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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第三話「標」

レケ編1-3「セエレ」

今でも思い出そうとせずとも直ぐにそれは蘇る。寧ろ、私の記憶と言えばもうそのくらいだ。愛しの君との悲しき別れ。下等な人間等という塵芥共に引きずられ地に落ちた王。元より地属性を得意としてたからと言ってその洒落は無かろう。私にここまで愛され、ここまで執着させつつも棄てた憎き御方でもある。


「嗚呼、あゝ!お久し振りです。」


やっと会えた愛しの君。今、会いに行きます。その鋭い指先で喉を掻っ切って下さいませ。その鋭い皮で私の全身を突き刺して下さいませ。あともう少しで貴方に触れられるのなら、その全てを甘受します。


「地の王よ。」


その名をレケは知らない。学生というわけでなければ、勉学に励むような人間でもない。血と鉄にまみれた生活を送り、そんなものをやる暇などなかったからだ。だから、その名を聞いて、真っ先に反応したのはマーリンである。その名がマーリンにとって、脳裏の奥底から呼び覚まされるくらい重要な言葉であったからだ。その隠された表情の中で視線はレケへと向かっていた。マーリンはマーリンなりに何かを感じ取ったのだろう。しかし、無知であるが故にそれを聞いてもピンとは来ず、その女の正体を冷静に考える。考えた結果の答えがこれだ。


「ねぇ、貴女、もしかして悪魔?」


その女は高らかに笑った。嗤った。微笑い疲れる程に、掠れて声が聞こえなくなる時迄。その眼差しは天を穿き、涙は溝の様に意味は為さなくとも流れ落ちる。その言葉があまりにも可怪しくて可笑しくてつい笑ってしまったのだが、様々な感情が混ざり過ぎて混沌とした笑みと涙へと変換された。


そして、笑いが止まり、笑みだけ残したまま口を開いた。


「地の王。戯れは良して下さい。悪魔に決まってるではないですか。貴女に最も尽くして来たのは私。セエレでありましょう!」


セエレ。26の軍団を所有する序列70位の貴族悪魔。東王アマイモンの配下と言われているが、定かではない。召喚した時には翼の生えた馬に乗って美男子の姿で現れるそうだ。しかし、悪魔に性別は無い故に現在のセエレは美女子の姿をしている。

優しき性格をしてる為、召喚されたらどんな望みも叶えると言われてる。


レケは内心、この悪魔と共存出来る気はしないと思いつつも、上級悪魔よりは比較的交渉の余地がありとみて交渉を持ち掛けた。


「私は人と悪魔の共存を目指してるんだけど良かったら仲間にならない?」


一瞬、セエレの動きが一分の揺れもなく停止した。そして、目を数度瞬いた後に涙は止まりまた開いた。心の中のぐちゃぐちゃの液体とも個体とも言えないそれは真っ白に消えた。そして、それはただ1つの感情へと色が変わる。


「そんなの決まってるありませんか、人間など……」


パパンッ!!


「もういい、黙れ」


明らかに人間を侮蔑すると取れる接続詞を言おうとした時には、懐から銃を出してセエレに向けていた。

セエレの斜め後ろ左右に分かれて銃を撃った。

彼女自身、不意打ちとはいえその軌道は見えていた為、外れるのも理解した上で動かなかったのだ。


「全く、何故こんなにも貴方様は下等生物を好むのやら。理解に苦しみますわ。」


パンッ!


今度はセエレの足と足の隙間だ。

それも当然見えていた故に避けなかった。

そもそも、そんなものでは傷など付けられないという上級悪魔特有の驕りから来たものかもしれない。実際に弾丸など上級悪魔を前にして無意味だ。それは彼女が戦闘型でない悪魔と言うのを視野に入れた上での常時障壁耐圧度である。上級と名のついてるのは中級とは違い常に障壁が張られているというところにもある。何も知識だけではなく力も無ければ上級の仲間入りは出来ない。この低級から上級や貴族などの強さ表はあくまで人の物差しである為に、悪魔の世界ではこの強さ表は何の役にも立たない。だが、悪魔の物差しであっても、セエレは間違いなく上級悪魔となるだろう。


「それにしても、さっきから何をしてますの?どの銃弾も外れてるではありませんか。」


率直な疑問でそこに他の感情はない。単純明快故にこの瞬間だけは人間味すら感じられた。


「貴女の話は聞き飽きたわ。」


パンッ!


最初に撃っておいた3つの銃弾の術式を発動。

《氷の鎖-アイス・チェイン-》

敵を捕らえることに特化した棘付きの氷の鎖だ。

最後の弾丸の《大地の支柱-ガイア・パイル-》は支柱として地面に突き刺す為に先が尖っている。これを頭に穿けば致命傷は与えられるだろう。例え、上級悪魔であろうと1秒も経たない間でのこの術式には対処が出来まい。その認識は正確には間違っている。例え、当たったところで障壁を前にしてはレケの力では貫くことは不可能だ。


その上でその攻撃の全ては空を切った。鎖に絡まれた筈のあの状況から気付けばその3つの鎖は音を立て地へと落ちて、大地の支柱は何も標的がないまま後方へと消えていった。偶然にもここは十字路の間の広場である為、建物にはぶつからずそのまま地面へと落ちてくれるだろう。


「あら、あらあら、あの程度で倒せるとは思いでありませんよね。」


急にセエレが後ろから私の首に腕を纏わりつかせ、耳元で囁いた。しかも、囁くだけに飽き足らず頬擦りまでし始めた。軽くイラッと来た私は至近距離からの銃弾を撃ちこんだ。


パンッ!


私の銃は魔力によって弾丸を生成できる。

弾丸自体は10発入ってる為、普通に扱うことも出来るのだが、秒速750mという反動の強い銃だ。加速を使えば約1kmに到達する。至近距離で撃ったならば、0.01秒も無く対象に当たるはずだ。つまり、レケ視点からすると当たらないはずが無い。そんな反射速度など持ってる悪魔がいる訳が無いという持論だ。齢16年程度ではそんなことが完璧にわかるはずもなく、寧ろ上級悪魔なら大半が避けられるし、効かない。


気付いた時にはもう片方の左頬をスリスリされている。あまりにも速すぎて見えない。そもそもこれは移動しているのだろうか?瞬間的にもう片方に移動してることから何かしらの魔法を使用してると疑うしかない。だが、それを見破れる力もなければ破る力もない。

そんな私の苛立ちを見て肝心のマーリンは表情は見えないがパートナーとしての勘では、ニヤニヤしながら見てるに違いない。


と思ったら詠唱を完了していたようだ。


「《凍て付く鉄処女》発動。」


魔術師にとって無動作で魔法が使えるか、否かで力の差は歴然とされる。マーリンは正体不明の魔術師ではあるものの、簡単な魔法なら指を鳴らすだけで発動することが出来る。敢えて、詠唱するのは慣れておくのと忘れぬようにする為ならしい。詠唱破棄しても威力はレケよりも高めだが、詠唱をすることによってその威力は本来のままに発動される。

《凍て付く鉄処女-フリーズ・メイデン-》は中級の中でも技術面が難しいとされる魔法。故に言霊を乗せるだけで使えるマーリンは師と自称するに値する力の持ち主だ。


《凍て付く鉄処女》は私の使っている《大地の支柱》に近く、《氷の支柱》を隙間なく埋め尽くした術式だ。時間さえ掛ければ《氷の支柱》だけでも可能だろうが、《凍て付く鉄処女》は瞬時に展開し、発動から発射までに1秒と時間を掛けずに可能だ。マーリンならば大差なく同じことを可能であるだろうが、どちらにしても魔力消費量と威力は格段に落ちる。


これを使うのは主に俊足型や飛行型。自分の体を小さくして逃げるタイプに有効だ。何故なら隙間が1mmとして存在しないからだ。

だから、魔術師と呼ばれる者達を除けば実際のところは《氷の支柱》を並べるだけでは完成しない。下手に並べようとしても一本目の位置固定をしつつ、二本目の位置固定をするのは非常に集中せねばならない程に未経験者には難しい作業なのだ。それが無数に存在する時点でその困難さはよくわかる。ましてや、高々中級魔法の詠唱破棄ができる程度の師では実現不可能だ。


しかし、マーリンは何を考えている。

頬ずりをしているということは私が側に居るということ。私も範囲内だぞ!私のことを気に入ってるように見えるとはいえ、この状況から脱出する為に私を捨てる可能性を考慮しなかったのだろうか。現に人に対して侮蔑の言葉を発そうとしていたのは周知の事実。必死に目で訴えるものの相変わらず表情が見えない中でも嬉々としたその声と共に指は鳴らされる。


「発射♥」


マーリンの放った《凍て付く鉄処女》は、容赦無く私達へ降り掛かった。地面除いて360°死角は無い。これも何かの秘策だと信じて突き刺さろうとした時、微かな魔力と共に何時の間にか射程範囲外に私達は居た。《凍て付く鉄処女》は物理的にも魔術的にも破壊されてないことからマーリンが1つの答えに辿り着いた。


「そうか、やはりか。」


頬擦りしてたセエレはそれを止め、その姿勢のままレケの肩に顔を乗せてマーリンを見た。


「あら、気づかれちゃいましたか。」


この中で唯一何のことかわからない私は頭の中でクエスチョンマークを量産してると、その謎めいた表情を堪能したのか、マーリンが話し始めた。


「上級以降の悪魔は等しく召喚時のみ使用可能なスキルを持っている。セエレの場合、書物では移動させる能力と書かれていた。つまり、今までの回避や射程外への移動も全てはセエレの固有スキルというわけだ。」


「なるほど」


レケは大して感心したような素振りは見せずジト目でマーリンを凝視しながら適当な相槌を打った。そんなことの確認の為に私まで巻き添えにしたのか。もし、当たっていたらどうするつもりだったのだ。セエレは頬擦りに飽きたのか、やっとレケから離れた。


「まぁ、及第点としますか。正確には、私の能力は《座標の操作》です。対象は目に見える範囲です。」


セエレがニヤリと笑う瞬間をレケは見逃さなかった。そして、セエレの能力が明らかとなったのもあり、次の行動は容易に推測出来た。


「マーリン!逃げろ!」


必死の形相で1秒でも早く伝える為に簡潔にマーリンへ向かい叫んだ。


「もう遅いのです。貴方を私が操作できる端まで飛ばしてあげますわ!」


目を見開き口を大きく開けて笑った。

実際、レケではセエレに傷を付けることすら不可能なのは目に見えてる。邪魔をされる余地は無い。だから、勝利を確信し高らかに笑う。

レケを地の王と呼び、その地の王を慕う彼女にとって、マーリンという存在は邪魔者でしか無かった。偶然、レケと出会えたとはいえ、人払いの術式を発動してるのも邪魔な人間が視界に映ることを心から嫌がったからこそである。邪魔者が消えて清々しい気分だ。


「何かしたのかな?」


そう、セエレが笑い始めたときからマーリンは消えてなど無かった。ましてや、座標を操作されたようには見えないし、操作されてマーリンが帰ってきたわけでも無さそうだ。

では、何故マーリンはそこに立ち、セエレは笑っているのか。


セエレはその声を聞いた途端、眼をぎょろりとマーリンへ向けた。首を傾げマーリンを凝視している。


「何故?何故?…何故、貴方はここに居るのです?」


表情は見えないが、きっとあの暗闇の奥で小馬鹿にしてると思われる。マーリンは惚けた。


「何故って言われてもなぁ。突然笑い出すから、驚いたよ。」


どこからどう見ても白々しいが、セエレの顔からは汗が伝う。

恐らくは今も座標の操作を何度もしてるのだろう。その上で移動をしないマーリンに対して焦ってる。恐怖すら覚える。障壁など有無を言わせず発動出来るこの能力は最強と信じて疑わなかった。だが、破られた。しかも、理解の範疇を大きく超えている形でだ。

そのわざとらしい惚けた姿もまるで、この能力に弱点があると言いたげだ。寧ろ、気付かないことに対して馬鹿にしてるようにすら見える。


「どうして……どうして?どうして?どうして、なのよ!!」


「君のその能力は目に映すことによって、相手の存在を認識し、そこで初めて発動出来るだけで、座標に立つ私をそのまま移動は出来ないってことだよ。ほら、私は全身隠してるだろう?」


確かにマーリンの上着は全身を覆っている。しかも、それだけでは無いはずだ。顔を魔法で隠してる時点で存在の認識を阻害する術式を常時発動してるに違いない。


セエレは突然消え、マーリンの目の前に移動した。


「それならば、貴方のフード取ればいいだけよ」


地面に足が付いたと同時に《氷の支柱》が地面から生えた。流石に気付いたセエレはまた私の横に移動してる。


マーリンの使用した術式は恐らくは地雷だろう。

足と地面が触れた瞬間が発動条件。

発動した《氷の支柱》が如何にも生えたように見えたのはそれが理由。逃げたのはその氷の支柱が明らかに通常と比べ凝縮率が上であった為に逃げたのだが、それは正しい選択だ。セエレの障壁ならば間違いなく貫通していた。


「残念だ。私の周りには余す所なく地雷魔法が埋め込まれてる。私のフードは取れんよ。」


「ならば、地面を踏まなければいいだけの話よ!」


パリンっと時空が割れ、セエレの横から翼の生えた馬が現れた。

流石のマーリンも増援は予測してなかった。

いや、予測しようと思えば出来たが、ここまで自ら墓穴を掘ってくれるなんて思っていなかった。


「ありがとう。その馬が邪魔だったんだ。」


セエレは理解できないと言った顔で首を左右に傾げた。レケもマーリンの意図がさっぱり読めない。

狂人ではあるセエレはマーリンが余りにも追い詰められて狂ったのかと思いながらも、別の考えが大半を占めていた。

もしかして、この状況を打破する方法が何かあるのか?と。

そして、その可能性を捨て切れないために、突撃をすることにした。


その考えなどマーリンの前では裸同然の様に見ぬかれていた。


「遅い。《掠れ逝く現-グレイジッド・リアリティ-》」


途端に太陽の輝きが遮断され、気付けば周りは濃霧に犯されていた。光はあれど夜のような暗さがこの広場の全てを包み込んだ。

空より飛び掛ってきた馬はマーリンの鼻先で消滅した。


そんな有り得ない状況を前に信じられず無意識に呟いた。


「消えた……?」

何となくキャラ紹介。


フェアツェルト

約2mもある高身長。

人間と同じくらいの頭に大きな一つ目。

銀色の目をしている。

体つきは細く、首周りや肩から胸辺りまで尖った体毛で覆われている。

腰からはふさふさの毛が生えている。

股間は男の象徴のアレはなく、何から何を守るのか硬い甲殻で覆われてる。


レケ(昔)

160cmぐらいの低身長。

白い髪のロングで、肌も透き通るように白いドイツ人。

瞳はフェアツェルトと同一で銀色。

髪に限らず全ての毛は白だ。

服は領主の家より持ちだされたものばかりで、

どれも高級な服だ。

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