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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第二章「嫉妬のダシング・ウィンド」
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第二十九話「三人の聖なる女騎士」

魔物の間にも生存本能というものは等しく存在する。弱肉強食のこの世界において弱者は集い、強者は孤独を求める。弱者は強者に従うのもまた自然の摂理。この特殊な島の中においてもそれは同一である。竜という強者に従うかのように弱者達はこの島に集った。基本的には種族別での争いが多いが、人間という異種が紛れ込んだことにより、その獣達は警戒をして、魔物同士の干渉を避けるようにときに身を隠しときに侵入者へと襲う。


魔物の生存本能により黒魔狼を倒したウィンド達の魔力の質も少なからずこの森の弱気者達の間では知れ渡っていた。故に、襲ってくる魔物は殆ど居ない。仮に襲ってくるとすればそれは孤高の魔物。


随分奥の方まで来てしまった。もうこの辺には魔物が居ないのだろうか?それともまだ黒魔狼の縄張りに居るのだろうか?とすれば、居ないのも同然。もう少し奥に進みたいのだが、時間的にも念の為一旦戻って、違う道を探した方が安全だろう。夜での戦闘はまだ早いと思うからだ。


「そろそろ戻るか。」


まだ昼頃にも関わらず、帰ろうとする姿勢を見せるウィンドに疑問を持つ。


「何故?今日はまだ敵と戦ってないわ。」


「夜になる前には帰らないとただの黒魔狼といえど、月の力で力を増すからな。最悪の場合今度こそ殺されるぞ。」


「そうね。夜になると力を増すその特徴が黒魔狼の厄介なところね。」


ここで1つ勘違いをしてはいけないのは、悪魔や魔獣の全てが夜となれば月明かりがあれば強化されるわけではない。黒魔狼は闇を纏う狼だ。夜という光無き闇の中でこそ真価を発揮する。光は無ければ無いほど彼等に貢献する。だからこそ、森という薄暗いところを好んで棲息するのだ。


帰ろうと踵を返す二人の背後から巨体の何かが近付いてくる。その足音から推測するに間違いなく、自分達よりは大きいのは察せる。何が来ても良いように振り返り、お互いに剣を抜刀する。


アセトの持つ闇の双剣は黒魔狼によって吸収されることはない。闇属性の剣ではあれど、本質が違う。黒魔狼の闇は暗いだけだ。力に変質させはするものの、純粋な闇であり触れても何も問題ない。だが、双剣に付属された闇の本質は腐食。触れただけでその肌は焼け爛れる。狼が仮にもそれを力に変えようと触れたならば、その腐食の効果を全身に纏うという自殺行為でしかあり得ない。闇の剣で攻撃したからと言って必ずしも闇の魔物に吸収されるとは限らないということだ。


ウィンドは剣を右手に持ち、左手を距離を測るために掌を前に向けて構える。アセトは左手の剣を盾に右手の剣を少し後ろに左足を前に斜めに立っている。少しずつその距離は縮んできてその姿が二人の視界の先に写される。


黒い毛先は燃ゆる炎のように風に靡かせ、その真紅の目は鋭い殺気を内包している。巨大と言う点を除けば、黒魔狼のそれと何ら変わらない。だが、その体中に浮かび上がる真っ赤な紋章は1つの名を脳裏に過ぎらせる。まさか、世界に数匹しか居ないと言われる狼王がこの島にいるとはあまりにも予想外。


「……あれは…"暗き森の黒狼王"……」


「おい!アセト!ぼーっとするな!」


その二人を切り裂こうとせんばかりにその間に向かって狼王が突進する。二人はそれぞれ横へと避けるが、鋼のような皮を使って回転する。それに対して防御するように剣で受けるが、体ごとふっ飛ばされる。ウィンドはその身体能力により上手く受け身を取るが、アセトの方はそこまでの能力はなく、地面を転げる。そんな二人の対応を見て、真っ先に敵になりうる可能性のあるウィンドへと牙を向ける。


その鋭い爪の出した左足を上から振り下ろす。その剣を両手で持ち、なんとか堪えるが、次に右足も振り下ろし攻撃をしてくる。一撃一撃にその巨体の体重が加算されてるのだ。筋肉の塊である為に、実際は目測よりも体重が相当重いはずなのだから、何時までも受けられるような相手ではないことは明白。バックステップを取り、一旦横へと逃げる。森の中に入り木の影へと移動することにより、その巨体ではなかなか入り辛い。木々を薙ぎ倒すことも可能だろうが、そんなことをしていれば決定的な隙が出来るだろうからそこを狙う。


だが、それは知能ある狼王とて考えうる事態であり、今は倒せぬと理解すると共に標的を変える。急転換し、アセトへと突進を開始する。アセトも身体強化の魔法を使っての走りにより森の中に即座に入ろうとするものの、元々の身体能力の低さが仇となり、ゆうに追いつかれてしまう。森の入り口へは封鎖されてしまい、背中をみせれば間違いなく殺られる。仕方なく決死の覚悟と共に双剣を構える。狼王といえど、腐食の効果は逃げられまい。とはいえ、普通の黒魔狼に比べれば耐性があるだろうから、受けようとはせずに避けることを中心とすることを決定する。


先程のウィンドへの攻撃と同じように右足を振り下ろす。それを右にそのまま走るという形で避けるが、その右足は振り下ろされることはなかった。まさかのフェイントを掛けて、逆回転で尾を腹部狙って当ててきた。たかだか尻尾といえど、鋼の皮で出来ているのと何ら変わりはなく、その重量をまともに食らったアセトの意識は食い尽くされ、遙か後方へとふっ飛ばされる。ウィンドの魔法によりなんとか致命傷にはならなかったが、最初の尾の攻撃だけでもう死にかけている。だが、このまま彼女を担いで風魔法で逃げようとしても無駄だろう。狼王の足力ならば即座に追いつけるだろうし、最悪の場合居住区の結界さえも破られかねない。


だが、狼王にはそんなことなど関係ない。

アセトの側で寄り添うウィンド毎吹き飛ばそうと突進をして来た。この狼剣一本で防ぎきれるかはわからないが、何としてもアセトだけでも逃さなければならない。意識不明の重体である彼女が一人で起きて帰れる保証は無いだろう。だが、ここで足止めをしなければどちらにしろ同じこと。魔法を使う余裕はない。だから、受けた瞬間に風魔法連発して少しでもダメージを与えておかなければならない。傷が付けられたなら勝機も多少はできるからだ。それでも、数%の違いだろう。


アセト、俺は君のことを愛してる。愛してるからこそここで限界を超えてみせるよ。


ウィンドの狼剣・風と狼王がぶつかる。接地面に向かって、風の支柱を連発して何とか耐えきれているが、それでも少しずつ圧されている。少しずつ魔力の底が切れ始めてるのがわかる。だが、まだ狼王は嘲笑うかのようにその硬質の毛皮を使って、無傷。お前の攻撃など効かぬと幻聴が聞こえる程だ。いよいよ、魔力も底に付いた瞬間、剣ごと腕が上へと弾き飛ばされる。筋肉が軋みながらも無理やりそこから振り下ろそうとするが、間にあわないし、間に合っても大した意味にはならないのは確実。


もう終わったと目を閉じようとした瞬間、大きな金属同士の音が鳴り響く。


そこに立っているのは二人の華麗なる女戦士。

片方は巨大な盾を持ち、もう片方はツヴァイヘンダーでその攻撃を耐えている。盾のみを持つ女戦士は赤色の長髪に透き通るような水色の瞳。マクシミリアン式の鎧と酷似しているが、胸と肩と肘と膝とを除いて全ての場所から肌が見えるような鎧だ。流石に下着の部分も隠されてはいるが最低限といった感じで少し見えなくもない…。胸を包むその大きさからして、Gカップだ。剣を持った女戦士がこちらを振り向く。金の長髪に水色の瞳。マクシミリアン式の鎧とツヴァイヘンダーを片手で持つ怪力。にも関わらず、その乙女のような端正な顔付きはウィンドも魅了させた。これこそ純粋と言うのだろう。ただ、横の女性と比べると少々胸が無いのが少し悲しい。一応、断崖絶壁というわけではなく、Cはあるのだが鎧の上からだと無いに等しい。


「大丈夫ですか?グナード!治療を頼む!」


「もう始めてますよ。」


気配無く音もなくアセトの治療をし始めたのは盾の戦士より遥かに上のカップ数の持ち主。Iカップなどウィンドは初めて見た。少し目が釘付けになるが、その回復術師はその視線にやんわりと笑みで返した。そこにはまるで母のような優しさがあった。同じく金髪の長髪で二人と比べたら体のふくよかさも身長もダントツでトップだろう。来ている服自体は修道女が着ているものを真っ白にした感じのものだ。協会と関係があるのだろうか?瞳は皆と同じく薄い水色をしていて、顔立ちは赤髪含めて似ている。もしかしたら、親戚なのかもしれない。


「さ~てと、リーベ。このワンコロやっちゃおっか!」


赤髪が盾を押し出すといとも簡単に狼王が後方の木にぶつかるまでふっ飛ばされる。そこをタイミング良く片手でツヴァイヘンダー持つ女戦士が追い掛ける。


「緩やかに振り下ろされる神のその手が。」


すぐに起き上がり、リーベという女戦士と攻防が広げられる中で、突如リーベが魔力を乗せた歌を唄い始める。あまりにもそれは透き通るように耳に入り、不思議と残る。それと共に盾の女性も唱う。


「「待ち侘びた歓声が街中で聞こえる。」」


その盾の女性が消える。気付けば、狼王の懐へと潜り込み空へと高く上げる。すぐ様、その盾を利用し、リーベも狼王の前へと跳躍する。最後にグナードも一緒に詠う。


「「「さぁ、闇を照らそう。太陽は来た。天使の軍勢。」」」


ツヴァイヘンダーが一瞬ぶれると共に狼王中心に空間が歪曲し、そして消える。まるでこの世から無くなったかのように、消滅した。


リーベとその赤い髪の女性がこちらに歩いてきた。何故、協会でたまに聴く『天使の大勢』を歌いながら戦ったのかはわからない。だが、その声に魔力を感じたのだから、一種の強化魔法なのかもしれない。


「そちらの女性の傷も完治したようだし、私達はこれにて失礼する。神の御心のままに。」


「何故、俺達を助けた…?」


「話を聞いていなかったのですか?私達は神に従える身。神は助けられる全ての命は助けよとのこと。ならば、貴方を助けない道理はない。」


「そうよ。私達は神様に言われる通りに行動してるだけ。神に祈りなさい。神は全てを見てるのよ。」


「要は神様の言うこと聞いてりゃ良いんだよ!いっつも正しいんだからよ!」


グナードが思い出したように自己紹介をする。


「私はグナード・マターリーベ。貴方に神のご加護があらんことを。」


「あたしの名前はムーツ・ハーフノン!神のご加護があらんことを!」


「私の名はラインニーべ・コウシュヘイツです。貴方がたに神のご加護があらんことを祈ります。」


「それじゃあ、またね~!」


嵐のように突然現れ、突然立ち去って行った。少なくともわかるのは彼女たちに助けられたということ。アセトは未だに目を覚ます様子はないし、風魔法で空から帰るとしよう。アセトを抱いて帰る途中で自身のことばかりしか考えていなかった事実を反省する。あの選択こそが正しいと思いはしたが、必ずしもパートナーであるアセトも同じ考えに至るわけではないということに初めて気付いた。本来ならもっと早い段階で気付くべきだったのだ。どうすれば、最善を尽くせたのだろうか。どうすれば、最良の一手を指し示すことができたのだろうか。これはチーム戦であって、暗殺業ではない。そこを取り間違えていたようだ。今の俺はプロではない。それを肝に銘じておかなければならないだろう。愛しのアセトを傷付けてしまった。結果的に逃げ出す形を取ってしまった自分が憎くて憎くて堪らない。もし、もう一度傷つけてしまったら自分という存在を保てるだろうか?否、保てるはずもない。今度こそアセトを守り切る。それを強く心に抱く。

「天使の大勢」を歌いながら戦う謎の聖騎士が現れましたね。本編ではウィンドからすれば戦士に見えたので戦士と書いてるだけで、実際は騎士です。

そういえば、「天使の大勢」を歌う方は他にも居ましたね。彼女達の正体とは何でしょうか?

次もお楽しみに~!

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