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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第十六話「恐怖の正体」

セエレ編1-5「アザゼル」

その者を例えるなら、『闇の塊』『歩く恐怖』『悪魔』などだろう。悪魔に対して悪魔と例えるのはどうかと思うが、そう例えてしまうほどそういう雰囲気と風貌を醸し出してる。自らそれを作るわけでなく、その者の素質がそうさせているのだ。もしくは、英雄的カリスマがそう見せているのか…。


魔王という2つ名は伊達や酔狂などではなく、本人もそれに相応しい存在であろうとし、堂々と闊歩する。


「現実は小説より奇なり。」


魔法により生み出された分厚い殻を剣で切り落とした直後、何の脈絡もなく呟いた。なんてことのない言葉もアザゼルが囁やけば、それは何かへと変質してしまう。本人は別段そういう気は無くとも周りはそう見えてしまうのだ。故に、それと同時に空気も少し緊張が走る。


「過去の伝説マーリンと現在(イマ)の伝説グランニャーノの二人が相見えたのだ。世の中とは奇妙なものよ。」


その伝説とは魔術師という意味だ。

マーリンも数百年前に存在した伝説の魔術師。様々な基本魔術の全てを暗記し、使用が可能となり、その応用にまで手が届いた魔術師。当時は、それぞれの属性の始祖達が生み出した魔術こそが至高でそれに手を加えようなどすれば反逆罪にすらなりかねなかった。何故ならどんな魔術師も成功しなかったからだ。マーリンはそんな始祖魔術を改良し、最効率を見直し、強化に至ってしまったのだ。後に彼を最高魔術師として、アーサー王の教育係となったのはまた別の話だ。


「どうした。だんまりか。」


何も喋らないのではない、何も喋れないのだ。

口を動かす時間の全てを思念伝達による会話に割いて、次の一手を話し合っている。


(当てた攻撃の種類と属性は?)


(火、水、氷、大地、雷、風、木、金、光、闇の支柱だね。圧縮したから弱すぎたというのは少し違うと思うし、障壁に衝突した形跡は無し。参ったよ。)


(魔法無しの物理は?)


(それは確かにまだ試してなかったね。)


「作戦会議は終わったのか?」


思念伝達をしていたのは流石に気づかれてしまったようだ。気付いたのなら盗聴をされた可能性があるが、様子を見るにその内容は聞いてないらしい。そんな姑息な真似などせずとも勝てるという意思表明だろうか?


いざ、物理攻撃をしようにも、お互いに魔術師である為に物理自体はあまり自身がない。禁断武具魔法(聖槍や氷剣etc……)による攻撃は確かにするし、それが出来る程度の筋力は鍛えてるつもりだが、自動肉体強化をお互いに行ってる故に魔法なしとなると難しい。肉体強化なら、魔法に入らないかもしれないが、念には念を入れておきたい。


「《煌き穿つ聖槍》《閉ざされた氷殻》」


「…………(《冱て乖く氷剣》《閉ざされた氷殻》)


お互いに片手には武器、タイミングを合わせ閉ざされた氷殻を織り込みながら発動する。片方半分はマーリン、もう片方はグランニャーノが解除権を得る。そうして、視界を塞いでから二人共アザゼルの正面に向かい、背中側に居るグランニャーノが最初に殻を解除する。

光が訪れた方へと振り向くと、真っ先にその手に持つ雷剣を破壊しに行く。所詮はタダの魔剣で、禁断魔法により召喚された神剣には届かず、耐久値の差で折れる。それを目撃すると共に無効化するのはあくまで体のみで、剣には関係ないということがわかった。


2本目の剣を抜くと共に氷剣とまたもや衝突するが、今度は炎剣。衝突する瞬間に僅かに剣をずらすことにより、折れるのを阻止するという高度テクニックで軽く捌く。炎剣は上に氷剣は捌かれることにより勢いのまま地面に減り込むものの、即座に手を離し、剣を操作し改めて下から上の剣を弾こうと振る。


その一連の動作を行っている間に、機会を伺ってたマーリンが殻を解除し、後ろから炎剣を突こうとするもののもう片方の手で鞘から新たな剣を抜き、その槍を受け流す。光と相対的な闇の剣により、光を喰らう。しかし、光が闇を除する方が速く焼け石に水だ。あくまで直接当たらず、壊れないように下から切り上げ、刃の部分が当たる瞬間に斜めにずらしつつ威力を軽減する。そのせいで刃の部分が幾らか削り取られるが、壊れていないので問題ない。


両手が塞がった今こそ好機。

マーリンがもう片方の手で横腹に拳を放つ。当たった瞬間に鎧の硬さに少し涙が出かけたが、少なくとも攻撃なのにも関わらず当たったのは間違いない。何の魔法も使っていない故に、それが攻撃としては何の効力もないとはいえこれは大きな一歩だ。


その拳が当たったのを見て、アザゼルはそのぼんやりと光るその眼で凝視をしてくる。それと共に少し強めに剣を打ってくる。それこそが今度はグランニャーノの好機へと移る。ならば、今度は魔法の間接的に掛かった物理ならば?というものだ。とはいえ、マーリンよりも更に細い腕をしたこの体で思い切り殴るというのも億劫だから、ここはその隠された体を見るとしようと思い。


思い切り捲りあげる。それも清々しい程にその眼に期待を込めて、キラキラとしつつ魔術師として隠された真実を暴くのが楽しいと言わんばかりに。その瞬間は見た目と合さって可愛らしい少女に見えたのだが、相変わらず無表情はそのままだ。目だけが輝いてるというのも初見からすれば、いつもと変わらないようにしか見えない点がなんとも残念だ。


只、その行動こそがマーリンすらも予想打にしてなかった一手であることに気づくのはその後僅か数秒後だ。


即座にその捲くられたフードを戻し、その両手に持つ剣をグランニャーノに殺到した。マーリンは即座に対応し、アザゼルへと攻撃する。それがすりぬけるのはわかりきってるので、その先にあるであろう剣を破壊する。実際はそんなことせずともグランニャーノが2本目の氷剣で防いでいたのだが、助けられたのもまた確か、思念伝達とバックステップが可能となった。


(フードの中身見た?)


(普通の鎧と大量の腕輪でしたね。腕だけ腕輪で鎧の一部がもぎ取られてるのは明らかに不自然。おそらくはその腕輪が鍵ですね。)


(風魔法使うから壊して…。)


(オーケーオーケー♪)


アザゼルの顔が髑髏なので表情がないせいか、動揺は見られないが、先程の攻撃は天才である二人でなくとも明らかであろう。もしかすると、物理攻撃を仕掛ける相手が今まで居なかったのだろうか?とすれば、随分甘い敵と数百年の月日の中で戦って来たのだな。間違いなく自分達相手なら殺してる。今と違って経験を積んでる途中だろうし、今より油断やミスも多かっただろうしな。それか、部下が多くて近付けなかったという可能性も無くはなさそうだ。


只、二人共勘違いをしているが、物理攻撃が効くわけではなくマーリンのあの攻撃を攻撃と認識しなかったほどに攻撃力が低かったのだ。所詮は魔術師の一撃。どれだけ長生きしてもそこは一緒。肉体改造でも施さない限りだ。特にマーリンのように女であるなら余計にだ。


よって、アザゼルはマーリンの攻撃は全てにおいて無力というのを知った。それはつまり、標的はグランニャーノ1人ということを確認したのに同意義を持つ。


そして、それは二人の計画通りでもあると言える。

実際に標的の変更をした瞬間にマーリンが魔法陣をこっそり光で描き、準備をする。重ねて書くところから1つの魔法ではなく、何種類者の魔法だと思われる。そんなマーリンの邪魔をさせないべく、グランニャーノが初めて声を出して詠唱する。


「《切り解く風殻-カッターウィンドシェル-》」


普段声を出さないのがよくわかる。可愛くも声が少し掠れてる。元が透き通るような声である為にそこまで聴き取りづらくはない。


風がアザゼルの周りを物凄い速さで半円球に殻のように周りに纏う。その速さは触れた瞬間に間違いなく鎧を切り刻む。肌が触れたなら液状化する程に鋭い。故にそれは攻撃対象となる為に、アザゼルが自らそれに触れて無効化にする前にマーリンが動く。

既に、アザゼルの鎧はマーリンから見えている。その鎧の真横に向けて、先程よりも超圧縮した杭を左右バラバラに放つ。


「全発射!行けぇぇー!!」


魔法陣書いてるから、言う必要など無いのだがその時のノリだ。

マーリンは直接なら当たると予想しての攻撃だ。これが当たらなかったら万事休すといういきあたりばったりな行動だが、それ以外攻略法を思いつかない。まぁ、最悪の場合封印を二人で掛ければ何とかなるだろう。それも効かなかったらその時考えることにしよう。


杭が次々と腕輪に刺さる。しかし、外れだった杭は刺さった順番に打ち消される。もう駄目かと思った瞬間に2つの腕輪が壊れ、消える。

つまり、その2つの腕輪は何かしらの属性というのはわかる。何故なら、無効にならなかった時点でその腕輪にそれぞれの属性が備わっているというのは間違いない。そう断定した。


それは当然本人も確認済で、なかなかその風の殻から一歩を踏み出せない。その行動こそも更に裏付けるものとなったが、そんなことなどこっちからすれば知ったことではない。


「……圧縮。」


殻が突然急速に圧縮され、半円が中心をもとに収束する。アザゼルと触れた瞬間にその風の魔法が打ち消されたことにより、前後からの弾幕戦が始まる。


「……《火の杭》《水の杭》《大地の杭》《雷の杭》《木の杭》《金の杭》《光の杭》《闇の杭》」


「発射!発射!発射~♪」


マーリンは最初から魔法陣が書かれてるのもあり少しペースが速い。それに対して、打つたびに無効化にしなかったのを覚え2周目からは2種類の魔法のみを打ち始める。そんな状況をアザゼルが大人しくしてる筈もなく、剣を両手に持ち、真っ先に数の少なく無駄打ちのしないグランニャーノへ突進をする。


こちらに向かってきたのを確認して、使用魔法を防御へと変更する。


「…………(《連奏・多重氷結障壁》《連奏・多重氷結障壁》《連奏・多重氷結障壁》)」


突然無口になったことにより、何かしらの氷魔法を発動したのは確信した。何の変化もないことから障壁というのを予測と共に、氷に対する最適混合魔法を発動する。


《炎の杭》+《雷の杭》=《火雷神の双槍-ファラクチュラ・ツイナー-》


8条の《火雷神の双槍》を展開し同時に8槍打ち出し、障壁を次々に破壊する。最初の2槍が障壁を《連奏・多重氷結障壁》を破壊すると共に横に走っていく。当たる寸前に横にロールしつつ、確実に1つずつ避けていく。代わりに後ろの建物が壊れていて二次災害が凄まじいのだが、今、二人にはそんなことを気にしてる魔力はない。


マーリンも流石に必要な属性を理解したので、魔法陣を一部消すことにより、効率的に魔法を打ち出す。明らかに鎧の損傷が見え始め、とうとうアザゼルが膝を突く。それを待ってたかのように、逃げから転じて自身の得意な魔法を放つ。


《冱て乖く氷剣》


それがきっかけとなり腕輪毎、腕を根本からもがれる。それと共にトドメをマーリンが《煌き穿つ聖槍》で心臓を穿つ。決定打となり、アザゼルの頭がガクンと力が抜け、そこにあるのは魔王だった物。微塵も恐怖など感じられないが、念の為に腕にある全ての腕輪を破壊する。


二人掛かりでも強敵であったアザゼルは間違いなくこの街に来た三人の中で最も強かった。攻略さえわかれば簡単とはいえ、相当の魔力を使ってしまった。もう一人魔王相手するのは少々難しいし、禁断魔法があと数発使える程度しか残っていない。マーリンに関してはそれに何回かは上乗せされるとはいえ、マーリンも連続発射にかなり使われている。マーリンもその消費量は予想外だったようだ。そもそも、効率的に使おうと自体、途中から楽しさのあまりに忘れてたのは後の祭りだ。


突然、アザゼルが直立した体がそのままの状態で起き上がる。明らかに異常と見えてわかる。体中から黒い炎が吹き出ると共にその異変は危険へと変化する。


体が膨張し、背中の左右から7対7で顔が浮き出て、本来あった顔は潰れて蛇の顔が飛び出る。腕と足とその真ん中からも長い蛇の胴体が出現し、最終的に5メートルもある怪物へと変化する。


「キサキサ」「貴様等」kisamara」「ユユユゆる」「sun」「ぞぉぉぉ「ォォォォ」「ハハハハハ」「シネシネシネ」「oooooo」!!!!」


背中にある顔が突然吐血し、目をぐりんと昇天する。その口から巨大な黒い翼が6枚生える。そして、蛇の頭に黒い輪が浮かび上がり、消え去っていた恐怖の威圧は人をゆうに殺す。周囲の全てから光を消し去る存在へと成り果てた。


正に『恐怖の象徴』だ。

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