第二十三話「その笑みの裏」
木製で前はいつ使われたのかわからない程度には外見は朽ちているようにみえたのだが、中に入ってみると案外そういうこともなく、至って綺麗である。廊下に扉が左右に5枚ずつ並ばれており、階段を上がると4階までその間取りが続いてるようだ。
部屋には鍵が挿しっぱなしでプライベートもある程度守られてる。壁を攻撃してみたところ部屋ごとに結界があるらしい。ただ、風魔法で隙間から念話してみたところできたことからも、この家の破壊が不可なだけで、それ以外は関係ないらしい。
折角、一番乗りなのだし、1人1部屋を使うことにした。中にはトイレ、バスルーム、キッチン、リビングと割と広くベッドも2つあったことから本来は5人くらいで使うことを想定されたのでは?と疑問になった。だが、こういうのは早い者勝ちが基本。そんなことは知ったことではない。死にたいなら外で野宿すればいいし、死にたくなかったら、廊下にでも寝ればいい。
到着したのは夕暮れ時だったので、そろそろ食事にしなければならない。最低限、3日分の食事はあるようだ。水道も通っているし、料理も出来そうだ。調味料が無いのが残念ではあるのだが、現地調達出来そうならするしかない。疲れもあり、ウトウトとついソファーの上で熟睡をしてしまった。
目が覚めたときにはもう窓から差し込む光はなく、夜となっていた。確か何処かに電気を付ける場所があったはずだ。と思ってると、テーブルにウィンドが座っていた。
「ひゃぁぁあ!!」
不意打ちに女の子らしい声を上げてしまった。そんな私をニコニコと見守っている。その笑顔もそうだが、部屋の中に入ってることに対して、激怒した。
「なんで入ってるのよ!!!?」
「鍵開いてたから、俺が入って中から閉めるしかなかったってわけ。」
その言葉に恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。眠気に誘われるままにぼんやりとしていたせいで部屋の鍵を閉め忘れるなど言語道断。仮にも自分以外は他人しか居ないこんな場所でやるだなんて、自殺行為にも等しい。正直、声をかけるのも嫌だったがこればかりは仕方ない。
「……ありがとう。」
「どういたしまして!」
「それで!何の用だったの!?」
そう、訪ねたということは何かしらの理由があるはずだ。それの理由を聞くという名目の上で先程の羞恥を消そうとした。それがバレてしまっているのは明白だが、自己満足なので関係ない。
「そうそう、美味しい木の実とか調味料になりそうなものを集めてきたから一緒に親睦会もとい明日の予定について話そうかと思ってね。」
好青年のように見えなくもないが、レケから聞いてる限り寝込みを襲うタイプだそうだ。まぁ、レイプは流石にしなくともそれに近いことはするらしい。だから、あまり信用ならないのだが、少なくとも少しは寝たので彼の前で眠るようなことはない。それに、誰でも良いって訳でもないらしく。年上は苦手だそうだ。あいにく、私は年上だが予防線を張っておいて損はない。気だけは張っておくとしよう。
「食材は持ってきたから、料理作るよ!」
「夜も遅そうだし、私も一緒に作るわ。さっさと終わらせましょう?」
結果、監視をしつつもウィンドの慣れた手つきに驚きつつ、アセトはカートッフェルズッペをウィンドはザウアーブラーテンを作った。どちらもドイツ料理だ。カートッフェルズッペはスッキリした味わいのスープで、馬鈴薯ベースの玉葱や人参などが入ってる。一方、ザウアーブラーテンは牛肉にワインビネガーを漬け込んだもので、今回は結構省力したが、足りないところは採ってきた木の実で埋めた。味だけなら整っている。
ナイフで肉を切ろうとすると沈む。あまりに柔らかすぎてナイフで切るというよりは沈んだという表現の方が正しい。
「こんな短時間でどうやって、ここまで…!」
ウィンドに聞いたわけではなくそう一人ごちた。その呟きに答えるように1つの木の実を出す。
「これが肉を柔らかくさせていた木の実だ。」
そうやって出したのは見た事もない色鮮やかなもので、まんまるで赤く紫の斑点がある。少なくとも市販には無いはずだ。寧ろ、色鮮やかなものほど毒があると聞くからこそ、誰も気づかなかったのかもしれない。少し毒々しさもその見た目にあるのも相乗効果で誰も食べようと思わなかったのだろう。
「他にも色々あるけど、それらの木の実潰したものを用意しておいた。これで、1つ目のオリジナル調味料完成だな。」
200mlの瓶にその調味料がなみなみに入っていた。それは好きなときに使えるように私の部屋に置いてくらしい。
それに対して、私の作ったスープの方はウィンドが絶賛してくれた。嫌いだと思っていたはずなのに緊張もいつの間にか解れていたらしく、少しずつ口数も多くなった。
「それでマーリンったら、私の方を見て………」
「なるほど、それは……」
気付けば、そこそこ話し込んでいて、テーブルのお皿は片付けられていて、一杯の紅茶が置かれていた。こんなに話したのはいつぶりだろう?いや、少なくともスタラント家に居た頃はそんな相手はいなかったし、レケと出会ったときも緊張でそんなに話せなかった。こんなにも夢中になって話したのは本当にウィンドが初めてらしい。集中すると周りが見えなくなる性格とウィンドの風魔法による円滑な会話によってこのような状況に陥ってしまったらしい。ただ、少し盛り上がり過ぎたのか気分が高揚して少し暑い。体も熱く、気持ちがいい。自然と笑みが出てしまうほどにだ。
とはいえ、どうせ明日起きたらまたこの勢いも無くなっていつも通りの静かな私に戻るのだし、一旦落ち着こう。その為の紅茶なのか、喉休めなのか、お腹の為なのかはわからないが、少なくとも彼なりの気遣いというのがわかる。
口に付けてみるとそこまで熱くなくスッと口内に入っていく、最初は甘ったるいかと思えば後味はスーッと無くなっていき、もう一度飲もうと思えた。これも初めて飲む茶葉のようで味わったことがないが、ウィンドのことだから毒が入ってるわけではないだろう。
少し疲れたのかまた眠気が、瞼が重い…ウィンドが居るのだから、先ずは………いや、もう寝てしまおう。誘われる眠気に逆らえず、そのまま落ちる。
そんなアセトを横目でチラッと見て、洗っていた皿を置き、アセトをお姫様抱っこし、ベッドの方へと運ぶ。うつ伏せに寝かせせて、ズボンとパンツを脱がす。
そして…………、朝起きてみると自分はベッドで寝ていた。
いつもは寝起きが悪いのだが、不思議と今日は気持ちのいい起床となった。少しだけ、お尻がチクっとしたが、大した痛みではなかったので気にしないことにした。
ソファーにはウィンドが寝ていて、あの後結局寝てしまったことに気付く、そのままベッドに自分から行けたのか、運ばれたのかはわからないが、あんなに警戒していた相手をまさか泊めてしまうとは、不測の事態だ。
昨夜のように昂揚した気分も今はなく、ウィンドをぞんざいに扱い起こす。
「ウィンド、起きなさい。」
「んっ………イシ…ス?」
「アセトよ。いつまでも寝ぼけないで!」
「あはは、ごめん。」
「それで、何時まで乙女の部屋に居る気よ!早く出ていきなさい!」
「うおお、わかった!わかったから!」
ソファーごとウィンドを突き飛ばす。流石のウィンドも焦るように体制を立て直し、一目散に部屋から出ていった。扉から出ていったのを確認して、息を整え直し、ソファーを元に戻しそこに座る。たかだか、一回部屋に泊めたからといって、これから毎日来られてもプライバシーの問題とかあるし、一緒にいたら気が抜けないし、ストレスはたまるばかりだ。確かに料理は想像以上に美味しかった。そこだけは譲歩しよう。けれど、それ以外はなんにも信用ならないのだ。
コンッコンッ
マーリン達は顔見知りで一応ウィンドに護衛を任せているものの、マーリン達とて一緒に住んでいたわけではない。一夜を過ごす仲のレケに関しては要注意人物として挙げていた。もしかしたら、好意の裏返しかもしれないが、そんなことを今更確かめる方法などないのだから、要注意人物として認識するしかない。
コンッコンッコンッ
さっきから、誰よ!
うるさい!
コンッコンッコンッコンッ
私は何度もノックをしてくる相手を確かめる為にドアの方へと向かった。鍵はまだ開いてるとはいえ、もしかしたら罠かもしれないし、獲物だけは手に持ち、そっと開けるとそこに居たのはウィンドであった。
「何?」
照れ臭そうに頭を掻きながら訪ねた理由を話したのだが、あまりの馬鹿さ加減に呆れた。
「鍵かけるの忘れてたみたいで、もう違う人に占領されちゃってさ………アハハハ。」
「あ、そう、野宿すれば?」
そう言って思い切り扉を閉めるが、そこに手を置かれ無理やり開けられる。頭を下げて頼み込んでくる。
「いや、外とかマジ無理!料理毎日作るし、家事もやるし、なんだってやるからさ!」
「い・や・だ。」
完全に拒否をするが、それでも食い下がってくる。
「ホントにお願い!一生のお願い!」
「イヤ。」
「ほんっと~におねがい!」
「イヤ。」
終いには土下座をしてきた。この男にプライドというものはないのだろうか?そんな彼に呆れ果てながらも、仕方無しに招き入れる。その選択が間違いであったことなど、この先私が知るのは遥か後のこととなる。
どうして、こうなってしまったのだろうか?
どうして、彼女が………。
この章はバトルなしの話もそこそこ多くなるかもですね。バトルシーンないと執筆速度が遅れちゃいました(笑)
早く厨ニ病臭い技名を書かせろぉぉ的な。
次もお楽しみに~!




