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第9話 祖父と孫

 だからと言ってこの場で寝るか、とビレッツェは思ったが、あまり気にしないことにしたようだ。

 彼は一室でソファに腰かけて待っていると、やがて一人の男が現れた。


「兄上⋯⋯本当に戻って来たのだな」


 それはビレッツェの実の弟であり、現ルチェンブルク領主であった。


「儂はもう帰ってこんと言ったろう。今回は、お主の孫に用があるのじゃよ」


 孫がいると、半ば確信をもって言った。それは領主なのだから、跡継ぎくらい用意しているだろうと思っての事だった。


「デイルにか⋯⋯?」


 そこでふと、ようやく寝息を立てているリステリアに気付く。

 レイフェル——ビレッツェの弟——はそれを見て驚愕に目を見開いた。


「そこで寝ているのは兄上の孫かっ!」


 その声はあまりに大きすぎたため、彼女を起こすに十分だったようだ。


「⋯⋯んっ」


 目を擦り、寝ぼけている頭を必死に回転させて目の前でジロジロと見つめてくる男性の事を見返す。

 そして、この人は初めましてかな、と結論付けた。


「⋯⋯初めまして。リステリアです」


 それだけ言うと、まだ寝足りないのかすぐに眠りについてしまう。


「よく出来た子だな」

「ああ。自慢の孫だ」


 二人はビレッツェが出て行った後の話を始める。


「儂はこの街に住んでおるぞ?」

「何!それは本当か?どうして言ってくれなかったんだ」

「いろいろあったんじゃよ。娘も、その夫も、そして、その里も、滅んだ。生き残ったのはこの子だけ。何があったのか、覚えていないそうでの」


 それは⋯⋯と痛ましい物を見るかのようにリステリアを見る。


「さて、そろそろ本題に入ろうかの」

「そう言えば、デイルに用があるんだったな。すぐに呼んでくる」


 レイフェルはデイルを呼びに部屋を出て行く。

 その様子をビレッツェは確認すると、リステリアを揺すり始めた。


「ほれ、そろそろ起きんか」

「ん⋯⋯?お爺ちゃん?」

「そうじゃ。これからリステリアの友達を紹介するでな」


 彼女は首を傾げる。

 友達なんて、これまで誰一人いなかった。

 そもそも、あの里にリステリアと同年代の子どもはいなかったのだから仕方がないとも言えるだろう。

 それほど時間が経たずにその時はやってきた。


「ちょ、爺ちゃん!なんだよ急に!」

「良いから来い。中に女の子がいるが、仲良くするんだよ」

「誰がっ!女なんかと仲良くするもんか!」


 瞬間、バシっと軽快な音がなる。それはレイフェルがデイルの頭をはたいた音だった。


「いっつ、爺ちゃん痛いよ!」

「いいから!そろそろ静かにせんか!」


 リステリアとビレッツェは嵐の予感に頭を悩ませる。

 そんな二人の思いを知らずに扉は開かれた。


「っ⋯⋯⋯!」


 デイルは唾を飲み込んだ。

 彼はリステリアの流れるような長髪の銀髪と、透き通るような蒼の瞳を見て息が詰まる。

 その綺麗な銀髪と蒼の瞳は彼の全てを飲み込んでいく。

 リステリアがデイルに笑いかける。

 たったそれだけで、デイルの脳天に雷が落ちた。

 それは彼の初恋。


「お、俺、帰る!」


 デイルはあまりに美しい彼女に目をくれることもなく、反転して廊下を駆け出した。


「うわああああああああああああああ!!」


 廊下から叫び声が聞こえ、何か起こったのかと使用人たちが飛び出して来る。

 そして開け放たれた扉の向こう側にいるリステリアと、叫び声の主を思い出して合点がいったような表情で、皆が各自の仕事、持ち場へと戻っていった。


「何が⋯⋯もしかして」


 リステリアの呟きに、祖父二人と使用人たちが耳を傾ける。


「もしかして、会って速攻嫌われた⋯⋯?」


 その時、全員がずっこけた。


「いやいやいや!待て!リステリアと言ったか。デイルはあれでも⋯⋯」


 レイフェルによるフォローなのか、デイルが生まれた時からの話が始まった。

 使用人たちはそれを聞き、今度こそ持ち場に戻っていく。心を一致させて。


『ああ。また始まった』


 その日、デイルは丸一日自室から出てくることは無く、出てきた頃にはリステリアは帰っていたことを知り、レイフェルに対して八つ当たりするのだった。

 リステリアはレイフェルの孫話に相槌をてきとうに打ちながら、別の事を考えていた。


「(さっきの子、銀髪に蒼の瞳だったなぁ⋯⋯。このお爺さんもそうだし、外国に来たみたいだ)」


 話が終わる頃には日が暮れており、間に食した昼食なんかの料理を帰ってから再現してみようと思う彼女だった。

 家に着くと、彼女はすぐに夕食作りを始める。

 既に日が落ちており、真っ暗な夜が訪れている中、台所と居間には灯りがついていた。その灯りは魔道具と呼ばれる物で、彼女の関心を引く代物であったが、まだ魔力を感知出来ていない彼女にとってはもどかしい思いで一杯だった。

 早速、昼食で食べた物を作り始めようと思ったが、流石に2食続けて同じ料理はきついものがあると判断した。

 彼女は途中でレイフェルの話を聞く役目をビレッツェにバトンタッチしていたため、他にも領主館で働く料理人に、様々な料理を教わっていた。

 今日の夕食はこれだ!と思い、保冷庫という魔道具を開け材料の確認をする。

 帰りに買った食材と合わせれば作れそうだ、と笑みを浮かべた。


「~~~♪」


 鼻歌を歌いながら夕食を作る姿を見ながらビレッツェは風呂代わりの体拭きをしていた。


「出来たー!」


 リステリアは完成品を見て「あれ、これって肉じゃが?」と心の中で思う。

 彼女が教わったのは材料と調理法のみであり、実際に見たわけではなかったのだ。

 作っている途中は作るのに夢中で気づくことはなかったが、それは地球での肉じゃがと酷似している。


「ほう。肉のフカ煮込みか、美味そうじゃのう」

「そうだよー。初めて作ってみたから、美味しいかどうかわからないけど⋯⋯」


 肉じゃがと似ているからといって、気にする彼女ではない。

 そう言えば、フカはじゃがいもに似ているな、と今更ながら思った。


「んぅ!美味いのう!」


 それを聞いて安心すると、彼女も口に含んで噛み締める。




 次の日、彼女たちはまた領主館へやってきていた。

 それはデイルが頑なに呼び出してきたためである。リステリアもまた、デイルに人柄を見られることなく見た目で嫌われたまま放置しておくには苛立たしいと思っていたところだった。

 そのため、一瞬の迷いも見せずに領主館からの呼び出しに許可を出した。


「昨日ぶりだね、リステリア」


 レイフェルは穏やかな笑みを浮かべながら挨拶をする。

 それに合わせて彼女も挨拶を交わし、最後にビレッツェが使用人に指示を出した。


「そこの、茶を出しとくれ」

「は、はい!」


指名された使用人の女性はすぐに部屋を飛び出し、その足で厨房にある茶と茶請けを持ってくる。

 その間僅か5分ほど、とどれだけ急いだのかわかるだろう。


「うむ。これはこれで美味いな」


 ビレッツェを毒見させることに成功したリステリアもまた口に運び、この世界での初めての甘味に舌鼓を打った。


「んぅ~~!おいしい!」


 久し振りの甘味。この砂糖の甘味が久し振りで堪らない。でも、と彼女は思う。


「(砂糖多いっ)」


 それは砂糖をふんだんに使った砂糖菓子で、これ以外に何かないかと尋ねるが、そもそも菓子自体がこの一種類しかまだ発見されていないのだという。

 それだけ砂糖が貴重であり、まだ浸透しきっておらず調理方法すらもわかっていないのである。

 彼女は諦めて砂糖を自力で手に入れた時、頑張ろうと決意する。

 その様子を頬を赤く染めてみているデイルの姿があり、今日は周囲に使用人がそれなりの数控えており、祖父二人もそんな二人を見てにこやかな表情を浮かべていた。


「り、リステリア」


 デイルが勇気をもって話しかける。

 リステリアは、ようやく話しかけてくれた!とテンションが上がっていく。


「昨日は、その、ごめん。でもあれは違うんだ」


 何が違うのか、と首を傾げる。

 それに気付かず、デイルは続けた。


「ともかく!俺と一緒に来い!」


 デイルは対面に座っていた彼女の手を引いてその客室から出て行く。

 向かった先は庭であった。


「ふぅ⋯⋯」


 デイルが息を吐く。それなりに早く走ったと自己満足も得ていた。

 だが⋯⋯、


「はぁっはぁっ、ふぅ⋯⋯ふぅ⋯⋯」


 リステリアはこの世界に来てから運動などあまりしておらず、また魔法で筋力を強化したりすることも出来るため、龍人族の里で体を鍛えるという概念は皆無だった。


「あ⋯⋯ごめん。早かったか?」

「んーん。気にしないで」


 彼女は体力トレーニングが必須だな、と思うのであった。


「よし、じゃあちょっと見とけよ」

「何するの?」


リステリアは純粋に問いかけた。そして、それは始まった。


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