2.again
2. Again
朝鳥が鳴き交わす。
シンとエドナは宿を発ち、再び街の中心部に向かっていた。
「眠そうだね、エドナ。」
エドナが目をこすりながら答える。
「部屋の窓から外を覗くと精霊が沢山舞い踊っていて、見とれていたら・・・朝が来ました。」
シンが苦笑しながら答える。
「僕もしばらく見ていたけれど、いつの間にか寝ていたよ。足元気を付けてね。」
何となくふらつきながら歩くエドナに注意を促す。
と、前方の木のかげから小さな何かが飛び出し、エドナにぶつかった。
転びそうになるエドナをすかさずシンが受け止める。
「ごめんなさいっ」
足元でウサギほどの大きさの精霊が上を見上げている。
姿もウサギと人の子を足して2で割ったようでかわいらしい。
「精霊だね、こっちもあまり前を見ていなかったよ、ごめんね。怪我はない?」
「うん、だいじょーぶ。おねーさん、ごめんなさい。」
精霊はエドナを見上げて言うと、忙しそうに去って行った。
「エドナ、大丈夫?」
シンが抱き留めたままの姿勢でエドナに尋ねると、エドナは両手で顔を覆ってその場にへたり込んだ。
「エドナ!?」
「びっくりしたよ、どこか怪我したのかと思った。本当、どうしたの。」
シンが笑いながら言う。
木陰の長椅子に並んで座るエドナは明後日の方向を向いて答える。
「なんでもないです!本当に、何でもないのです。か、かわいい精霊でしたね、ネコみたいでしたね!」
「ウサギみたいに見えたけど。」
やけに落ち着きが無いエドナを不思議に思いつつ、シンが言葉を重ねた。
「天気が良いですね!」
「そうだね。」
気を紛らわそうとがむしゃらに言葉を放つ。
眠気は彼方に旅立って行った。アデュー。
「ところで、さっきの精霊は何をあんなに急いでいたんだろうね。大丈夫かな。」
言いながらシンが立ち上がる。
エドナも続いて立ち上がった。
「ちょうど今、私たちが向かっていた方向・・・広場の方に行きましたよね。」
「そうだね。行ってみたらわかるかもしれない。」
再び街の中心部に向かって歩き出す。
街の中心部は昨日と同様に賑わっていた。
だが、噴水のある広場に出ると商店の賑わいとは異なるざわめきが聞こえた。
『やはり危険です、考え直してください。』
『あなたに万一のことがあったら』
『でも、街の事を考えるとやはり衛兵を駆り出すのは』
『うるさいねえ、じゃあどうするっていうんだい。私は現地に行けない、この子の住処は潰される。』
「ん。」「え。」
シンとエドナが同時に声を上げる。
「全く状況が読めないのだけれども。」
シンが苦笑する。噴水横の人だかりの中の一人がこちらに気づく。
「あんたら、何でこんな所にいるんだい!」
艶やかな巻き毛を揺らしながら背の高い女性が歩み寄ってくる。
「ポルトメアから南に下るんじゃなかったのかい。」
「ちょっと色々あってね。ロゼこそ一体何をしているの。エジノバでの仕事は大丈夫なの?」
ロゼリア。エジノバでの術式を用いた医療をしている、優秀な術式学者。
「ヤシナでひとつ、精霊調査を依頼されてね。エジノバの方は代理を呼んであるよ。王都リュージュからそこそこ出来るやつが来ている。」
ロゼリアはシンとエドナが出発してすぐにヤシナでの調査を依頼され、飛竜を使ってこのイーストポートに来ていたらしい。
エジノバを発ったのが昨日というのだから、本当に飛竜は速い。
シンもヤシナに来た経緯を簡単に説明する。
「全く、偶然ってのは本当にすごいもんだね。」
「ところで、大丈夫?街の人たちと何か話している途中だったよね。」
ロゼリアは溜息をつきながら答える。
「どうにもこうにも、話が一向に進まないんだよ。私がここに来たのは、北のオミレっていう街の精霊を調査するためなんだ。だけどねえ、オミレに行くには森を避けて通れない。その森の魔物が最近変でね、嫌に凶暴化しているみたいなんだよ。移動が危険だっていうことさ。更に、だ。あそこに小さい精霊がいるだろう。」
ロゼリアが噴水横の人だかりを指さす。
そこには先ほどのウサギ精霊がいた。
エドナがあっと声を漏らす。
「街にいないタイプの精霊だと思って声をかけてみたら、魔物が居ついた森はあの子の住む森だって言うんだ。今は仲間が魔物を抑えているみたいだけどね、あまり長くはもたないだろうよ。あの子はこの街に助けを求めに来たんだ。」
「つまり、森の魔物を討伐してから北のオミレに向かいたいんだね。」
シンが話の骨子を要約する。
「そういうことさ。でもね、街の衛兵を討伐に参加させることはできない。逃げた魔物が街に来たら大変だからね。なら私がひとりで行くって言っても、危険だって言って承諾されないんだからどうしようもないよ。」
ロゼリアが溜息をつきながら状況説明をする間にも、精霊がただうろたえながら人々を見上げている。
シンがロゼリアに向きなおる。
口を開こうとすると、
「手伝ってくれるんだろう。」
ロゼリアが勝ち誇った表情で言う。
さすがだ、考えが読まれている。
「恩に着るよ。じゃあ私たち3人で森を叩く方向で話をつけておくから。出発は早くて明日だよ。また連絡する。」
ロゼリアが噴水の方に戻って行った。
まるで台風だ。
「こんなに早くに、また3人で旅ができるなんて思っていませんでした。」
エドナが嬉しそうに言う。
「そうだね。まさかこうなるとは夢にも思っていなかったよ。」
シンも笑う。
精霊が運ぶ穏やかな風が吹き過ぎていった。
ありがとうございましたー。
今回は普段の半分サイズくらいになってしまいました。
3人揃いました(^^)