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45奴目 ライブラリをライムとぶらり

 そんなこんなで朝食を食べた後、図書館へと足を伸ばすこととなったわけだが。

 初めてレイクと町に来たときには結構時間もかかったと思ったし疲労も溜まったものだが、何度も通って慣れたからか、体感ではあっという間に図書館が建つ大通りへと辿り着いた。


「それにしても、何だか店を開けるより店を空けることの方が多いような気がするなぁ」

「今日は定休日なんだしノーカウントよ」

 連れて歩くライムがそうフォローを入れてくれる。

 いや、連れて歩くと言うか、正確には付けて歩くと言うべきか。

 何せライムはマフラーのような形になって、俺の首に巻き付いているのだから。


「まあな。そうだ、レイクはそうだったんだけど、お前も町にはあまり来たことがないのか?」

「ええ、あまりと言うか、初めてね」

「そうか。どうだ、町を見た感想は」

 レイクを連れて来たときは、まともな感想を一つも聞けなかったが、ライムならそうはならないだろう。

「そうね、とってもステキよ。山の上もいいけど、ここには色んな声や色んな色、色んな香りが溢れていて、歩いているだけでも心が躍るわ」

「そうだよ、そういう感想が欲しかったんだよ」

 これでこそ、町に連れて来たかいがあるというものだ。


「ただイクト、さっきから疑問に思っていたんだけど、あれは何かしら」

 マフラー型になって俺に巻き付いているライムは、そこから手だけを形作り方向を示す。

 彼女が示したのは、大通りから脇道に入って行く鎖に繋がれた人の行列だった。


「ああ、あれか……あれは多分、大奴隷市をやるんだろうな」

「大奴隷市? それは何かしら」

「俺も少し前に知ったんだけどな、あの路地裏の途中に小さな空き地があって、そこで定期的に奴隷のオークションをしてるんだと」

 よりによってライムを連れている今日がその日とはついていない。

 見せたくないものを見せてしまった。

 そんな俺の心の内を察したのかそれとも読んだのか、彼女はそれ以上、この話を広げようとはしなかった。


「さぁライム着いたぞ、これが図書館だ」

「これが話に聞く図書館。まるで神話の神殿みたいだわ」

 青くすら見えるほどに白い壁と、宝石をちりばめたかのような彫刻を施された柱によって完成された風格のある建物を前に、ライムは感嘆の声を漏らした。


「それにとっても大きい。この中に本が置いてあるのね?」

「ああ、それも端から端までな」

「凄いわね、一体どんな美味しい本が置いてあるのかしら」

 面白いではなく、美味しいと言うライム。

 実は彼女、餅型の頃は水以外の一切のものを摂取しなかったのだが、人型になり俺達と一緒にテーブルを囲むようになって、あるものを食べるようになった。

 それは本である。

 と言っても本当に図書館で借りてきた本を食べてしまうわけではなく、その借りてきた本の内容を俺が他の紙に書き写したものを食べているのだ。

 食事ならぬ、まさしく食字。

 彼女はそうやって毎日知識を食べて、知識を溜めていくのだ。


「さぁイクト、早く入りましょう。早く参りましょう」

「はいはい参る参る」

 俺は入り口の横に立つ槍を持った警備員の男性に軽く会釈をし、中に足を踏み入れる。

 図書館の中は外の喧騒とは打って変わって、本のページを捲る音が隅々まで響き渡るんではないかというほどに静寂に包まれていた。


「わぁ……本がこんなに。ここは夢のような場所ねイクト」

 図書館のマナーは知っていたのか控えめな声で感想を述べたライムだったが、興奮は抑え切れなかったようで、早く本を探しましょうと俺を急かす。


「焦るなって、本は逃げやしない」

 まあ気持ちは分からなくもないが。

 俺もここに初めて来たときは、三階ほどもある高さの壁一面にびっしりと本が並べられたこの光景を見て、正直テンションが上がったものだ。


「さて、まずは飛び方についての本を探すか?」

「そうね、そうしましょう」

 俺は案内板で亜人関係の本が並ぶ棚の位置を確認し、そこへと向かった。

 しかし残念なことに『デュラハンの頭と胴には別々の精神が宿るのか』という本格的な研究書。

 『処女を散らしたユニコーンの末路』という大衆小説。

 そして『スライムに心を読まれないための五つの準備』というハウツー本。

 果ては『マンドレイクをより好色にする育て方』などという煩悩垂れ流しの本まであったが、グリフォンの飛び方についての本はなかった。


「グリフォンについての本で、あったのはこれだけか」

 『いかにしてグリフォンの家族は大金を手にしたか』

 中身は、グリフォンの一家がトレジャーハントで大金を稼いだ実体験が記されているだけ。


「どうするライム、亜人関係以外の場所も探してみるか?」

「……そうね」

 自分で本を借りに行こう提案しておきながら、どこか上の空な返事をするライム。


「どうした、何かあったのか?」

 そう尋ねると、彼女は俺が本棚に戻した『いかにしてグリフォンの家族は大金を手にしたか』というタイトルの本を、再び取り出した。


「ねえイクト、家族って、一体どんなものなのかしら」

「家族?」

「ええ、わたしには家族がいない、家族の記憶がないから」

 特に暗くなるでもなく、いつもどおりの声音でそう話す彼女。


「もちろん知識としての家族は知っているわ。父、母、兄弟、姉妹など、住居を同じくし生活する集団ね。でもね実際それがどういうものなのかまったく分からないの。知識にはあってもやっぱりわたしにとって父は父ではなく未知だし、母は未知子なの」

「未知子なの!?」

「それに兄や弟、姉や妹も、やっぱり皆未知子なの」

「皆未知子なの!?」

 父以外皆未知子なの!? と言うか未知子って誰だよ!


「まあ冗談は置いておいてイクト、教えてちょうだい? 家族って一体どんなものなの?」

 どうやら何か思いつめているわけではなく、純粋に疑問に思っているだけらしい。

 きっと今まで心の中で不思議に思っていたことが、本のタイトルにある“家族”という言葉をきっかけに表に出てきたのだろう。

 しかし家族ね……いきなりそんなことを聞かれても返事に困る。

 俺にだって分からない。

 今現在離ればなれで暮らしていて、少なからずその存在のありがたみや大きさを実感してはいるけど、それでもそれを言葉で表現するのは、酷く難しい。

 でもだからといって答えないわけにもいかず、ひとまず自分の家族のことを思い出してみようと試みる。

 がしかし初めに浮かんできたのは父の顔でも母の顔でもなく、レイクやニコ、デュアやリフォン、そしてライムの顔だった。


「そうだなぁ、家族っていうのは今みたいなのじゃないか?」

 そしてそんな言葉が、口を突いて出た。


「今みたいなの?」

「……………………」

「イクト、どうしたの?」

「ああいや、ごめん。えっと、今みたいなのっていうのは、モンスターファームの皆との関係みたいなのってこと、かな?」

 バカやって笑って、怒って、喧嘩して。

 一緒にご飯を食べて、遊んで、寝て。

 出て行くときは行ってきますって、帰ってきたらただいまって言って。

 どんなときも、何があっても、当たり前のように傍にいる。

 そういうのが、きっと家族なんではないだろうか。

 正直自分でも何を言っているのかいまいち分からないが、それは家族ではなく仲間ではないのかと思わなくもないが、でも仲間だってファミリーだろう。


「そう……」

 と、俺の言葉を噛みしめるように返事をするライム。


「実はわたしもね、家族って今のイクト達との関係のことをいうんじゃないかって、そうであったらいいなって思っていたのよ」

 そう、そうなのね。わたしにも家族がいたのね。

 彼女はそんなことを、しきりに呟いた。


「ねえイクト、あなたはわたしから見てどういう関係に当たるのかしら?」

「さあな。まあ、父か未知子なら、間違いなく父だろうけど」

「ふふっ、わたしをこの姿にしたのはあなただわ。だからそれはあながち間違いではないのかもしれないわね」

 俺がライムの父?

 例えそうであったとしてもきっと“ちち”とは“ちんちくりん”の略なのだろう。

 レイクなら“ちんちん”の略だとか言いそうだけど。


「そのうえ母も“ちち”だって言い始めるわよ、あの子なら」

 乳だからか。うん、言いそうだから怖い……。


「さて、疑問が解けてすっきりしたわ、他の本を探しに行きましょう」

「ああ……そうだな」

今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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