こっちは階段と逆方向だ。それに外へ通じる道もないから、部屋で休むといい。」


地図では何もないが、確かに見えた。

そこに扉がある。

何か隠しておきたいものでもあるのだろうか?

私達は変な面倒事は起こしたくない為、その場は引き下がりとりあえず部屋へと帰った。恐らくまだ問題ないだろう。


「今日はどうする?私達も交代制にする?」


「静かに……」


「?」


唐突のマーリンのその言葉に私は疑問符を浮かべた。


「下から声が聴こえてきますね……。」


「へ!?」


私は地面に這いつくばり耳を宛てた。目を閉じ澄ませていると、確かに微かに唸り声のようなものが聞こえてくる。声的に男なのか獣なのか判別がしづらいが、この声……何処かで聞いたことがある気がする……。ここまで聞きづらいと知り合いの声に聞こえても仕方ないかもしれないが、何となく突っかかるものがあり、気になってしまう。


護衛1日目の深夜、レケは秘密の階段近くにいた。

私を呼び出しておきながら地図には書かれてない更なる地下への階段について何も言わないなんて、あまりにも傲慢だ。

抜け道でもあれば計画にも支障をきたす、私が直接確認しておこう。


「フフフ、深夜に地下へ忍び込むなんてスリルで楽しいわ」


「なるほど、レケはこういうのが好きなんですね」


いきなり後方から声が聞こえてきて何かと思えば、マーリンがそこにいた。暗いがりなので余計にシルエット化してるとはいえ、この声は間違いなく聴き慣れている。とはいえ、私が階段のことを気付き、それの確認をしようとするであろうまでわかっていたマーリンは流石は長年のパートナーであると喜ぶべきなのだろうか。


「それで見張りはどうする気だったんですか?」


「そ、それはこの眠りを誘う魔法で……。」


呆れたような目をマーリンにされたと直感で感じ取った。何故、そう思うかというと、そういった小細工のような魔法が苦手だからである。普段は最低限の攻撃魔法あればやっていけたし、困った時はマーリンに助けて貰っていたので、魔法を覚える気も無かった。とはいえ、努力を怠ってるわけではないので、月一は魔法の勉強はしている。私なら簡単に使いこなせるようになると心底思ってるが故に、今回アダとなった。それにそもそも魔法阻害されてるここでどうやって使用しろと言うのだろうか。半端に発動しても異常を気付かれるだけで、何の役にも立たない。推定Bランク相手では弾かれる可能性も十二分にある。


だが、運がいい。

マーリンが居るのならマーリンに完全な睡眠魔法を唱えてもらえばいいだけの話。私が使うと時間が掛かる上に効果も薄く、本当に眠気を誘うだけだ。それに対して、マーリンは完全に深い眠りに落とす。


「《掠れ逝く現-グレイジッド・リアリティ-》」


何の動作も無く突然発動した。

家中だというのに、霧が立ち込める。

曲がり角の先で見張りをしていた二人は崩れるように眠りへと落ちていった。これこそ完璧な睡眠魔法なのだが、魔力が高い当主やその他数名には効いてない可能性がある。だからこそ、迅速に動かなければならないのだが、それも織り込み済みだ。


「気付かれないようイシス当主の部屋は範囲外になるようにはしましたが、元から寝てる人には効果が薄いし、魔法無効地帯だから効き目も弱そうですね。」


「要するに、確認したらさっさと帰るでしょ?」


「そういうことです。」


眠っているとはいえ足音をなるべく立てぬよう気を付ける中、空気を読まないマーリンが少し恨めしく思いつつも、扉を開けると冷たい風が肌を掠った。より暗く闇が深い。微かに見える階段はあるけれど、扉を閉めれば即座に何も見えなくなるのは間違いない。マーリンが魔法で火を灯し下へと続く階段を降りて行くと、鉄格子の部屋が並んでいる。外の月明かりをどうやってか取り入れてるらしく、火を付けなくともギリギリ見える。まるで牢屋のように壁に鎖が繋がれていて、この場にいてはいけないような恐怖心に包まれる。


しかし、どの牢屋も空だ。あの声は気のせいだったのか?と思ったら、よく見知った顔の者が一番奥の壁に張り付けで鎖に繋がれていた。


「なにしてんの?ウィンド……。」


「いやぁ、君を捕まえるための囮として拷問されててさぁ。困ったよ。」


いつも通り平気な顔をしてるが、体中の傷は凄惨でここの部屋の役割を語っている。それに聞き逃せないことも軽く言ったし、質問をした。


「囮ってどういうこと?」


それ聞いちゃうの?と言った顔で苦笑し、諦めたのか話し始めた。


「実は君が悪魔と繋がってる可能性があると噂があってね。その証拠集めの為の依頼をされたんだけど、共存を望んでいることがわかったと伝えたら突然捕まって意味もない拷問させられて……いやぁ、話し相手が欲しかったよ」


なるほど、大変なわけではなく、とりあえず話し相手が欲しかったと。ウィンド相手には拷問は対して気にするようなことでもなかったようだ。風の微調整で威力を抑えたんだろうか?

しかし、私のことについてバラされてるなら、気になることが一つ出来た。


「ということは、あの悪魔のことは話したの?」


「いや、話してないよ。この情報は渡すには大き過ぎるから、話したら君に危険があるのは間違いないじゃないか。こうして、わざわざ茶番までしたんだから、命までは取らないだろうさ」


「へ!?暗殺者、来ないの!?」


「流れ的にはそうだと思うよ。」


「いや、暗殺者は来るよ。」


闇の中から声が聞こえた。一瞬で冷や汗を欠かせるほどの殺気と共に現れたのは三人のギルドメンバー。緑髪と緑目に筋肉質の男。2つ編みとメガネに口元を隠すような服の女性。あと、金髪のチャラ男っぽい人。


「でなければ、Aランクの俺達は呼ばれまい。大方、お前さんを暗殺者にぶつけて、殺してもらおうとしたんだろうさ。」


「んんー?そこのウィンド坊っちゃんを放さないのかよ?まぁ、どちらにしろ仕事の邪魔だし殺しちゃうけどよ!」


「そうね。不安要素は先に片付けるのが吉ね。私は見逃しても良いのだけれど、二人がこう言うなら仕方ないわね。」


どうやら、高ランカーの三人はやる気のようだ。

説得は無理そうだし、戦うしかないのだろうか?


「とりあえず、ウィンド解放して!」


「そんなこと俺がさせると思ってんのかよ!」


チャラ男っぽい人が携えてたフルーレを抜こうとした瞬間、リーダー格の緑髪が止めた。


「まぁ、待て。俺達はaランクだぞ?3人で2人は卑怯というものだ。手負いであろうが丁度3人で戦えば敵も言い訳できんだろう。」


「アンタがそう言うなら……。」


そのリーダー格の男はこちらを向いて、続けた。


「それとも、3対2で手加減した方が良いのかな?」


こういう場合は挑発に乗ったら死ぬのが、いつものお決まりパターンだが、こっちは全員Cランクとはいえ、只のcランクではないのだ。


あえて、調子に乗るとしよう。



「良いわよ。私達3人であんた達を……」


「ギャアアアアアアアアアアアぁ!!!」


私が最後まで言う前に、上の階から叫び声が聞こえてきた。マーリンは即座にウィンドを助けた。

そして、肝心のウィンドから聞こえたのは衝撃の言葉。


「おい、ヤバイぞ。スタラント全員死亡してる。風で声を盗聴したから間違いない。」


グハッ!


次に緑髪の男が地面に膝を付いた。

腹に刺さってるフルーレを持つは、あのチャラ男であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ