第十五話「恐怖の象徴」
セエレ編1-4「アザゼル&オリエンス」
「ここに居たのか…セエレ。」
マーリン達の前に立ち塞がったのはボロボロの黒いフードを被り、顔からは骸骨が見え、体の大きさからして2m位。その手には無数の指輪とネックレスが巻かれ、もう片方の手には複数の剣を携えてる。その顔が既に怖いのだが、言葉そのものも何かしらの言霊となっているのか、恐ろしい何かだと警戒心が募る。
周りの逃げていた人々はその者が通ると足が崩れ、気絶する。言葉を発すると共に血反吐を吐く。その赤い眼光は見ただけで萎縮する。
「アザゼル様……どうして、こちらに……。」
「何故、私が貴様を洗脳したと思う?空席の王を釣る為に決まってる。
そして、見つかった。
欠片を持つ者とセエレよ。貴様等はここで消えよ。」
アザゼル。強大な力を持つとされる堕天使。またの名をアリトン。秘密や暴露するなどを持ち、様々な説がある。4人の魔王の中で最も魔王らしさを持ち、口にできない程の恐ろしい存在、誰もその力の正体を知らないなど、絶対なる強者として君臨する古株の王だ。
1歩ずつ噛み締めるように歩を進める。レケ達は既に悟ってる。自分達では役に立たず、寧ろマーリンの邪魔にすらなると。故に、セエレの能力を使用する。マーリン除いて全員がある程度先へと進む。
マーリンはアザゼルの遥か後方へとレケ達が移動したのを見て、手をアザゼルへと翳す。それと同時に発動する。
「《火の支柱》《水の支柱》《氷の支柱》《大地の支柱》《雷の支柱》《風の支柱》《木の支柱》《金の支柱》《光の支柱》《闇の支柱》」
最初に燃え盛る火の支柱を前から打つ。アザゼルがそれをどうにかしようとした瞬間高速で次の4つを詠唱する。流動する水の支柱と霜が空気中に舞う氷の支柱、砂が全く落ちない程圧縮された大地の支柱、実体を持たない雷の支柱。四方からそれが発射される。しかし、それだけでは終わらない。下からも風の支柱と、上から木と金と光、真上から闇。それの全てが超圧縮されており、Aランク程度なら一発で障壁を貫き沈められる威力をもってある。
その全てが同時で攻撃される。流石のアザゼルもこれだけの多属性を持ってすれば、無傷とはいかないだろう。何かしらの属性を無効化したとしても残った属性が追撃を行うからだ。
爆発がそのアザゼルを中心に巻き起こる。そして、数秒。土煙が晴れたその先より影が見える。大きな影がこちらへ向かってるのがわかる。上から振り下ろされるのは雷を纏う一本の剣。それは当然のことだがアザゼルの仕業である。
「なかなかに器用だった。生憎、私は戯れに来た訳ではない。その程度の攻撃では、児戯に劣る。」
耳を劈く機械音のような特徴的な声がその骨の顔から発せられる。というか、その骨の顔どうなってるのだろうか?仮面なのか、本当に肉体が朽ちているのか気になると思いつつ、その言葉を流す。
このアザゼルがどう思ってるのかはよくわかったが、こちらはレケ達が離れてくれたおかげで久しぶりに遊べるのだ。寧ろ、付き合っていただかないとなどと思っていた。とはいえ、街の方にあと二人魔王が来てるみたいで、死王集結するとは驚きだ。ちなみに、死王は四王に掛けて名付けられたらしい。尚、そんな駄洒落っぽい名を付けた理由を聞きたければ、本人達に聞くといい。本人達がノリノリで作ったらしいからさ。ギルドの四帝も魔王が四人だからという諸説もある。
ただ、少し気になるのは、さっきの攻撃がそもそも当たっていなかったように見えるのは気のせいだろうか?
「あ、そう、ならこれはどうかな?《煌き穿つ聖槍》」
その方手に槍を持ち、突く。それがアザゼルが恐怖を持つ本当の意味を知ることとなる。その体は虚ろかのようにすり抜ける。まるで実体がないかのように。ならば、アーデルのような仕組みかもしれないと、自分の周りに地雷をセットし、相手の出方を伺う。
「無駄だ。私には効かぬ。」
その地雷に足が触れ、魔法が発動する。
《光の杭-ライト・パイル-》
先程の超圧縮型《光の支柱》を更に圧縮した結果生まれる上級魔法だ。追尾機能が付いてるので、誤魔化しようもない。
それもまたすり抜ける。
誤作動なく追尾機能は行われるが、何度やってもそれは空を切るばかり、そんな杭など無視して、切りつけてくる。その当たらない謎を考えていたせいか、その剣から発せられる雷により、麻痺をさせられる。
そして、魔王はそっとマーリンを抱く。
「な、何を……。」
「アレは貴様の魔法だろう?試しに食らってみては如何だろう?」
追尾機能によりその杭はアザゼルの背後から襲いかかるが、相変わらずすり抜ける。しかし、間違いなく人肌を感じる。これは本物だと実感させる。その杭はすり抜けた先のマーリンへと襲い掛かる。障壁がどんどん破られ当たろうかという瞬間、何かの魔法により弾かれる。
麻痺も切れ、アザゼルを振り切る。
マーリンを助けたその何かがいる方へと振り返る。
「誰だ。」
一言そう呟くと共に現れたのは………。
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何度も切り裂く、凍らせる、殺すその繰り返しを行うものの、何度だって蘇る。何事もなかったかのように現れる。オリエンス自体はそんなに強くなさそうみたいだが、不死身を盾にここにギルマスを縛り続けられてるのがそんなに喜ばしいことなのか調子に乗るばかり。
実の所無表情なその裏で何故蘇るのか考えていた。ただ、その調子に乗る姿に少しばかり苛ついていたのもまた確か。とはいえ、それを表に出す気は無いゆえに、殺すという形で発散していたのだが、たった今1つ思い至った結論がある。
殺す度に周りの炎が減ってるような気がするのだ。
つまり、こいつは炎で出来ているのではないだろうか?
思い至ったなら行動するのみ。
「……………(《死滅の氷都》発動。)」
そう、グランニャーノが魔術関連のギルマスになったのは無詠唱魔法によるものだ。言霊で固定はせずに、魂に刻み込んだ魔術形式を起動するだけで発動ができるのだ。どうやって、魂に刻み込めたのかは彼女しか知らず、未だに無詠唱が可能なのは彼女ただ一人である。
周辺の全ての建物含め凍っていく。鎮火され、寧ろ気温がマイナスとなり人が住めるような場所でなくなる。もしかしたら、建物内に人が居たかもしれないが、それはグランニャーノの知ったところではない。居たとすれば魔王のために貢献できたのだから喜んでる死んでほしいものだ。
その氷の都を見ると共に焦りが見えたのがよくわかる。
初めて構えたのだから、しかし、そんなことをしてももう遅い。
背後から襲うもう一人の私によって、倒されるのだから。
《氷都の守護者》
自分の姿を忠実に模したその氷の守護者は冱て乖く氷剣を手に後ろから刺しに行く。前ばかり注目して後ろを見ていなかったオリエンスはあっさり炎と化し死す。ここに一人の王が数百年のときを経て世界から消える。故にここに勇者が誕生した瞬間であった。
勇者の定義など至って簡単で魔王を殺せば誰でも手に入る称号だ。それは身分が問われることはない。持ってたからと言って直接的には何の意味もないが、貧困層の人物が手にしたのなら今後は裕福層へと足を伸ばすことも不可能ではなくなる程度には有能性がある物だ。
次に2つの魔力を感じ比べ、グランニャーノは向かう。
時は繋がる。
辿り着いたその魔王の後ろから今にも傷つきそうなその魔術師に背後より《連奏・多重氷結障壁》を発動し、属性の有無など言わせず魔力の上乗せで無理やりその《雷の杭》を破壊する。
「誰だ。」
「ニャー。」
南のギルマス、グランニャーノ・アトランニがマーリンと共闘をするのだ。マーリンが真っ先に驚いたのはグランニャーノって割と可愛い声してるという点。そして、気付く。自分の自作の服着せたらさぞ可愛いだろうなという危機感を一切覚えない思考回路。
(こいつの能力何?)
風の魔法で思念伝達をされる。アザゼルが振り向いてる間に伝える。どんな属性も全てすり抜けるという事実と実体はあるという事実を。それを伝えると共にグランニャーノは即座に魔法を発動する。
《閉ざされた氷殻-クローズアイスシェル-》
空気中の水が固まり、アザゼルを覆う形で半円の殻が生成される。そんな殻は無駄だと言わんばかりに手に持つ雷剣で斬る。
しかし、それはグランニャーノが知りたかった情報の1つであり、アザゼルはそれに気付いていない。気付いたところで動じなかったであろうが、警戒されるのは間違いない。慎重に次の一手を考えなければならない。
だからといって、打開策が見つかったわけではないが、実験を開始する。




