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第2話 妹

だが、彼女は諦めない。新しく生を受けたのだからと必死に足掻く決意をする。


「僕は、絶対に生き延びる」


 転生したばかり⋯⋯記憶を取り戻して僅か数分ではあったが、彼であった彼女が決意するには十分な時間である。

 彼女は決意を瞳に宿らせ、これから森の奥へ移動した場合の時間を憶測で計算する。それは一度死んだ時の記憶を元にしたデータを使用して。


「たぶん1時間くらいだよね。それだけの時間でどうしろと⋯⋯」


 まずは考えなければならない。行動を起こすと言うのも良いのだろうが、現時点でそれをするのは悪手であるということは彼女でもわかっている。

 彼女はすぐに思い至る。何が自身の記憶を甦らせ、そして生き返らせたのか。


「龍脈の力⋯⋯」


 彼女は前世を思い出すより前の記憶を漁る。そこには両親が熱心に見せてくれていた魔法が多々あり、そのどれもがこの幼い体、あるいは脳が覚えている。

 しかし魔法を使うことは出来ない。リステリアはまだ“魔力”を感知出来ていないのだ。

 通常、体内にある“魔力”を感知するためには特別な訓練を受けるもしくは時期が来るのを待つか。その二択のみであり、この里に限って言えば後者しかない。


「魔力⋯⋯魔力はあてにしないほうがいいか」


 彼女は不確定要素を排除していく。

 彼女の“リステリア”としての記憶によって知ることが出来た。その内容は魔力を感知出来るようになるのはおおよそ7歳。そして魔力が強ければ強いほど早く、彼女の体の魔力は多量にあったが4歳児では早すぎた。

 よって彼女は龍脈の力のみを頼りにする。


「おとうさん、龍脈の力、使い方教えて?」


 彼女は出来るだけ教えてもらえる可能性が高くなるよう、精いっぱいのかわいげを出した。


「いや、まだ無理だろう。魔力も感知出来ていないのだから」

「どうしても、お願い。ね、いいでしょ?」


 愛娘の可愛らしい動作に唸る父親。そして。


「わかった。ただし、気を付けるんだぞ?」

「ありがとう!おとうさん大好き!」


 彼女は無意識的に父親へ抱き着いた。それは彼女にとっても父親にとっても予想外の行動であり、すぐに彼女は離れた。


「(ど、どうして、体が勝手に⋯⋯)」


 その動揺はすぐさま振り払うことが出来た。

 彼女は抱き着いてしまった父親が気持ち悪いとも思える笑みを浮かべており、それは生理的に受け付けないものだったから。


「まず、龍脈の力は地を網の目のように流れている力のことを言う。これは本来、魔力を使って反発させ、そして徐々に慣れて行くんだが⋯⋯。リステリアはまだだからなあ。どうしたものか⋯⋯」


 彼女は父親の言葉を一言一句暗記していく。それはいずれ必ず必要になるだろうと思っての事。とにかく死なないようにしなければならない彼女にとって、父親が考え込む時間はどうしても無駄と判断してしまう。


「とにかく、地を流れる力を感じ取ってそれを自分の体に一度取り込む。それから魔力を練るのと同じように練って使うんだ」


 彼女が魔力を感知出来ないと知っていながら、あえて魔力を引き合いに出す。

 魔法とは便利ではあるが、同時に危険な産物でもあるのだ。それをリステリアは身をもって知っているが、彼女の両親は忘れている。否、知らないのだ。

 父親の言葉を聞いていた彼女は不意に疑問に思ったことを口に出した。


「じゃあ、お母さんはどうして使えないの?魔力で感じ取れるなら使えるんじゃ⋯⋯」


 父親は苦笑いを浮かべて答えた。


「あー⋯⋯。あいつはこの里の者じゃないからだ。この里はな、龍人族っていう種族が住んでいる里で、ほら、父さんは金髪に黄色っぽい瞳だろう?他の里の皆も。でも母さんはどうだ?」


 彼女は咄嗟に周囲を見回した。現在は家の中にいて両親以外に誰もいないのだが、それでも反射的に見てしまう。

 しかしそうせずとも、“リステリア”としての記憶が彼女に教えた。

 記憶の中で、確かに彼女は母親以外の人間は全て金髪に黄色っぽい瞳をしていることに気付き、母親を直接見た。

 母親は流れるような銀色の輝きを放つ長髪で、瞳は蒼い光を発している。


「じゃあ、僕は?僕はどうなってるの?」


 彼女は父親に詰め寄っていく。それに若干後ずさる父親だったが、愛娘の突進を受けない父親がどこにいるだろうか。


「リステリアは母さんと一緒だ。でもな、龍脈の力は使えると思うから安心していいぞ」


 そのことにほっと息を吐く。もし龍脈の力を使えないのであれば、確実に死を免れることは出来ないであろうことは明白だ。

 彼女は目を瞑り集中する。地を流れる力の脈動を感じ取るため。

 しかし彼女は幼い。まだ4歳であり、あと数週間すれば5歳ではあるがほとんど変わらないだろう。

 幼い彼女はやがて眠りについた。

 彼女は気付いていない。

 とっくに、死ぬはずである時間が過ぎていることに。



「んん⋯⋯ここは⋯⋯。そっか、転生したんだ。僕」


 彼女は目を覚ます。

 しかし、それは“二回目”の目覚め。

 すぐに“リステリア”としての知識、経験、記憶が彼女の脳内へと直接流し込まれる。いや、違う。彼女の知識、経験、記憶が“リステリア”に流れて行く。

 彼女は少しの間頭痛にうなされた。


「いっつ⋯⋯なんだったの、今の」


 瞼を上げて周囲に変化がないことを確認する。

 だが彼女の統合された記憶には“二度目”の死に際があった。


「どういうこと⋯⋯これ。また、死んだ?」


 彼女は寝ている間に無呼吸状態へと陥り、そして死んだ。文明が未発達なため無呼吸に陥った場合の対処法など確立されておらず、寝ている間であれば叩き起こして呼吸させるというものが一般的。

 彼女の体はよく眠っていた。起こされていることに気付きもせずに。


「でも、僕は在る」


 なら、まだ行けると“彼”の部分がそう叫ぶ。

 彼女は父親から教わったことをキチンと覚えていた。どうやら前世での記憶のみではなく、死ぬ前の“リステリア”としての全ても引き継いでいるらしい。

 そして、気付く。


「デジャヴ⋯⋯?なにこれ、どういうこと⋯⋯。微妙に記憶が違うっ」


 彼女は痛む頭を押さえ、若干の齟齬の生じている記憶をゆっくりと、“彼”の部分に吸収していく。


「ふぅぅぅ⋯⋯」


 深呼吸をしてふと彼女は周りを見る。これまでの様子を両親が見ていたら、と思うと気が気ではなくなってしまったのだ。

 その心配は杞憂であり、両親は家の中にいなかった。

 そしてそのことにも違和感を感じた。


「今はそれどころじゃないか。タイムパラドックスをどうにかして、生きないと。死ぬ度に生き返らせられるなんて、地獄だ」


 それは一種の不死であり、不老でもある。だが彼女は、彼女たちはそれを望まない。


「私は、お父さんとお母さんの悲しむ顔なんて見たくないっ!」


 “彼”の部分が驚愕に染まる。

 それは勝手に口が開き、思考が一瞬隔離されたかのように思ったからである。

 彼女は首を振る。今はそれどころではないと。もう死ぬのは嫌だと。もう、両親の悲しむ顔を見たくはないと。


「まずは龍脈の力だ。それを手に入れないと、話にならない」


 彼女は床に手をついて、出来るだけ感じやすくなるよう考える。

 でもそれが功を成すことはない。何故なら地を流れる力というのは龍人族の感覚であり、実際には世界そのものでもあるからだ。

 その先入観がいけないのだが、彼女はまだ気付かない。


「もうちょっとな気がするんだけど⋯⋯でもやっぱりわかんない」


 彼女に半ば諦めの気持ちが浮上する。だが、もう1人の彼女がそれを叱咤した。


「それでもやらないと、ダメ」


 彼女は動き出す。もう二度と死なないように。

 だが、既にその時間がやってきた。やはり1時間足らずでは圧倒的に短く龍脈の力を感知することすら出来ていない今の状況では、一体いつになればそれを手にすることが出来るのか不明である。


「うっ⋯⋯頭、痛い。なんで⋯⋯?今回は、寝てもなかったし、外にも出てない。なのに。どうしてっ」


 それが、今回の彼女の最期の言葉となった。

 そして、彼女の中では瞬時に再覚醒が始まる。それは新たな生を意味し、新たなる“リステリア”に宿ることを意味している。


「また、頭痛い。それに、また記憶がちょっと違ってる。どういうことだろう⋯⋯」


 彼女の中に、また一つの知識、経験、記憶が蓄積される。


「ダメだ。そんなこと考えてる暇なんてないんだ。何をしていても絶対に死んでしまう。なら、出来るだけ早く力を手に入れるしかない」


 彼女は今一度決心した。もう何度目となる決心なのか彼女自身わかっていない。

 彼女は前回の生でしたように、地に手をつけて力の脈動を感じ取ろうと努力する。


「ん⋯⋯?さっきより、近い気がする。もう少し、あと少し手が伸びれば届きそうなのに届かない!あと、少しなのに!」


 彼女は涙を流し、叫ぶ。それは今回の生において家の中にいた両親を呼び出す結果となった。


「どうしたんだ!大丈夫か?」


 父親が駆け寄ってきて彼女をあやす。けれど泣き止まない。それに見かねた母親は、父親に一言断ってリステリアを抱きなおした。


「リステリア。大丈夫よ。安心して。私たちがついているからね」


 ひどく安心する声音で、父親と違い母親の体は暖かく柔らかくて、彼女たちの意識を深いところへ埋没させた。彼女の“彼”の部分は、この後また生を受けるのか、それとも今度は生き返らないのか、不安が胸中に漂っていた。

 次に目覚めた時、彼女の不安は的中せずにまた生き返っていた。場所は家の中ではなく外。そして、また別の記憶がインプットされていく。

 その記憶は前回までのように、夕食や朝食のメニューが違うなどと言った小さなことでは無かった。

 それは、妹がいるという記憶であった。


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