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大罪庭園-taizai teien-  作者: A-est
第一章「強欲のフェアツェルト」
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第十話「王の帰還」

マーリン編1-2「※※※※※」

マーリンがこの街から姿を消した。どのような理由なのかはわからず、私達に何も告げず行ったことからも重要なことであるのは誰でもわかる。それに彼女自身、目立たぬようにして生きて来た。彼女ほどの魔術師がギルドランキングに載っていないこと自体が既に不思議でならないのだが、ギルドマスターですら最近まで女性であったことを知らなかった。少なくとも北のギルマスよりは年上と思われるのだから、そこそこ長い間この街にも居た筈なのに、知り合いが居る気配も無い。それほどまでに自身のことを秘匿し続けていたのだ。誰も彼女のことなど知るはずも無い。それに北のギルマスも好きなどとは言っても一日に会う人数を考えてたらマーリン一人のことなど一々気にしていられない。見えない水面下では何か変わったのかもしれないが、それも些事だ。結局はマーリンが居なくなった程度ではこの街の雰囲気も外見も変わらず、いつもの賑やかさがそこにある。


マーリンの部屋には沢山のお金と置き手紙が置かれていた。簡潔な内容でこの家の所有権はレケに渡しすことと、今まで楽しかったことについて感謝の礼。そして、共存は手伝えなくなったことに対しての謝罪。所有権の移行に関しての書類が全て書き上げられてることからも彼女の本気の度合いが一目瞭然で、意思表示がよくわかる。


どれも簡潔すぎて人間味を感じさせない。そこがマーリンらしさなのかもしれないが、その手紙もお金もただ冷たさばかりが手に伝わる。微かに残ってるかもしれない彼女の残り香を鼻腔に据えようとひと呼吸してみるものの、無臭で何も残ってなどいない。主人が居なくなり、元から殆ど無かった所有物も陰を潜めると共にこの部屋の静けさが際立つ。


その日の夜は放心状態であったが、イシスもセエレも気を遣ってか、マーリンの部屋で寝ることにした。レケは一人これからのことについて考える。今思えば、無口ながらもマーリンは様々なことに気遣い、様々な良きことを残し続けてきた。記憶喪失の私がここまで来られたのもマーリンの献身があってこそだ。彼が居なければ私はこうも強くなれなかった。きっと、何も見えない暗闇に怯え、閉じ篭っていただろう。今の私だからこそ、そんな弱い自分を受け入れられる。それに自分と正面切って目を見られる。如何にマーリンという存在が大きかったのか、その背中の広さに感銘を受ける。


鳥の囀りに目が覚める。昨日はどれだけ思考を張り巡らせたか覚えておらず、途中で寝落ちをしてしまったらしい。香ばしい匂いがして来たので寝坊をしてしまったわけではなさそうだ。一人で起きることがこんなにも寂しく重苦しいものだったなんて、彼女といた頃には気付かなかった。ここでも面影の映像が目を通して浮かび上がってくるようだ。


支度をして部屋から出て、リビングのテーブルに着く。イシスは食事を待つように座っていて、セエレは料理を作っている。そして、本来はもう一人座っている筈の存在に軽く目をかけるが、そこは空席であった。



私は普段通りに挨拶をする。



「おはよう…」



セエレは少し気を遣ってるようでいつもと声の張りが弱々しく感じられたが、イシスの方は1ミリも変わらなかった。まぁ、イシスは期間限定で預かっているだけであるし、そもそもそんなに交友が深いわけでもない。寧ろ、他人まであるレベルだ。


そういう態度を取るとわかっていても寂しいところはあるが、昨夜ずっと考え導き出した答えを口にする。


「マーリンの置いて行ったお金は本来生活費に使うべきだとは思うけど、マーリンを探す為に使っても…良いかな?」


一晩考え抜いて辿り着いた結論は、マーリンをやすやすと見逃すわけにはいかない、だった。

理由があるなら話して欲しい。それが、長年の相棒である私にすら話せないほどの重苦しいものだとしても。

あの手紙だけで納得出来るはずがない。


「私はレケ様の提案に異存はありません。」


セエレはこちらを向いて、ニコリと笑った。

執事として居るのだから一応男として生活してる筈なのだが、女にしか見えないのは突っ込むべきでは無いのだろうか。


「私は居候の身。それに今の家主はレケなのだから、好きにすると良いんじゃないかしら。」


相変わらず冷たい反応だが、それでも答えてくれたことが嬉しい。少しは友好関係を築いてくれるということなのだろうか。


それぞれの想いを聞き出し、意見が固まったことで今日出向く場所も決まった。


       ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


西のギルドは東とは違って暗いイメージのところだ。基本的にギルドメンバーの殆どが暗殺者として典型的なフードをかぶっている。中には普通の服を着ている者もいるが、自分に絶対的な自信がある者だけだ。暗殺者は身バレを嫌う。個人情報の漏洩が仕事に差し支える可能性は十分にある。中級者になってくると顔の交換が出来るものが増える。それは魔術的な意味だと少なくなるが物理的な変装ならば大半が慣れてくる。故に、自信があるなら偽の顔を晒しすのだ。


お互いに手の内を曝すようなところではないということだ。そんな中で奥のテーブルで書類を見ている男に声を掛けた。その男は数日前にも会っているギルドマスター。そして、その個人情報の漏洩を嫌う暗殺者の中で最も異質の存在。ずっと同じ顔を晒し、暗殺時も顔は一切変えない。それが本物なのかそれとも偽りの仮面を被り続けてるのか定かでは無く、彼の名前は誰もが知っているスカーラのみ。名字は不明。どこ出身かも不明。ギルドに登録された情報は偽物。全てが謎に包まれている。優男で親しみやすいという都合のいい性格は間違いなく偽物であろうことは暗黙の了解だ。


「あれ?こんなとこまでどうしたの?」


相変わらず笑みの絶えない油断ならない男だ。初見の人なら誰しも人当たりの良さそうな人だと思い近付く。それがナイフを突きつけられているとしても、死ぬ瞬間までそのことに気づけないのだ。そういうテクニックも一流である。だから、ここのギルドメンバーはギルドマスターがどんな態度をしても必ず一度は警戒する。秘書兼任サブマスターや上位者は流石に警戒することなく仲良く話すが、そんなことができるのは本当にひと握りの彼等のみでその優男の周りは静かにしんとしてる。


こんなとこまで来ると言えば理由は限られてくるのはわかっているはずなのだが、知らんぷりを押し通してレケの言葉を待っている。もしかしたら、こちらの依頼内容すらも理解してるかもしれないが、彼とてマーリンを監視していたわけでは無いはずだ。マーリンが居なくなったことに関しては知り得たとしても不思議ではない。


「依頼よ。」


そう言って前の席に座る。

スカーラは客だと受付人に挨拶をすると、奥から紅茶を持ってきて、レケの前に置いた。手に持っていた書類を一纏めにしてカバンに入れた後、こちらを向く。


「それで、一応聞いておくけど僕相手の依頼の相場は知ってるのかな?」


普通は依頼をするときは受付人に話を通して、ギルメンがそれを受けるのだが、ギルマスの場合は別だ。それぞれに特殊な相場が決まっており、突然破格の値段を出さないよう取り締められている。

最も本人達にとって小銭稼ぎ程度なので、そんな縛りは無くても大して変わりはない。


そんなギルマスの中でもスカーラは少し変わっていて、時間制だ。最低1日から1ヶ月近くまで依頼が可能で、1日からは依頼を達成するまでにしておけば1時間毎に料金が発生する。

2日分払うぐらいなら、その数時間払った方が依頼人もお得であるという配慮だが、そもそも最低金額が高めなのでよっぽどの大物でなければ普通は頼まない。


しかし、マーリンが置いて行った金額は凄まじいものであった。スカーラへ1週間依頼する程度なら余裕の金額であった。スカーラをタダ働きさせられる権利を有するのだからそれを使えば見つけるだけなら時間に関係なくやってくれそうだが、仮にもこの街の最強の四人の中の1人なのだ。その相手を使うならより有意義なときに使いたい。ちなみに、正式にはスカーラは10位外に居る。単純な戦闘力のみで比べたらスカーラより強いマスターランクはゴロゴロいる。総合ならばスカーラはランキング的には上位に立っている。筋力がどんなに強くとも当たらなければ意味がないということだ。


「ええ、知ってるわ。」


「それで依頼は何かな?」


期限は1週間。

それまでにスカーラがマーリンを見つけることが出来るかに全ては賭けられた。一度はスカーラも目撃してる為に、魔力を頼りに探すらしい。

ただ、魔力の遮断などしている為困難だとは思うが、スカーラ曰く人探しに1週間も要らないとのこと。しかし、念の為1週間用意したのだ。マーリンの強さはギルマスに匹敵すると賞賛してるからこその判断。


彼への依頼コースは1日単位と1週間単位と1日+達成までの3パターンが基本である。

今回は1週間の方が最も安かった為にそうしたのだが、仮にも4日で見つけられると損した事にはなる。

国からの依頼も極たまにあるのだが、その時は1ヶ月コースも増えてくる。戦争の情報集めなどの時にそれだけの長期間が必要になるからだ。


そして、3日後。スカーラが訪問して嫌な予感と期待が浮上したのだが、スカーラの一言。


「見つけたよ。」


スカーラの報告を聞くところによると、100km以上先にある街の外れで見かけたらしい。

大規模な結界を張っていて、認識阻害を掛けてる為に誰も気付かなかったそうだが、ギルドマスターの中でも隠密に長けてる彼はその業の1つである魔力探知と魔力阻害はマーリンすら凌ぐ。

それ故にマーリンに気付かせることなくマーリンを見つけることに成功した。


それを伝えると同時に報酬を渡すとスカーラは影へと消えて行った。

次の仕事でもあるのだろう。


スカーラ自身も言ってはいたが、その大規模な結界の意味までは探れなかったとのこと。少しでも入ろうものならば気付かれてしまうだろうし、だからといって入らずして気付ける程に結界術に詳しい訳でもない。


元々、見つけることが依頼なのでそれ以上危ない橋を渡る気はなかったようで、そのまま帰還をしたということだ。それにしても、3日で見つけられるとは思ってもいなかった。


街の捜索だけでもかなりの時間が掛かりそうだが、あの破格な値段はもしかしたら他にも協力者が居るからなのかもしれない。


「そう言えば、セエレの召喚時能力ってまだ発動出来るの?」


セエレの持つ移動系魔術の実態は「座標の操作」。目に入る範囲内という制約はあれど、100km離れていても1分もあれば到着出来る。これ程万能性の高いセエレに勝てたのも狂気に染まっていたこととマーリンの強さによるものだ。


この固有魔術は誰からか召喚されなければ発動することが出来ない。しかし、前の召喚者とはもう契約を切ってある為、使えない気がするのだ。


わざわざ誰かの召喚に応えて召喚されても手駒に出来る保証は無ければ、そんな外道な行いをする気も無かった。


「私は元からレケ様に召喚されてますよ?」


「は?」


衝撃事実が発覚した。

私は知らない内にセエレを召喚していたらしい。その記憶は無いため、マーリンにでも無理やりされていたのだろうか?

だから、セエレは実体を保てているのだろうか?


「随分昔のことなので、今は微弱過ぎて力は使えませんけど更新すればまた使えます。」


随分昔とは一体いつの話なのだろう。少なくとも最近、セエレに出会った時より前に遭遇した記憶は無ければ、魔法陣とか書いた記憶もない。


そう言えば、一人で暮らしていた時、私は魔法陣を…いや、あれは違う。何が違うのかわからないけれど、本能的に思い出しかけた記憶を奥底にまた封じ込めた。


「それじゃあ、更新とやらをまたして。」


「はい、わかりました。」


セエレは了解の意を示すと、紙に手順を書き始めた。どうやら、更新そのものは私がやるらしい。私はその紙に書いていたことを口にし、自らの血をセエレの唇へと捧げると、二人を中心に魔法陣が浮かび不思議な感覚へと包まれた。


対して時間は掛からず更新されたらしく、特に変わらぬ感覚に戸惑った。最初は太く繋がっていた魔力の糸は100年なら途切れることはないのだが、更に時間を掛けると少しずつ細くなるそうだ。特に、私の場合は少し糸がねじ曲がっていたらしい。このようなケースは初めてだったとのこと。


何はともあれ、こうして改めて能力が使えることを確認すると、レケは口を開いた。


「それで、イシスは来るの?」


イシスは言ってしまえば部外者でレケ達に付き添う必要はないのだ。休憩することも出来るしギルドで自分にあった依頼を探すことも出来る。レケ達と稼いだお金もある為、僅かながら街で楽しむことも出来るだろう。

しかし、イシスの心は決まっていた。


「私も行きますよ。一時的とはいえなかまですから……。」


ここ数日イシスの声や表情を見てきたからわかったが、イシス自身もここでの仲間意識が芽生えてるのだ。無表情に見えて恥ずかしそうに少し目を逸らす姿は可愛らしかった。


「それじゃあ、セエレお願い。」


セエレは二人の手を掴み、能力を使った。


マーリンが目撃されたという西の果てにあったのは人気もなく寂れてしまった教会。そこから半径100m近くを結界で覆ってるのがわかったのだが、その中心の教会の周りは荒野のように荒れ果てている。


こうして認識を更新し続けていなければ、その先を行こうとは思わないし、壁とさえ思ってしまうほどの認識阻害結界だ。


踏み出した瞬間にマーリンに気付かれ逃げられることも考えられる為にセエレの力で協会の前まで一気に侵入する。


パリンッ!!


何かの割れる音が聞こえると共に扉から人影が吹っ飛ばされる。それは、顔の認識阻害を解いているマーリンの姿であった。


「クッ、レケ……どうして来た!?」


「それよりも、早くそこから逃げろ!巻き込まれるぞ!」


マーリンの声は緊迫していてなりふり構っていられないと言った感じだ。どうやら、結界内に入ったことにより結界が壊れたらしい。それにより、本来発動していた効果も途切れたようで、このような状態を引き起こしているのだ。


スカーラでなければ気付かなかった程に魔力の遮断は完璧であった。その為に中に入られることは想定していなかったらしい。顔の認識阻害を解くほどに魔力を使用していたのだから、更なる保険はそもそも作れなかったのだ。


「あぁ、マーリン。酷いじゃないか。君の王である俺をずっと閉じ込めておくなんてな。」


中から出てきたのは、白銀の鎧を着て、金色の長髪と金色に輝く聖剣を持つ者。


「アーサー王を侮辱した罪、その命、万の死で贖え!」


その者ブリテン、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、ガイルの国々を統治した王。後ろに立つは円卓の騎士達。片手に持つは聖杯。もう片方に持つはエクスカリバー。彼はその昔最強の騎士王として君臨した。


彼の倒した悪魔の数は数知れず、彼の倒した龍の数は滅亡にまで追い上げた程、彼の残した威光も戦歴も誰もが到達出来無い頂点。


彼は少しずつマーリンへと歩を進める。


レケは反射的に銃でアーサー王の後ろに発泡し、発動した。


「《氷の鎖-アイスチェイン-》!」


銃弾の上限まで撃ち込んだ無数の鎖がアーサーの体に纏わりつく。しかし、アーサーはこちらに見向きもしない。あまりに脆くその鎖は切れていく。その歩みを遅めることすら出来てはいない。


レケは何の迷いもなく叫んだ。


「スカーラ!あいつを殺すのを助けて!」


レケの影からスカーラが出てきて、「了解」と一言だけ吐くと共に音速の速さでアーサーへと突っ込んだ。


「《影から忍び寄る手-シャドウチェイン-》発動。」


普通の《影の鎖》とは違う。彼なりに改良を加えた詠唱型の強力捕縛魔法だ。アーサー自身の影から伸びる無数の手が彼を襲う。


そして、魔力を込められた小刀で彼を刺そうとした瞬間、彼が6人に増えた。


《鏡の中の歩く者-ミリュエッドピデストレイン-》発動。


これこそが彼がマーリンを見つけられた秘密。

そして、彼がギルドマスターであるとされる魔術の1つだ。

別世界線の自分を同じ世界線で共存させる魔術。それ故に消費も激しいので、他の魔術があまり使えないのだが、一度召喚すればもう一度消費されることはなく死ぬまで残り続ける。


その魔刀もかなりの力が封じ込められており、Aランクならギリ防げるかもしれないというレベルだ。特に今回は《影から忍び寄る手-シャドウチェイン-》からの不意打ちだ。間違いなく当たると思っていたが、その魔刀が砂へと変わるのを見て音速で後方に下がった。


「おいおい、魔刀が砂になるとかまじかよ。」


アーサーは何気に周りの風景を見る。


「全く、ここは殺風景で如何な。マーリンを殺すのも少し見晴らしが良い所にしよう。」


スカーラの魔法は歩みを止めることに成功したが、こちらを見ようとはしない。まるで、何事もないかのように振舞っている。

実際にそうなのだろう。彼にとってはこの程度の魔法、無いのとそう変わらないのだ。


「《次元を喰らう者-ディメンジョンムーブ-》発動。」


魔術が発動すると共に、風景が一転して街となった。地面そのものは荒廃した大地なのだが、ある境界から向こうは私達がよく見かける街であった。


キャーーー!!!


叫び声が聞こえる。

次元の境界に立っていた者は等しくその境界に合わせて、切断されていたからだ。この魔術による移動で十何人死んだのかはわからない。


「ふむ、久方振りに目覚めてみれば文化も随分変わってしまったな。いや、そもそも国が違うのか?」


街の風景を見て何かしらの感傷に浸っている。

今がマーリンを助けるチャンスなのだが、先程の戦いを見てしまっては思うように足が動かない。

しかし、マーリンをやすやすと見殺しにするわけにはいかないので、声を出すことにした。


「マーリン!今の内に体制を整えて!!」


その大声にはアーサーも反応したようであまり興味なさそうにこちらを振り向いた。


「あぁ、先程紐を絡ませて来たのは君か。……ん?」


少し眉間に皺を寄せると共に25mほど離れた私の前まで何の予備動作も無く、一瞬でにじり寄った。


この速さに着いてこれたのはマーリンとスカーラだけである。少し離れていたスカーラはその動きに合わせて複数所持していた魔刀を投げつけ、更に回し切りをするが、何か障壁があるようで砂へと変わる。


マジマジとレケの顔を見つめると少しニヤリと笑った。


「君、なかなか面白いね。その体では不便だろう。少し手伝ってあげよう。」


手を頭に翳そうとしてきたので、後方に下がろうとした。


《重力の鎖-グラビティチェイン-》


足に鎖が絡みつき錘のように重くなる。あまりにも重すぎて足が全く動かない。

右手にあった銃で撃とうとすると、数cm持ち上げようとしたところで銃を掴み破壊した。


《重力の手-グラビティハンド-》


何の詠唱もなしに先読みされ、その手は頭に翳された。流石に不味いと思ったのか

6人のスカーラが一斉に両手に向けて、魔術を構築する。


『《影から忍び寄る手--シャドウチェイン》発動!』


無数にも重なり、多重効果のあるその手にアーサーの動きも止まった。が、それも時間稼ぎでしかない。


「聖剣エクスカリバー開放。」


その宣言と共に体が光に包まれ、その手の全てが消え去った。今の彼に一切の魔法は効かない。もし効くとすれば同じ光属性の魔法か聖属性ぐらいだろう。


エクスカリバー自体は聖なる剣ではあるが、それを纏ったアーサーは闇の騎士である為に弱まり光となっているのだ。言わば、光の剣と闇の魔法を使う魔法剣士なのだ。


勿論、彼が最初から闇の騎士だったわけではない。マーリンの仕えてた王ならば、纏うのは聖なる光であった。しかし、彼は同一人物であるのは間違いない。


「其れは光の中でさえ煌々と感じる聖なる槍。古代の深き闇の中でさえ、人々を照らした象徴。たどり着きし者に栄光を穿かれし者に裁きを其は光を届けし者。《煌き穿つ聖槍-ザ・サン・スピアー-》!!」


マーリンの手に光り輝く細い槍が握られていて、それを投げた瞬間にアーサー当たる直前まで貫かんとした。光か聖属性しか効かないことを知っていた為に小声で詠唱をしていたのだ。


聖属性のマスタークラスの魔術はSランクにしか扱えない禁断魔法だ。あまりにも強大すぎて国すら滅ぼしてしまう程の力の本流に対して、アーサーはエクスカリバーで受け止めた。


しかし、少し表情は厳しい。

禁断魔法をギリギリで受け止めてることすらありえないことだが、それでも窮地に追い込められてることがわかる。


援護をしようにもあまりにも強大すぎてスカーラには近付けなかった。仕方なく、レケの鎖を外そうとした瞬間、


「聖剣カリブルヌス開放!!」


アーサーがレケに翳していた手をもう一本の剣を抜くのに使った。そして、その槍をエクスカリバーで斬ると同時にカリブルヌスで回し斬りをし、とうとう槍を消滅させてしまった。


「ふぅ、マーリンやりおるな。流石は元師匠であるだけのことはある。」


必死に外そうとするスカーラにカリブルヌスの一撃が入る。あまりにも速くて知覚できなかったのだ。うめき声と血飛沫と共に透明になって行き消えた。


別の世界線のスカーラのようで、他のスカーラとこの世界のスカーラは未だに無事だ。


アーサーはカリブルヌスを一旦鞘へと仕舞い、レケの頭に手を翳した。何か魔力を込めた。


その瞬間、視界が暗く染まった。

時間が延ばされていき、次第に記憶が蘇る。


フェアツェルトと過ごした楽しい日々。

私はフェアツェルトのことが好きだった。

ボクはレケのことが好きだった。


夜へと変わり、血塗れの私がそこに居た。

その下には人間の肉塊が転がっている。

転がっている顔にキスをする私。

あぁ、どうして私を裏切ったの?


朝へと変わる。

私は料理を作っていた。

私は拾われたのだ。

そして、扉が開く音がする。

目覚めたんだね。おはよう、☓☓☓☓☓☓。


死ぬ瞬間、()()を見ていた。

フェアツェルト死なないで、レケ死なないで。

フェアツェルトレケフェアツェルトレケフェアツェルトレケ!!!!


「あぁぁぁぁぁぁぉぁぁ!!!!!!!」


手を翳した瞬間、レケが狂乱と涙を流し叫び始めた。頭を抱え、雄叫びを上げ続ける。

その異常にスカーラもマーリンもセエレもイシスも呆然と見ていた。真っ先に動いたのはイシスだ。


「しっかりしなさい!レケ!」


アーサーのことなど見向きもしないでレケに触れようとすると、レケがイシスを振り払った。


「ふふふ、やはりそうか。君は実に歪だ。面白い、もっとその叫びを俺に聞かせておくれ。」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


《貫き穿つ螺旋の鉄処女-ガイアスパイラルメイデン-》発動。


土属性の上級魔法の詠唱破棄だ。

名前すら固定せずにその狂気的な意識の中、確かなイメージと共に発動する。柱を更に螺旋状に凝縮され、それが360度から無数に発射される。


龍すら屠る程の強大な力ではあるが、光の鎧の前では無意味。

全ては砂へと変わり、砂埃がたった程度のことだ。


「この程度か。つまらんな。」


アーサーがエクスカリバーを振り下ろす。

レケの左手は簡単に取れて大量の血が噴き出す。その痛みでレケ自身の意識も取り戻し、魔術はそのまま消滅する。

次弾は光の粒子に変わり空気となった。


「い"い"ぃ"ぃいあああ"あああ!!!!」


そして、次は首への一閃を音速で放った。

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