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5.party

5. party


地上に出ると、木々で閉塞的だった森が逆に開放的に感じられた。

感覚とは本当に比較だ。

更に、先ほどまでは見られなかったものもあった。

精霊たちの青白い光が舞い踊る。

その光が魔物の亡骸のひとつひとつに宿り、その魂を慰めるかのように暖かく包み込む。

精霊も魔物も人も、命は一緒。

その尊い命の冥福を祈る。


「しかし驚きだね。フォレストクレーテがマナを使えたなんて。」

シンは穴深くでフォレストクレーテの子に会ったこと、その言葉が聞こえたこと、そして亀の子はエドナとロゼリアの声が聞こえるや否や、道の側面に穴を掘って潜って消えてしまったことを話した。

ロゼリアも非常に興味深そうに聞いた。

「まあ簡単に言うと、あんたの中のマナの流れに言葉を書き込んだんだよ。」

「なんだか不思議な気分だね。親の敵討ちでもされるのかと思ったよ。」

シンが溜息をつきながら言う。

亀の子についていくのは、一か八かの選択だったのだ。

ロゼリアが言うには、フォレストクレーテはシンの中のラクシュミのマナを利用して言葉を伝えていたそうだ。

あの美しい精霊にはいつも助けられてばかりだ。

「これは、近々魔物と会話する技術が開発されるねえ。」

ロゼリアが楽しそうに言う。

完全に他人事である。


精霊の慰霊の乱舞にしばらく見とれていると、足音が聞こえた。

人のものだろう。複数だ。

声を殺してはいるが、話し声も聞こえる。

どのような問題も同種、人間が絡んでくると複雑になる。

良い展開、悪い展開。

様々な未来が予想できる。

3人が身構えていると、茂みから恐る恐る、若い男性が顔を出した。

「あのう、どなたか存じ上げませんが、魔物は・・・?」


「そうだったのですか。イーストポートも手を打ってくれていたのですね。」

若い男性が安堵の溜息をつく。

現れた人間はふたり。

壮年の男性と二十歳を過ぎた程度の若い男性で、森の北にあるアティカの村から魔物の偵察に来たという。

アティカはこの森に最も近い村で、その分魔物に対する警戒も強かったのだろう。

イーストポートに行くには森を通る必要があるため、このふたりがまず森に偵察に行き、イーストポートと連絡を取るか、自分たちだけで対処するかを判断するつもりだったそうだ。

壮年の男性が重ね重ね感謝を述べる。

「アティカは小さな村での、村の守護は十数人の村兵と二頭の竜で行っておる。だが今はその一頭が村を出ておってな、あまり大きな戦闘は行えぬのだよ。」

魔物との共存。

ユーラビアでは力の弱い魔物や従順な性格の魔物を人間が手なづけるような形でしか魔物と共に暮らすことはないが、ヤシナでは一部の魔物が人と対等な関係で生きる。

竜、という言葉にエドナが反応する。

「竜がいるのですか!見てみたいです。」

壮年の男が笑いながら答える。

「嬢ちゃん、竜を見たことがないかね。そうだよお三方、北に向かうのならばアティカで少し休んでは。歓待しましょうぞ。竜は夜は眠っておろうが、朝には会えよう。」

シンとロゼリアも賛成し、5人は森を発った。


アティカの村は森からそう遠くなく、昼下がりに森を出発して、ちょうど日暮れ近くに村に到着した。

数人の村人、残りの村兵であろう人たちが出迎える。

男性ふたりが経緯を説明する間、3人は周囲を見回していた。

建物は全て木造。

屋根は枯れた植物を利用しており、馬や走鳥が放し飼いで草を食んでいる。

その馬や鳥たちを、犬のような魔物がゆっくり追い立てていく。

小屋に帰る時間なのだろう。

その犬の魔物の子供であろう、同じ色の子犬のような魔物が、人間の子と戯れている。

「のどかな所ですね。ウユニより、もっとのんびりしてますね。」

エドナが目を細めて言うのに、シンが返す。

「本当だね。イーストポートみたいな街にはあまりいなかったけれど、魔物も普通に一緒に暮らしている。」

魔物と人の子が遊ぶのを見ていると、先ほどの若い男性が駆け寄ってきた。

「何もない村でしょう。」

決まりが悪そうに言う男性に、シンが返す。

「のどかだね。住みやすそう。」

若い男性は同意し、村の奥を見やって言う。

「今宵は祝宴です。是非いらしてください。」


静かでのどかに思えた村の食堂は歓声に満ちあふれている。

「二百もの魔物を、たった3人で!あなたたちは強いんだなあ。」

「ユーラビアから来たのか。向こうはどんな所なんだ。」

「食べ物はどっちが美味しい?」

5、6人の村兵と、また同数の村人と談笑する。

シンは村の生活や魔物との共生のしかたについて興味深そうに聞き、エドナもそれを聞いて感心しつつ、女性の村人から伝統料理について話を聞いていた。

森で出会った壮年の男性が瓶を持って近づいてくる。

「お、酒かい?」

敏感に反応したロゼリアに、シンが苦笑まじりに言う。

「ほどほどにしときなよー。」

「ロゼさん、お酒飲むのですね。」

エドナが興味津々に言うので、シンが軽く制した。

「未成年はだめだよ。」


間もなく日付が変わる。

いい加減眠くなったのか、シンが席を立った。

エドナもそれに続く。

「みなさん、今日はありがとうございました。」

エドナが丁重に挨拶をすると、すっかり酔いが回った村人たちが手をひらひら振りながら答える。

「また明日な、嬢ちゃん!」

「そこの彼、夜道だぞ、しっかり守れよ!」

エドナは例によって慌て、シンは会釈で軽く流した。

ロゼリアの方を見ると、酔いが回ったのか、村人と何やらわからない話題で盛り上がっていた。


夜道と言っても宿は食堂からほど近い。

エドナが楽しそうに言う。

「この土地は温泉が出るのですよね。」

「宿にもあるみたいだね。部屋のある建物の隣だって。」

山がちなヤシナでは各地で温泉が湧く。

食堂での宴会で温泉について聞いたエドナは、それが楽しみで仕方がなかった。

宿に戻るやいなや、温泉に直行した。


温もった後、シンは部屋で剣の手入れをしていた。

今日は久しぶりに沢山切った。

やはり、魔物も人も同じ命だ。

生き残るためには仕方のない事と、割り切るべきことではある。

だが、こうしてゆっくりと剣の手入れをする時だけは、それで奪ってきたものに祈りを捧げる。

冥福を祈る。

思索に耽っていると、外の廊下で足音が聞こえた。

何かに迷っているのか、行ったり来たりしている。

大方、隣のエドナだろう。

何をしているのだろうか。


温泉は素晴らしいものだった。

広い湯船、立ち込める湯気。

つい長居をしてしまい、出ようとした時にはのぼせかけていた。

後は部屋に戻って寝るだけ。

明日はきっと竜に会えて、そして北を目指して出発する。

だが、部屋の取っ手に手をかけて気がついた。

「鍵、持っているの、ロゼさん・・・。」

ロゼリアは今頃村人と酒を片手に大盛り上がりしていることだろう。

あの様子ではまだしばらく終わりそうにもない。

どうするべきか。

宿の主人はもう眠ってしまっている。

食堂に行ってもロゼリアとまともに話ができるとは思えない。

むしろ、シンがいない状態であの空間に飛び込もうものならば、つかまることは間違いない。

落ち着かず、部屋の前でうろうろしながら考える。

と、隣の部屋からシンが顔を出した。

「エドナ、何しているの?」


忘れていた。シンの部屋は隣だった。

エドナは恥ずかしそうに状況を説明した。

「今ロゼにもらうのは厳しいね。」

シンが苦笑しながら言う。

少しの間を置いてからシンは一度部屋に入り、いくつかの荷物を取って出てきた。

「それじゃあ、アティカの夜を少し散歩しますか。」


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