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47奴目 イクトは行く

 山を転がり落ちるように駆け下り、約十分後には町の入り口に設置されたアーチを潜った。

 レイクたちを乗せた馬車はもちろん見えない。

 もうオークションの会場、あの路地裏に運び込まれていることだろう。

 一刻も早く行かなければ。行って、助けなければ。

 俺は笑う膝の口を塞ぎ、地面を蹴った。


「けどイクト、具体的にはどうするの? こんなことは言いたくないけど、あなたが行ったところで何ができるとも思わないわ。手足には鍵付きの重たい鎖。更には檻にも入れられてると見て間違いない」

「分かってるさ。だからライム、俺にお前の力を貸してくれ」

「わたしの力を?」

 どういうわけかアリスさんはライムを連れて行かなかった。

 予想するに、忘れていたのだろうけど。

 今でこそこうだが、少し前までのライムは存在感が非情に乏しく、記憶に残りにくかった。

 そしてそこにリフォンがやって来た。

 アリスさんにとって店の商品は四人。

 だからライムとリフォンが、あの人の中では入れ替わってしまったのではないだろうか。

 まあ何であれ、あの人が雑な性格で助かった。

 そうでなければ、俺はきっと今でも店で立ち尽くしていたはずだ。


「これはなライム、何となく皆に聞いてるんだけど、お前どうやって牢から抜け出してる?」

「牢の鍵と同じ形に体の一部を変形させてだけど?」

「だろ? つまりそういうことだ」

 レイクたちの手足の鎖も、檻も、それで全部開けられる。


「だけど開けてどうするの? その後は?」

「さぁな、分からない。考えてる暇もない」

 でも何とかなるだろう、なぜかそう思える。一人じゃない、皆がいれば。


「だからライム、お前の力を貸してくれ」

「……馬車よ」

「誰が馬鹿だ! 確かに馬鹿なことしてるとは思ってるけど!」

「何度聞き間違えるの!? そうじゃなくて馬車!」

「ああ、馬車ね」

 オークション会場へと続く路地裏の入り口には、見覚えのある幌馬車が横付けされていた。

 荷台を覗いてみるが中にレイクたちはいない。

 やはりもう会場に連れて行かれている。


「行きましょうイクト。どうせ放っておいても売られる運命、ならばこの身体、あなたに全て委ねるわ」

 ありがとう。そう言って俺は一歩、高い建物に挟まれた狭い路地へと足を踏み入れた。

 突如一変する空気。

 嫌な冷気が頬を撫でる。

 それと同時に心臓がドクンと跳ねた。

 俺が今やろうとしていること、そしてその行動がもたらす未来。

 責任とプレッシャーと緊張で重たくなっていく足を、何とか前に進める。

 幸いなことにまだオークションが始まるには時間があるのか、路地に人は見当たらなかった。


「これなら案外簡単に助けられるかも知れないな」

「いえ、待ってイクト。誰かいるわ」

 テレパシーで感じ取ったのか、ライムが声で俺を制す。

 こっそりと覗いてみると、オークション会場である空き地には、見張り役なのだろう四名の男が輪になって談笑していた。

 レイクたちがいるはずのテントは、彼らの後ろ。


「正面突破は無理そうだな。これじゃあテントに近づけないぞ、どうしよう」

 後ろに回り込もうにも、正面以外の三方は建物で囲われていて不可能だ。


「大丈夫、わたしに任せて」

「任せてって、でもお前テレパシーは使えてもテレポートができるわけじゃないんだろ?」

「そうね。でもデレることはできるわよ?」

 デレたところで気付かれずにテントには近づけないだろう……。


「近づけるわよ、見ていて?」

 言うが早いか、ライムはなぜか空に向かってビヨンと伸び始める。

 ぐんぐんぐんぐん伸びていって、やがて路地を挟む建物の屋根へと到達した。


「さあイクト掴まって? この建物の屋根伝いにテントの真上まで行って、そこからまた下りればいいのよ。それなら気付かれずに近づけるでしょう?」

「なるほど、そんな手があったか」

 亜人でなければ、咄嗟に思いつけるような手段では到底ない。


「でもそれとデレにどんな関係が?」

「わたしがあなたにデレていなかったら、あなたのためにこんなことはしなかった。そういうことよ」

「そ、そういうことね」

 照れくささを隠そうと、俺はロープのように垂れ下がったライムの体を急いで掴んだ。

 それを確認すると、ライムは縮んでいく。

 そして俺はあっという間に屋根へと到達した。

 高さは四階建てマンション相当。

 違う意味で緊張しながら屋根を渡り、テントの真上へと移動する。

 そこからまたライムの力を借りて下へと下りた。


「お前ら無事か!?」

 布を捲ってテントの中に侵入すると、そこには縄で体をグルグル巻きにされ別々の小さな檻に入れられたレイクたちの姿が。


「やっと会えた……」

 その姿を確認した瞬間、思わずそんな言葉が口から漏れ出る。

 ついさっき別れたばかりなのに、まるで何年ぶりかに再会したかのような心境だった。

前回の更新より間があいたこと、お詫び申し上げます。

そして、今回も読んでいただきありがとうございました。


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