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第6話 家具揃え

 その後、ビレッツェに保護されたリステリア。

 彼女はビレッツェの家で過ごすこととなった。


「うわ~。凄い!街って初めて見た!」


 今世において初めての異世界の街に興奮を隠せない彼女は、物珍しそうにしきりに辺りを見回している。

 その様子を隣で手を繋ぎながら微笑んでいるビレッツェの姿があった。


「それじゃあの、このカードは時期が来るまで儂が預かっておくからの」

「うん、わかったよ!」


 ビレッツェが預かると言ったカード。それは先ほど作ったばかりの、この街の身分証である。

 それがあればどの街にも通行料を払うことなく入ることが出来る。なければ保険金として、高いけれど払えない額ではない銀貨3枚を支払わなければならない。

 彼女はそのカードを詳しく見分することはなかったが、貴族のみが持つ銀色のカードであった。


「ここが儂の家じゃ。これからよろしくの」

「はい。よろしくおねがいします!」


 彼女は年相応の笑みを浮かべて軽くお辞儀をする。それは先ほどの門兵を見て真似たものだった。


「ここが居間で、食事もここで摂る」


 そこには一つのテーブルがおいてあり、椅子が4つあった。

 彼女はその内の一つに座り心地を確認するように何度も確かめる。


「⋯⋯異世界の方が質感がいいなんて⋯⋯」


 それは科学の発達した前世の世界の知識を持つ彼女にとって、少なくない衝撃を与える事実だった。

 しかし、それもすぐに持ち直す。

 今はこの世界で生きているのだから、運がよかったと思うべきだと判断したのだ。


「ここがリステリアの部屋じゃな。後でいろいろ買いに行こうかの」


 2階に上がると二つ目の部屋がリステリアの部屋となった。

 その部屋に一切の物がなく、全くの手つかずの状態であった。埃もそこそこ溜まっており、彼女は要掃除、と心のメモに記した。


「ここは排泄場と水浴び場じゃ。水浴びは二日に一回ほどかのう」


 その一室に入ると鼻を突きさすような異臭に彼女は顔を歪めた。

そこには排泄場と呼ばれた、彼女の前世ではぼっとん便所と呼ばれる物が鎮座しており、奥には深い穴があった。

それを上から覗きこむ彼女は一つの疑問を呈した。


「これ、水をためてるのか、井戸なのかどっちなんだろう⋯⋯?」


自問自答にも似た問い。

それに答えるビレッツェの姿は無かった。

なにせ、井戸という代物を知らないのだから首を捻るだけに終わっても仕方がないだろう。


「これで全て案内したのじゃが、何か聞きたいことはあるかの?」

「えっと、台所?はどこにあるの?」


彼女は“台所”という語彙があるかどうかわからないため、疑問符をつけての質問となった。


「ああ、それなら居間と併設されておる。そう言えばまだじゃったな。こっちじゃ」


 ビレッツェはリステリアを引き連れて台所へと向かう。

 途中の廊下には絵画が少なからず飾られており、こういった嗜好がこの世界にもあることを確認した。


「ここじゃの」


 ビレッツェが短く宣言した。

 対してリステリアは開いた口が塞がらない。


「お爺ちゃん⋯⋯」


 何故なら、そこに調理器具が一切おいておらず、どうやって料理をしているのか⋯⋯そもそも料理すらしていないことをすぐに察する彼女だった。

 そして、彼女は心のメモに調理器具を追加した。


「他に聞きたいことはあるかの?」

「んー、もう大丈夫だよ」

「そうか。聞きたいことが出来たらいつでも聞くんじゃよ」

「うんっ!」


 ビレッツェはリステリアの温度差が激しいことに気が付き少しばかり気になるが、里の皆が突然いなくなればそういうこともあるだろうと思うことにした。

 家を出て、街へ繰り出した二人はまず家具屋へと向かった。


「店主、この子に合う家具を一式揃えてくれ」

「へぇ、ビレッツェの爺さんがこんなにかわいい子を連れてくるとはね」


 店主はそう言いながらリステリアの頭を撫でた。

 撫でられた彼女は少しはにかむように笑い、店に並んでいる家具を一通り見て回った。すると、一つの物が目に入る。


「店主さん、これなんていうんですか?」

「ふふ、店主さんか。いいね!これからもよろしくね⋯⋯」

「リステリアです!」

「リステリアちゃん。それは箪笥といって服を仕舞う、言わば物入れだね」


 店主がリステリアの目線に合わせて膝立ちとなって説明をする。

 物入れと呼ばれ、指さされたものは四角い形をしていた。その形状は実にシンプルだったけれど、箪笥と呼ばれた物は到底彼女の知識にあるようなものではなかった。少なくとも見た目は。


「これが箪笥⋯⋯?」


 この世界に来て初めて箪笥を見た彼女は疑問の声をあげる。

 元日本人としての知識では、箪笥はいくつかの引き出しがある縦長か、横長の物だと教えていた。

 けれど店主に教わった物はそのどちらでもない形をしており、一目で箪笥とわからないつくりであった。


「そうだよ。ここをおすと⋯⋯」


 店主がその3脚のついた丸い何かの中心を押すと、ポチっという音が鳴った。

 直後、破裂したかのように膨らみ始める。

 その突然の動きい彼女は驚き尻餅をついた。痛みが走るお尻をさすりながら彼女はその光景に目を剥いた。


「凄い⋯⋯!」


 それはまさに凄い、の一言だった、


「そうだろう。リステリアちゃん。これが気に入ったかい?」

「うん!」


 彼女は元気よく返事する。


 店主の目がビレッツェに向けられ、彼は仕方なし、とばかりに頷いた。

 購入が決定したのだ。


「箪笥を決めたら次はお布団だね。あっちにあるから一緒に決めようか」


 店主は愛想のいい笑みを浮かべてリステリアと共に移動した。ビレッツェは財布を確認し、嘆息する。


「この中から好きなのを選ぶといいよ」


 彼女は目の前に広がる光景に何度目かの驚きとも喜びともとれる声を上げた。


「わぁ⋯⋯!」


 そこには彼女が前世で使用していたベッドが座していた。

 彼女はその触り心地を確認し、椅子と同様に質感がいいことに満足し、様々なデザインの中から一つの柄を選んだ。


「良いセンスしてるねえ。これは女の子に人気の商品なんだよ」


 彼女が選んだ柄は花が満開で咲き乱れているようなものであった。

店主がまた意味あり気な視線をビレッツェに向けた。

 彼は任せる、というとどこかへ去っていった。きっと、彼女が楽しそうにしているのを見て空気を読んだのだろう。


「次は⋯⋯机かな」


 ちらりとリステリアを見る。店主はまだはやいかと思いつつ、貴族の子ならあっても問題ないだろうと判断し、机を置いているコーナーへ歩いて行く。

 リステリアが次に見たのは小学生にために買われる勉強机と酷似しているものだった。


「こういうところは一緒なのか⋯⋯」


 店主に聞こえない程度の声で呟き、彼女はどれにするか選んでいく。

 まずは大雑把に柄で決め、その後に形状、使い勝手と徐々に選択肢を狭めて行った。

 結果、一つの机に行きつく。

 それはまさしく、“勉強机”だった。

 使い勝手という最後の試験に合格したのがその机ただ一つだったのだ。彼女は勉強机は偉大だな、と思いに更ける。

 やがてビレッツェが戻ってくると勘定を済ませ、荷物運びは本日の夕方頃にしてくれるとのことだった。

 家具屋を出た二人はまだ昼食を済ませていないことを思い出し、てきとうな食堂に入る。

 入った食堂の名前は“青空食堂”。


「これと、これとこれを頼む」


 ビレッツェが3つの商品を店員に注文する。

 注文方法は至って簡単で、商品名が書かれている棒を店員に渡すだけだ。

 識字率だけはそれなりに普及しているので読めない者はあまりいない。

 リステリアはメニュー代わりとなっているそれを興味深そうに見た後、店内を見回す。目新しいものを探して。

 てきとうに時間を潰した彼女たちの前に、まず二つの定食料理が置かれた。

 それは“青空定食”。

 味付けのされているステーキが中心にどかんと置いてあり、その隣には卵料理がある。

 お吸い物がその皿の隣にあり、反対側にはパンが二つ置いてあった。

 ただし、片方はお子様でも食べきることが出来るように少量であった。


「美味しそう⋯⋯」


 ステーキの匂いが彼女の鼻孔をくすぐる。

 もう待てないとばかりに、腹がなり彼女の頬は紅葉に染まっていく。それと同時に恥ずかしさを紛らわすためか、彼女はステーキを口に放り込んだ。

 ステーキはサイコロのように細かく切り分けられていた。

 彼女が口に含むのを見て微笑みを浮かべていたビレッツェもまた、食事をしていく。

 少しの間、沈黙が支配した。


「⋯⋯ごちそうさまでした」


 手を合わせて半ば癖となっている挨拶を紡ぐ。それを見たビレッツェは小首を傾げるが、すぐに里のしきたりなのか、と判断して深く追求はしなかった。実際は違うのだが。


「さてっと、次は調理器具だね!」

「そうじゃの」


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