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40奴目 童貞臭を回収

「そんなわけで、ライムだ」

 教会からお昼の鐘がなった頃、俺はキッチンに全員を集め、少女の姿となったライムを紹介した。


「ライム、でス」

 俺の紹介を受けて、ライムはペコリと頭を下げる。


「ちょっと待ってイッくん、どういうこと?」

 触手ではてなマークを作って、首を傾げるレイク。

 ニコもデュアもリフォンも、同じように頭に疑問符を浮かべていた。

 まあそれはそうだろう。餅がちょっと目を離した隙に美少女に変身していたのだから。


「んっと、だから、吸収した本の中にあった絵を真似て、体を変形させたんだって」

 改めてライムの商品管理リストを読み直してみると、確かにスライムの亜人には変身・変形能力のようなものあると記載されていた。

 俺はそれを読んで、広がったり伸びたりするだけだと勝手に解釈していたのだが、まさかここまで精巧に人間を模してくるとは。

 とは言ってもそれは“外側の形”だけであって、肌の色は餅の頃と変らず青く半透明だし、透けて見える体内には臓器のようなものは見当たらない。


「何でもライムは体内に取り込んだ本の内容を、己の知識として定着させることが出来るらしい」

 これはリフォンの綺麗なものが見つけられる能力と同じく、商品管理リストに記載されていなかったことで、ライムとの会話から得た情報だ。

 そもそもライムの商品管理リストは、年齢性別種族以外のほとんどの欄が空欄となっているのだ。

 アリスさんの職務怠慢か、それともスライムの亜人が未知なのか定かではないが。


「それでこうして、言葉も交わせるようになったんだと」

 まだまだかたことだが。

 でも俺が服を買いに走っている間にも新たな本を一冊吸収してしまったらしく、その本の知識も得て、言葉の使い方が少しうまくなっている。

 ただ本を取り込むだけで成長するなら、そう遠くないうちにライムは普通に会話が出来るレベルに達するだろう。


「いやいやイッくんわたしが聞いてるのは“どうしてライムちゃんが美少女になったのか”じゃなくて、“美少女になったライムちゃんとイッくんが一緒に寝ることになるよね”ってことなんだけど?」

 ニヤッと、いつものように歯を見せるレイク。


「あ、ああ、そうなの?」

 やっぱりそうきたか。咄嗟にとぼけてみせたが、どうしよう。


「それってどういうこと? リフォンちゃんの次は、ライムちゃんと気持ちいいことをしようって腹なのかな?」

 何せ良い言い訳など、一つも思い浮かばなかったのだから。

 こうなったら、何とか勢いで誤魔化すしかない。


「そ、そんなわけないだろ、今の話聞いてたか? 俺が意図してライムをこうしたわけではないんだぞ?」

「意図したわけではないけど、ライムちゃんとの初夜を想像して、イッくんのムスコは糸を引いちゃってるんでしょ?」

「引いてわいわ!」

 引いちゃってないわ!


「本当だろうな、イク」

 ニコの鋭い視線が俺に突き刺さる。


「ほ、本当だよ」

「遠慮せずともよいのだぞ、イクト様」

 デュアの尖った視線も俺に突き刺さる。


「いや遠慮とかしてないって」

 ううむ……まずいな、どんな誤魔化しも効きそうにない。

 このままでは眠れない夜の再来だぞ。

 仕方がない、もう力技で行こう。


「そ、そんなことよりニコちゃん、お前がリフォンに貸してくれていたシャツ、返して欲しいか?」

 必殺話題転換。これでさっきの話が有耶無耶になってくれることを願う。


「当たり前だ、返して欲しいに決まってるだろ!」

「なら返そう。やっとリフォンに新しい服を買ってやれてさ、見てくれよこのリフォンの背中。可愛いだろ?」

 俺の膝に座っていたリフォンを床におろし、ニコ側に背を向ける。

 白いワンピースの背に開けられた二つの穴から黄色い翼が顔を出し、まるで天使のようだ。


「そんなことはどうでもいいからシャツ、早くシャツを返せ!」

「どうどう、分かったから落ち着けって」

「どうどう言うな! ワタシはウマじゃねえ!」

「カウカウ」

「ウシでもねえ!」

 よし、さすがニコ、馬だけにとか言うつもりはないが、うまく乗ってくれた。

 このままさっきの話は、なかったことに出来そうだ。


「それじゃあはい、シャツ。貸してくれてありがとうな」

「ん、まあ返してもらえればそれでいい。ってちょっと待て!」

「どうしたよ」

「このシャツ童貞の匂いがしねえ! 童貞じゃなくて、土手の匂いがする! どういうことだイク!」

「まあまあ」

 そりゃリフォンが散々それを着て泥遊びをしていたんだ、そうもなる。


「まあまあ言うな! ワタシはママでもねえ!」

「…………」

 うまく乗ってきてくれたのはいいけど、ここまで乗り出してこられると対応に困るな……。


「こんな土手の匂いしかしないシャツなんて許さないぞワタシは!」

「いいじゃないか土手の匂いでも、いい匂いだろ? 母なる大地の匂い」

「ママとか母とか、お前はマザコンか!」

「…………」

 こいつは何だ、とりあえず何にでもツッコムというか、突っかかるスタンスなのか。


「おいイク、お前が今着てるシャツを脱いでよこせ」

「ええ!?」

「こっちのシャツは返してやる、それならいいだろ? ほら、お前の好きな母の匂いがするシャツだぜ?」

 母の匂いがするシャツとか、その言い方はマジでやめて欲しいんですけど……でもまあ。


「分かったよ、交換しよう」

 別に俺がマザコンだからではなく、こうしなければニコは収まらないだろうと思っての処置だ。

 いい感じに話を変えることは出来たが、やはり彼女の手綱を握るのは難しい。

 まあシャツが減るわけではないし、泥だらけなのも洗えば何とかなるし、構わないだろう。


「やっほーい!」

 シャツを脱いで渡すと、ニコは喜んでそれを抱きしめ顔を埋めた。


「はぁ~やっぱりこの童貞臭はたまんねぇ~」

 何だろう、本来なら自分のシャツの匂いをかいで異性がうっとりしていたら嬉しくなってもいいはずなのに、いまいち喜びきれないこの気持ちは。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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