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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第零話「貪欲な少女」

フェアツェルト編1-3「レケ」

豪邸な庭から玄関に入り、少女が燥いでる。


「御母様!庭にかわいらしい蝶が居たの!ほらほら!」


まだ幼い頃のレケが母に向かって、羽を持ち蝶を離そうとしないその様子からも相当気に入ってるのがわかる。そんなレケに対して生物の大切さを教える。


「レケ。生きる者は全て尊いの突然知らない誰かに捕まえられるとレケはどう思う?」


「怖い……怖いよぉ!」


知らない人が自分を捕まえて連れ去ろうとする瞬間を想像して、本当に体験したかのように涙目で恐怖を訴える。その様子から反省したと汲み取り、話を終わらせる。


「でしょう?蝶々さんもそうなの。だから、放して来てあげなさい。」


レケの頭を撫でながら諭す。優しそうなその笑顔がレケを次第に笑顔にする。


「はぁーい!」


その蝶を持ったまま外へ走り出して行った。その元気な背中を見つつ、用事を済ませる為に奥へと帰って行った。


       ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


父母がハインツ家の会議室でスタラント家などのこの街における役員貴族達と話し合いをしている。最近は悪魔の活性化も目立ってきている。特に、東の魔王アマイモンの方向は混沌としている。もしかしたら、魔王の世代交代が数百年ぶりに起こってるのかもしれない。少なくともこちらからすれば、災害のようなものであり、それの対処に追われる日々だ。


今日はそれについての議論が数時間続いていた。

東方面に防御壁用の兵を敷くや勇者的存在に殲滅しに行かせるなど、内容は多岐に渡って複数提案されるものの、その殆どが夢物語や他に問題のあることばかりで、現在は1つも残っていない。


当然、レケがその場にいるはずも無く、メイドと遊んでいる筈だったのだが、ひょっこりとその会議室の扉を開き、現れた。それを見た母が急いで、レケを退出させる。しかし、スタラント家当主は見てしまった。レケの髪の白さは悪魔の子供の象徴であり、忌み嫌われた存在であるからだ。


実際には悪魔の子供を見たことが無いために時々産まれる白い髪に対して、悪魔の子供と呼ばれるようになった。陽の下に出られないという理由もあり、余計にそう言われるようになった。レケも庭の屋根があるところまでしか自由に歩けないし、外出時は肌を絶対に見えぬようにぶかぶかのフードを被ったりしなければならないのだ。


スタラント家当主はハインツ家当主に向かって睨みつける。当然、他の貴族達もざわつき始めた。


「ハインツよ。今のはどういうことだ?」


そんなスタラントの形相を見つめて尚、平静を保つ。何の迷いもなく発言する。


「スタラントの公表してる白髪悪魔説は私は信じていない。それだけのことだ。根拠のない根も葉もない都市伝説さ。」


「自分の子が悪魔だったから、突然否定し始めたように聞こえるのだが?」


「タイミングの問題さ。とにかく、私はそれは間違ってると思ってる。」


そう言って、周囲を見るが誰も目を合わせようとしない。ハインツ家とスタラント家のどちらに味方をすれば良いのか迷ってるのもあるし、根拠はなくとも白髪に恐怖を抱いてるのも確か。そんな名家の当主達を逆に利用し、スタラントは言葉を続ける。


「どうやら、ハインツ。お前に同意する者は居ないようだぞ?」


「………。」


「とはいえ、私とお前の仲だ。ハインツ家の今までの功績から考えて、処刑は止めよう。その代わりにその子供だけは街から出ていって貰おう。当然、会うのは駄目だ。」


その言葉に当主達はハインツの方を一斉に見つめる。皆が決断を待っている。怠惰による行為ではあるが、その姿勢は明らかにスタラント家を支援するものだった。スタラントの出した提案は正に全ての当主が落とし所と思わせるもので、確実な同意をさせるものだった。


皆の視線が痛い中でハインツは目を瞑る。動揺は見られないが、子と今の立場とを天秤にかけているのだ。今の立場を捨ててしまえば、レケどころか妻の命さえ危ういため答えはもう決まってるのだが、敢えて悩んでいる。意外と親ばかだったと気付いたのは正に今であった。スタラントは勝ちを確信する。これで貸しを1つ作ることができる。これは非常に大きな貸しだ。


「わかった。その提案を受けよう。」


扉の外で話を聞いていた母が涙を流していたのをレケは記憶に刻みつけた。只、その話の内容までは聞いておらず、何故涙を流すのかそのときは気付かなかった。


       ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


私の為と言って父が私を街から離れた一軒家へと連れて来た。母が暫くの間一緒に過ごすらしいが、ある程度慣れたら一人で暮らすらしい。父の持ち物らしく、本が沢山置かれているので、暇にはならなさそうだ。そんな生活もいざ、母が次の日居なくなると悲しくなるものだ。あまり実感は沸かないけれども、居なくなったことを考えると涙が出てきてしまう。そんな姿を母が見るといつも「ごめんね。」と連呼して一緒に涙する。同じことを共感できたみたいで嬉しい。だから、泣いてる母は大好きだ。


母が居なくなってから、一週間くらい経った頃になると、突然使用人の一人がやって来た。母が帰ってこないらしく、ここに居座ってるのだと思ったらしい。久し振りに人と出会ったことが嬉しくて、あんまり聞いてなかったけど、暫くは暇潰しになりそうだ。


その使用人が居なくなってから数日後、父がやってきた。しかも、剣を装備している。私を見ると安堵し抱きしめてきた。それを私は抱き返す。涙して、「よかった。」と連呼している。どうしたのだろう?

突然動かなくなった。ぎゅっと抱きしめ続けていて少し痛いけど、無理矢理にでも逃げた。やっぱり、父も優しくて好きだ。


更に暫く経ったある日、私は悪魔の書を見つける。

意味はわからなくとも、それに書いてあることをなんとなくしてみた。血で魔法陣を描き、臓物を捧げ、召喚したのは少し弱っている魔王だった。


「ボクの名はフェアツェルト。君の望みを3つ聞こう。」


ツルンとした卵のような頭に大きな一つ目、割れているかのような歯が生えてるのではなく、そのまま白い陶器のような肌からギザギザの歯が生えている。首を囲むように上へと突き出す針のようなものが幾重にも並んでおり、骨のような腕と脚、腰には硬い針金の毛が腰を巻くような形で生えている。


まだ幼い少女が自分を召喚したことに驚いたが、所詮は幼子。願う内容も大したことないだろう。魔力の少なく供物の調達が出来ないような彼女は一体どうやって召喚したのだろう?


「もっと賢くなりたい。」


真っ先に出た言葉がそれだった。年相当の何とも言えない内容に少し微笑を浮かべたかったが、大量の供物が契約という形でフェアツェルトを縛っているので、動かすことは出来ず忠実に願いを叶える。


10年分の知識や能力を授けた。ただ、その10年というのは彼女が召喚する前から召喚しなかった場合の話である。大抵の人間は怠惰ゆえの召喚をする為に、その十年は大したものではなく、賢者になるつもりで言っても、今と大差ないも言うことが多い。だからこそ、まだ幼い彼女の考える10年とは、子供で居る間に収まるだろうと高を括っていた。


それは大きな間違いと気付いたのは次の願いである。


「2つ目の願いは、人ならざるものが必然的に持つ固有スキル。それを私にも頂戴。」


最初に驚いたのは悪魔ではなく人ならざるものと例えたところにある。つまり、悪魔だけでなく天使や堕天使なども含めたということだ。悪魔も原点に帰るなら天使である。成り立ちを説明するならば、神の意思に背いて、地上へと降り立った天使は神の加護が無いせいで地上の闇に侵され、堕天使となる。その堕天使が一定の基準や条件を満たすと悪魔となる。


天使は神によって必ず固有スキルを渡されるが、悪魔になってもその固有スキルは変動しない。言ってしまえば、その固有スキルこそがその者の存在証明であり、本体のようなもの。魂とは違って概念的な意味である為に、仮に無くしてしまえばその者は誰にも気付かれず誰にも接触出来ない概念的存在になってしまうと言われている。


そんな固有スキルを欲しがる彼女はあまりにも異常に高みへと手を伸ばしていた。彼女にとっての10年とは不眠不休の食事無しで計算されたのでが為に、その間ずっと様々な努力をした。それは普通ならば気が狂う所業。それを耐えきって、10年どころか20年近い経験を一瞬で手に入れた彼女は白い髪の通り悪魔の子と言っても過言ではない。


しかし、契約は契約だ。彼女の望み通りに魔王の力を持ってして固有スキルを与えた。これにより、彼女は人ならざるものだけが持つ魂へと変質した。もう人ではなくなったのだ。特定の条件のどれかを満たせば、天使にも悪魔にも中途半端な堕天使にもなり得る特殊な存在へと昇華した。人間をやめたという意味で言えば堕落とも言えるかもしれない。


「3つ目は、フェアツェルト私の言うことは絶対的に従いなさい。」


支離滅裂な願いであった。それは最早命令で願いなどではない。契約など破棄だ。仮にも魔王。しかも、現魔王の中では魔力だけなら最強の座にいるのだ。破棄など容易い。


共存という目標を掲げている以上彼女の存在は目障りでしかなかった。殺すのは忍びないが、必要悪だ。ここで裁かなければ災厄を齎さんとするだろう。


破棄をしようとした瞬間、


「何もしないでじっと待ってて。」


命令されることにより破棄を止めた。

汗が流れるくらい力を込めているのに全く動かない。これは彼女の固有スキルなのか?それとも、この契約に10年の知識を使って細工をしたのか?何はともあれ召喚されたときから彼女はイレギュラーな存在だった。


「フェアツェルトは絶対に叶えたい夢とかあるの?」


妖艶な笑みと共に命令という名の質問をしてくる。あまり興味なさそうにしてるからこそ、何故聞いたという疑問をするものの、何もしないことが命令なので顔には出さない。


「人と悪魔の共存です。」


「へぇ~、なんてつまんないの。悪魔ジョークにしてはもっとマシなの言って頂戴。フフフ。」


表情が変わらないところから、形式上の笑いであって心から笑ってるわけではないようだ。姿は変わらなくとも、先程の無邪気な笑顔はもう見られないらしい。本当に悪魔憑きにでもあったのか、疑ってしまう。だが、フェアツェルトを差し置いて悪魔憑きなど、できる者などいない。


「フェアツェルトの優先順位の中で私という存在を最優先にしておいて。私のことは一目惚れ。私のことが大好きで、愛しく、何よりも守りたい。ずぅと一緒に居たいそんな関係を望むような……ね。」


それを聞いた瞬間少しずつ彼女のことが愛しく感じてしまうようになる。それは偽物だからこそ、フェアツェルトは理性で押さえ込む。そんなフェアツェルトを嘲笑うかのように最後の命令をする。


「ここから少し離れたところに貴方だけが転移して、記憶を無くし契約を確認出来ない状態で明日の朝、偶然を装って私に出会いなさい。」


出逢いは無かったことになり次に出逢ったときこそが、フェアツェルトにとっての最初の出会いであり、レケのことを好きになる瞬間でもある。何の為の茶番なのだろうか?もしかしたら、レケは寂しかったのかもしれない。


故に蝶を殺した。その体は永遠と自分の物となるように。


故に母を殺した。その涙を見たいがために。


故に父を殺した。死ぬ瞬間に私のことを一番に想ってくれるから。


私はもう寂しくない。


けれど、2度目のフェアツェルトと出会うとまた寂寥感が湧いてしまうのだろう。

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